家族の軌跡 Ⅳ
視界いっぱいに散りゆく赤と紫。
舞い上がった砂埃が、再度地に落ちた。
それでも、セージゲイズとエレクの表情は晴れない。
理由は単純。
「……エレク、警戒を解かないで」
「――ああ、あれでも死なぬとはな。これは流石に骨が折れる」
眼前には、一体の魔物。
少なからずダメージは入っているはずなのだが、それでも未だ戦闘行為は可能のようで、現在も飛翔を続けている。
その姿を『魔を垣間見る』越しに一瞥したセージゲイズは視線を一切向けること無く、エレクに伝えた。
「エレク、警戒レベルを上げなさい。魔物の魔力が今までの比じゃないくらい活性化しているわ」
「…………了解」
エレクも解析系統の魔法は扱えなくとも、肌で濁った黒色の魔力を感じていた。
魔法少女二人も、負けじと魔力を練り上げる。体外には少したりとも洩らせない。
ただただ練る。敵を屠るための必殺を。
「――――――!!」
先に動いたのは魔物。一拍羽撃いて、瞬間的に加速。
一気にトップスピードに至る。
眼前の敵を刺殺しに掛かる。
それを、魔法少女が許すわけがない。
少女らは左右に別れて回避。
一瞬で離れた敵に向けて、魔物は連続で毒液を射出する。
「「燃えろ」」
異口同音の言の葉。その言葉通り、炎と雷が毒液を即時蒸発させる。
毒液が消されたと理解した瞬間、魔物は次なる一手を開放する。
「――――!」
再度の射出。
けれど、今回は毒液では無い。
「――クソ、針か」
エレクが毒づく。彼女にとっては毒液の数倍は厄介だ。
エレクに針を撃って、魔物はその隙きにセージゲイズに接近する。
「――ッ!!」
迫る噛みつき。その悍ましい内部が視界を埋める。
一撃で己を屠るであろう攻撃に対して、けれど彼女は一步踏み込む。
「セアアァァーー!」
振るわれる腕、否、剣。『炎剣』で羽を切り裂く。
右羽の一部が切られて、陽の光を跳ね返しながら舞い散る。
そのまま、魔力弾を連射して、魔物を後方へと追いやる。
「落ちろ、天火よ」
魔物が飛ばされた位置に、ジャストヒット。
落雷が空気を打ち据える。
それを振り払うように、急加速する魔物。けれど、その速度は幾分鈍い。
だからこそ、その加速は致命へと繋がる。
「『神火の戒め』」
セージゲイズの火で形成された鎖がその身を捉える。
普段セージゲイズが用いる魔力弾と同様に、単純魔力塊を火魔法で覆うことで、物理的拘束力を持った火を作りだす。
更にこの魔法の真価はここからだ。
「――――」
ギチギチと軋む音をさせながらも、魔物は鎖を破壊できずにいた。
そこに襲いかかる烈火。それは、魔物の身体から上がった灼熱だ。
「『術式魔法』『直接火力変換』」
魔法には、必ず術式が存在する。
普段魔法少女は自身が思い描いたイメージを感覚的に魔法として放っているが、その一つ一つにその魔法を形成している術式がある。
セージゲイズは、通常見えないそれを解析することで、術式を恣意的に組み上げての魔法発動を可能とした。とはいえ、解析、術式の組み立ては困難であり、いくつと習得している訳ではない。
セージゲイズは、『神火の戒め』で術式を形成したのだ。
今回の『直接火力変換』は習得している術式の一つ。指定箇所に存在する魔力をただ火に変換する簡単な魔法。
ただ、魔力の塊である魔物にはこれが一番良く効く。
ただし、この魔法で魔物を殺すには魔物の魔力のかなりの活性化が必要不可欠であり、実際に使用する機会はそうない。
身体を、魔力を、魂を、尽く炎に巻かれて、魔物の動きは停止する。
その瞬間を待っていた。
「『起源魔法』」
バチバチと、少女の瞳から紫電が溢れて、耳朶を打つ。
遅れて、杖から、周囲から、雷鳴が全てを満たした。
「『悉皆還す赫灼たる霹靂』!!」
練り上げられた魔力から少女の保有する最強が現界する。
それは、少女の象徴、存在そのもの。
豪雷が降り注ぎ、文字通り悉くを焼き滅ぼす。
紫電が鳴り止んだ時、そこに敵影は無く、激しく焦げ付いた地が在るだけであった。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
この二人の戦闘シーンは書いてて楽しいですね。
こう「魔法少女」してるなぁ、って思います。




