不穏な影 Ⅰ
「――では、また」
守美子の声が、夕焼けの街に消え去る。
4人で、ファミレスに籠もって早数時間が経ち、今回の集まりはお開きとなった。
「姉らしさ」の会話に始まり、守美子の悩みと続いた会話内容は、いつしかただの雑談に変わり(端から雑談だったかもしれないが)、結局全員が全員昔から良く知っている者がいた事で、幼い頃の行動の暴露で羞恥に悶えるはめになった。
「楽しかったねぇ」
「守美子の話、かなり意外なことが多かったわね」
「……えと、えと、楽しかった、です…………」
流れで、感想を述べていく面々。
夕日に照らされた皆の頬は僅かに上気している。
少女らしい休日を満喫した少女たちが、並んで帰路につく。
けれど、魔法少女としての戦いはこれからだ。
アラート。
不快な機械音が魔法少女の意識を劈く。
送られてくる情報の確認。
街中、街一広い公園にて、魔物の出現を確認。
ランクは、A。事実上の最高ランク。
奔る緊張。
すぐさま飛び出す。
「すみません、凪沙! 急用があるので!」
代表して、守美子が断りを入れて、3人揃って、駆ける。
「頑張って! グラジオラス、セージゲイズ、エレク!!」
凪沙からの激励。
お願いだから、公衆の面前では止めて欲しい。
激励を貰った3人は揃って、苦笑を漏らす。
「彼女、どうして知っているのかしら?」
「……身バレ怖い、身バレ怖い、身バレ怖い――――」
「彼女、多分結の正体にも気がついているでしょうね」
まあ、今は気にする必要のないことだ。
体内で魔力を回す。
紡ぐは言霊。彼女らの最強の具現化。
「『その背を追え』」
「『見据えて包め』」
「『彼方まで轟け』」
純白が、透明が、紫電が、迸る。
少女らの身を包み込んで、弾け飛ぶ。
純白の装束を纏い、腰元の帯には左右一組の小太刀『唐菖蒲』を下げた魔法少女――グラジオラス。
紫のインナーに白衣を纏い、『セファー・ラジエール』を背負う魔法少女――セージゲイズ。
黒地のローブと三角帽を纏い、身長に迫る大杖『ケラウノス』を手にする魔法少女――エレクトロキュート・イグジステント。
そこに在るのは、人類の守護者――魔法少女。
沈みゆく火輪、誰そ彼刻に正体不明の戦士が街を駆け抜ける。
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「――あぶなっ……!」
振るわれた広葉樹そのものを大きくバックジャンプすることで避ける。
先程まで生えていた木を振るう手元を狙って、紅は奔る。
粉砕。
幹の中程から吹き飛んだ。
紅を纏う少女――ガルライディアが相対するは、大柄の猿型の魔物。
魔物は公園に植えられた広葉樹を根元から無理やり引き抜いて、即席の武器にした。
ガルライディアは避けているものの、魔法少女は常に対物結界を纏っているため、幾ら魔物が巨木を振るおうと、大して痛痒を覚えないだろう。
木に風穴を開けて、そのまま体勢の崩れた魔物に向けた『フライクーゲル』に魔力を収束する。
撃ち放つは、周囲を巻き込む一撃だ。
「『爆裂』!!」
胴を狙って放たれた魔弾はしかし、狙いから大きく反れることとなった。
以前ガルライディアが遭遇した猿型の魔物と同様に、今回の魔物も木を使った立体機動を行う。
木々を蹴って、飛び回る魔物を狙うのは困難ではある。
実際以前は出来なかった。
けれども、ガルライディアは短い期間ではあるが、研鑽を積み重ねてきた。
「……ふう…………」
態とらしく息を吐き出して、集中力を一気に跳ね上げる。
認識の中に在るのは、魔物と愛銃。音や匂いを置き去りにした世界で一人獲物に向けて、殺意を込める。
一つの『フライクーゲル』を両手で構えて、僅かに射線を調節する。
「『貫通』」
無音の世界に撃発の音が響いた。
パッと、彼岸の緋華が一輪散った。
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