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超高度文明なのになぜ奴隷がいるんですか? 第1話「商人ルカ」

5歳のころ、親父が神族とケモノ族の中立の街「グラノラ」にある奴隷市場に俺を連れて行った。


俺と同じくらいの年かそれより少し年上のケモノ族たちがガラスの商品棚で生活していた。

とても奴隷という絶望的立場の者たちとは思えないような笑顔をこちらに向けている。


無邪気に甘えてくるオスやあざといメスもいる。

ケモノ族たちは特徴としてフサフサの耳があり、丸みを帯びたものや細い耳のものもある。

もう一つはみんな髪が長い。

この「グラノラ」という街を含む一帯のケモノ族の地域は惑星グレイズの北側に位置し、寒冷地となっている。

ケモノ族たちの髪は保温効果を有しており、環境適応の進化の一部と言われている。


ルカ「か、可愛い~!!」


5歳の俺は無邪気にそう言った。


アロー「欲しいか?」


親父、アローが言った。



ーー現在




マルタ「ご主人様!おはようございます!」




朝起きるとケモノ族女の子、マルタが朝食の用意をしていた。

親父が昔奴隷市場で俺に買い与えた白く長い髪と耳が特徴的な奴隷だ。

いつも俺より早く起きている。

奴隷としてはまあ優秀なのだと思う。




ルカ「そのご主人様って呼び方。いい加減やめない?」


マルタ「どうしてですか?」


ルカ「なんか響きが恥ずかしい。」


マルタ「恥ずかしいですか?うーん…どういう事ですか?」


ルカ「例えば母親の事をママって呼んでた子供が成長してママって呼ぶのが恥ずかしくなるのと似てると思う。」


マルタ「うーん、私はママになったことはないのですが、ほとんどのお母さんはずっと子供にママって言われる方が嬉しいかもしれませんよ?」


ルカ「……まあそういう母親もいるかもな。ただ俺は違う。ご主人様ってなんかこう、オタクくさいというか…貴族臭いというか。」


マルタ「でも私を奴隷市場で買ったご主人様はオタクっぽいと思いますよ?」


ルカ「う!!!……」




自分がオタクに好かれる見た目である自覚はあるようだ。




マルタ「しかも昔は寝る時は私と添い寝しないと寝られなかったじゃないですか。」


ルカ「いいいいいつの話だよ!!大体お前らケモノ族の髪は寒い夜にはぴったりの温かさだってことは全世界周知の事実だろ?」


マルタ「ええ。ですからご主人様の奴隷である私はご主人様が添い寝してほしいって言ったらいつでも添い寝しますよ!ご主人様はご主人様なので!」


ルカ「その奴隷って言い方も好きじゃないんだよ。」


マルタ「え?」





奴隷という言葉は俺たち神族が作った言葉だ。

奴隷はその人生の時間を全て主人に捧げる、その者の尊厳も踏みにじるような印象を持つ。

しかしその感覚をケモノ族は抱いていない。

ケモノ族の奴隷たちは奴隷となるべくして生まれ奴隷として生きるのが普通なのである。





ルカ「せめて召使(めしつかい)ぐらいがちょうどいいんだよな。」


マルタ「どうしてですか?」


ルカ「なんか響きがいやなんだよ。」


マルタ「響き?」


ルカ「俺たちは昔から一緒に育った兄弟みたいなもんだ。なのに奴隷なんてひどい響きの言葉で呼びたくない。」


マルタ「うーん、召使はちゃんとお給料を貰っている印象ですけど私はご主人様から報酬をもらっていないので奴隷の方が適切かと。」



なんでこんなに奴隷という立場を養護するんだ???



カンナ「おはよう~…」




髪をボサツかせて食卓に顔を見せたのは寝起きのカンナ。

カンナはマルタの双子の姉で昔奴隷市場でマルタと一緒に親父に買ってもらった。




ーー5歳の頃



ルカ「この双子が欲しい!」


アロー「双子かどっちが欲しいんだ?」


ルカ「どっちもだよ。」


アロー「どちらかにしなさい。」




雪のように白い髪と紅葉のように赤い髪の奴隷を俺はあきらめることができなかった。

神族の街なら室温調節が完ぺきな設備が整っているがこの頃は親父の仕事の関係で北の寒い街を渡り歩いていた。

寒い夜を震えながら過ごすのは限界だった。

しかも二人ならその効果は単純に2倍だろう?




ルカ「パパ、この双子のうちどちらかだけを買ったら二人は離れ離れだよ?この子たちがずっと一緒にいられるのは僕が二人を買うしかない。」


アロー「じゃあ他の奴隷にしなさい。」


ルカ「いや、今僕がこの子を買わないと他の人が片方だけ買って結局二人は離れ離れだよ。」


アロー「うん、なるほどなぁ。しかしこの子たちは奴隷だ。私たちがそんなことを気にすることじゃない。」



俺は双子の奴隷をあきらめることができなかった。

そしてもう一つの感情が芽生えていた。

親父との取引に勝ちたいという気持ち。

親父がケモノ族の街を転々としていた理由は商売のためだ。

俺はいつも親父の横で親父の取り引きを見ていた。

親父なら親らしく息子を躾けるがごとくきっぱりとこの場を去ればよいものを。

今思えばこの時の親父は俺を試していたのかもしれない。



アロー「安心しなさい。この子たちは他の人が買って幸せに暮らすんだ。無理にお前が買う必要はないんだよ。」


しめた。ここだ。


ルカ「パパ、何言ってるの?この子たちは誰にも買われなかったら廃棄処分されるんだよ?奴隷は若いほど高く売れる。商品棚に限りがあるし維持コストもかかる大きい奴隷を長く置いておかないよ。見て他の奴隷をみんな同じくらいの大きさだよ?」



商人のプロの親父が俺を丸め込むために嘘をついた。

嘘は方便なんて言うやつもいるがバレる嘘程格好の悪いものもなかなかない。

実の親父にこんなことを思いたくもないが。



アロー「しかしそれは他の奴隷も同じじゃないか?買われなければ廃棄処分は免れないのはこの双子だけじゃないよ?」


ルカ「あっ、廃棄処分されるのは本当なんだ??」



カマをかけたように見せつつ廃棄処分されることは最初から知っていた。

目的は親父の心を揺すること。

この偽のカマかけも奴隷の廃棄処分も親父の商売取引を横で見ていたおかげだ。


ルカ「それにこの二人に僕の世話をさせれば僕は家に帰って生活できる。パパは商売に集中できる。」


アロー「はあ……わかった。今後は当分贅沢はできないと思えよ?」


ルカ「やった!!」



寒冷の地で毎日震えなくて済むならとその時の俺にはこれ以上ない贅沢だった。


ルカ「あれ?家に帰れるなら双子も必要ないのでは?」



双子があざとくルカを見つめる。



ルカ「まあ……いいか。」





ーー現在




マルタ「お姉ちゃん、今日はお姉ちゃんが朝ごはん作版でしょー?」


カンナ「マルタのご飯がなんだかんだ一番おいしいのよ~。」


ルカ「カンナ、マルタに負担を集中させるなよ?」


カンナ「ルカ!納得いかないわ!なんでルカが家事をする日がないわけ?」


ルカ「なんで俺がやらないといけないんだ?俺はお前らを買ったんだぞ?」


カンナ「買ったのはお父さんでしょ!!」


マルタ「お姉ちゃん。ご主人様にそんなこと言っちゃダメだよ。」


カンナ「ルカがあんまり奴隷っぽく振舞うなって言ったんだからいいじゃない。」



全く、確かにそうは言ったがこんなに生意気になるのは想定外でもある。

マルタとカンナを足して2で割りたい。



俺たち神族の一般市民は生活費の最低限、7万グレースを。奴隷には5万グレースを毎月政府から支給されて生活している。それ以上に贅沢をしたい場合は労働により金を稼ぐ必要がある。とはいえ神族は他種族の文明を圧倒しておりほとんどの仕事が自動化されている。そのため仕事を見つけるのも困難だ。


またそんな文明の中でわざわざ奴隷がいるのは神族が退化しないためだと言われている。

自動化した技術に頼りきった後の神族は身体能力が低下するとされている。

そのため技術に頼らない奴隷に仕事を任せるという事が普及している。

神族自身が仕事をしないのは長年自動化した文明になれてしまい自力で動く者がほとんどいないためである。


それって結局神族は働いていないのだから何も変わっていないのでは?と思うが全くその通りである。ここまで完全なインフラが整い切ったこの文明は政府がどんな政策を練っても効果が見られない状況となっている。



マルタ「ご主人様。今日は政府にワクチンを打ちに行かれるんですよね?」


ルカ「ああ、この惑星のウイルスに対抗するためとか。」


マルタ「早く帰ってきてくださいね。」


カンナ「ルカがいない日は一日中ゴロゴロできるからラッキー!」


ルカ「お前は今日の晩飯の材料でも買いに行け!」


カンナ「ああーー!私を奴隷扱いしてーー!!」


ルカ「奴隷だろ!!」



家を出るルカ。



平和な世界だと思われるだろうがこの惑星グレイズは戦争をしている。

神族、魔族、竜族が領土を取り合っている。

だが実質神族の文明は戦争面でも大いに役立っていて事実上は神族の勝ちが見えている。

俺たちから見れば別世界の話のような感覚である。



ワクチン摂取の病院につく。


待合室のニュースのモニターが目に入る。




中立都市「グラノラ」が竜族の襲撃を受けたと。


ルカ「グラノラ?……親父がいる街だ…」






ーー続く


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