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『ぬう坊』の母親

 私の家から西へ二百メートル程歩くと、

『ぬう坊』の自宅だった。

彼とは小学校も中学校も一緒なので。

高度経済成長期の日本人の生活は、

大体、こんなもんだった。

ほとんどの同級生が、

歩いて数分の所に住んでいる。


 彼の自宅は昔の街の家だった。

細い道路に玄関が面しており、庭は無い。

アメリカ人が「ウサギ小屋」と称した物件だ。

今、考えると、多分、借家だろう。

玄関から入ると、

中は縁側の様に土間と板張りになっていた。

その板張りの奥は、畳だった。


 その板張りの上に、

くたびれたババアが、泣きながらヘタり込んでいた。

今、考えると、現在の私よりも、推定では二十歳くらい若いのだが、

当時は、

そう見えた。


 その憔悴し切ったババアを取り囲む様に、

オバさん連中が四〜五人、土間に立っていた。

その後ろには、

同級生達が。


 皆、黙っていた。


 理解不能で立ち尽くしている我々母子に、

オバさん連中の一人が、

嬉しそうに話し掛けて来た。


 「イジメは無かったんですって!」

 

 その言葉に呼応する様に、

ババアが板張りの上で土下座を始めた。


 泣きながら。


 皆、黙っていた。


 そしてババアは、

震えながら、

話を始めた。

でも、

何を喋っているのか? 聞き取れ無くて。

周りのオバさん連中が、

満面の笑みで解説してくれた。

その内容は、

イジメたのは、我々では無くて、野球部の先輩達で、

今まで、ずうっと、いろんな人達にイジメられ続けて来たので、

『ぬう坊』の母親が、

「勘違いしてしまった」

だった。


 そして、

ババアは、延々と土下座を続けた。


 泣きながら。


 皆、黙っていた。


 そして、

イジメは無かった事にされた。

イジメを認めていたから、

わざわざ謝罪に来ていたのに。


 そのまま、解散した。


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