カラダは剣で出来ている
「……俺は確か」
俺はふと目を覚ました。なぜか俺は白い光に包まれている。
「なんだこの光はっ……」
あの化け物に噛み殺されて俺は死んだはずだ。思い出すだけで全身に鳥肌が立つ。
そんな事を考えていると白い光はだんだん薄れていき、無くなった。
そこで俺は信じられないものを見た。あの『憧れの先輩』が目の前にいるのだ。
「な、なんでここに岸上先輩が」
いや待て。なんで俺は岸上先輩を見ることができるんだ。なんで俺の意識はあるんだ。
俺が戸惑っていると
「君が死ぬ前に助けられなくてすまない」
岸上先輩が俺に話しかけてきた。死ぬ前に助けられなくてすまない?
やっぱり俺は死んだということなのか? なぜ岸上先輩が見えたり話しかけられているかは分からないがやっぱり死んだらしい。ここは天国ってやつなのか?
この状況を岸上先輩に聞いてみるのはどうだろうか。そもそも話すことが出来るかは分からないけど、試してみる価値はあるだろう。
「やっぱり俺は死んだんですか?」
「そう、君は死んだんだ。あの化け物に襲われてね」
「じゃあ、なんで岸上先輩とこうして話が出来てるんですか?」
「詳しく説明したいがそう悠長なことはしていられない。とりあえず自分の姿を見てみてくれ」
岸上先輩はそういってポケットから手鏡を取り出した。
自分の姿か。あの化け物に襲われた痛々しい怪我があるかもしれないし見たくないな。
そんな事を考えていると先輩が取り出した手鏡を俺に向けてくれた。
鏡を見てみると……そこには『短剣』があった。ちょっと待て、なんで短剣がうつっているんだ? もしかして岸上先輩が手鏡と間違えて俺に写真でも見せたか? 俺は岸上先輩に確認することにした。
「あのー、これは写真ですか?」
「いや手鏡だ」
「でも俺の姿がうつってなくて……代わりに短剣がうつってるんですけど……」
「そう、それが今の君の姿だ」
「は、はい?」
ちょちょちょちょっと待て! え? 俺の姿が短剣? そんな事あるわけないだろ! 人間が短剣になるとかあるか!? ここはアニメとかマンガの世界じゃないんだぞ。
「岸上先輩、冗談ですよね?」
「冗談ではない。真実だ」
「な、なんで短剣になってるんですか? 俺!」
「詳しい説明は後でする。それよりもその化け物を片付ける方が先だ」
そう言って岸上先輩は俺の後ろを指差した。振り返ってみると、そこには俺を殺した化け物がいた。
「こ、こいつは俺を殺した……」
うろたえていると岸上先輩は俺を掴んだ。
「君を使ってあの化け物を倒す。私に力を貸してくれ!」
「わ、分かりました!」
俺は訳も分からず岸上先輩に使われることになった。でも俺なんかであの化け物を倒せるのだろうか。アニメキャラとかがよく持っている立派な剣ならまだしも、俺は短剣だ。倒せるかは分からないけど、ここは岸上先輩に任せるしかない。
岸上先輩が化け物に向かって走り出した。ものすごいスピードだ。普通の人間では出せないスピードだろう。その勢いに乗り、岸上先輩が高く飛んだ。あの化け物よりも高いところにいる。この勢いで化け物の顔に俺を刺す気らしい。岸上先輩は落下とともにどんどん加速していき、岸上先輩は流星のように光りながら、俺を化け物の額に突き刺した。
生きものの肉を包丁で切るような、そんな感じがした。
すると、化け物は目の光を失い、その場に崩れ落ちた。額からは血を流している。どうやら倒したらしい。
そして化け物の死体は光に包まれ消えた。
それと同時に俺は光に包まれ、光が消えると人間の姿に戻っていた。
「や、やりましたね! 岸上先輩!」
「ああ、君のおかげだ」
こんな訳の分からない状況だったが、俺は岸上先輩に感謝されたのがとても嬉しかった。だが喜んでばかりはいられない。この状況はなんなのかを岸上先輩に聞き出さなくては。
「岸上先輩、どうして俺はこうなってしまったか。話してもらってもいいですか?」
「そうだな。その前に……私の名前は岸上束音だ。君の名前は?」
「お、俺の名前は総土海影です」
「では海影君。君がどうして生きているか。どうして短剣になってしまったか。そして私の事を話そう」
それから俺は岸上先輩と公園に移動し、ベンチに座り、話を聞いた。
岸上先輩の家は代々騎士だということ。化け物から人々を守るために戦っているということ。岸上先輩の家には代々伝わる人を武器や防具に秘術があること。その秘術で俺は生き返り、短剣に変身できる能力を得たことを聞いた。
正直まだ理解できてはいない。だが、先輩の言っていることは本当だと思った。
すると岸上先輩が口を開いた。
「化け物はこれからもこの町やこの世界に現れるだろう。そこで君には私と一緒に戦ってほしい。私の剣になってくれ。化け物と戦うのは危険だから断ってくれてもかまわない」
「俺、去年岸上先輩にあってからずっと憧れてたんです。だから岸上先輩と一緒に戦わせてください! 岸上先輩を守る剣になります!」
「ありがとう。受け入れてくれて嬉しいよ」
こうして俺は岸上先輩の剣になった。
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