玉座
『成されなかったとはどういうことだ!』
アセナ王は思わず声を荒げた。
静聴していた貴族たちもざわつく。
無理もない。
魔王を倒した勇者の冒険譚が聞けると思っていたのだ。
だがいざ蓋を開けてみれば血塗られたおぞましい悲譚だった。
その上、勇者は魔王を倒してないと言った。
『正確に報告させていただきます。』
『魔王は――――――』
『――――――既に死んでおりました。』
『ど、どういうことだ?』
『分かりません。ですので、この目で見てきたことを正確に報告させていただきます。』
そして勇者はゆっくりと話しはじめた。
◇
玉座の間には誰もいなかった。
正確には魔王と思われる死体しかなかった。
死体はほぼミイラ化しており、胸部に開いた10センチほどの穴から膨大な量の魔素が吹き出していた。
流れ出た魔素は天井に開いた大穴からそのまま天まで立ち上ぼり空を覆っていた。
――――――おかしい。
――――――何かがおかしい。
意味がわからない。
なぜ死んでる?
そもそもこの死体は魔王なのか?
魔素が死体から吹き出すとか聞いたこともない。
なぜ?
いつ死んだ?
誰が?
――――――誰が?
◇
スアロは成人する少し前、神託を受けた。
別名『天啓』とも呼ばれ、受けた本人はなんの前触れもなくその瞬間、人を超越した力を手に入れる。
事実、15歳にも満たない少年は人類最強となった。
しかし、その膂力をもってしても魔族は強く、苦しんだ。
そんな魔族の頂点である魔王。
――――――いったい誰が倒せる?
――――――いつ死んだ?
遺体の状態からかなりの時間が経っていると推測される。
1年?
3年?
――――5年?
もしそれ以前なら神託を受けたときには既に死んでいたことになる。
普通ならあり得ない。
しかし、今なら別の可能性が出てくる。
魔王討伐という大義の元。
神託を受けた人間を極限まで追い込み、進化させる。
地獄の先にある覚醒が真の目的ではないのか。
しかし後天的にスキルを獲得したなどという話は聞いたこともない。
これは神の意志なのか。
人の意志なのか。
◇
それすら分からぬままーーーースアロは剣を抜いた。
大量の魔素が溢れ出る胸の穴に剣を突き立てる。
そのまま魔力を解放すると青白い炎に飲み込まれるように魔素の流出が止まり
魔王は灰になった。
そして、空が晴れた。
魔王は死に、役目は果たした。
しかし、裏で暗躍する影が見える。
青く晴れた空と対称的にスアロの心は未だ深い黒に覆われていた。
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