覚醒
正直そのときの事はあまり覚えていない。
立ち込める魔素が濃霧のように視界を奪い、エリクサーの過剰摂取が思考能力を奪った。
途切れ途切れな意識の中、血溜まりに沈む肉塊に気付いたとき、ライアンの振りかざした剣が目前に迫っていた。
ギリギリで回避
――――――できなかった。
左手の肘から先が地面に落ちる。
すかさず奥歯に仕込んでいたエリクサー入りのカプセルを噛み砕く。
瞬間。
傷口が魔素を取り込みながら再生していく。
そのまま深く踏み込むと、ライアンの首を跳ねた。
直後に訪れる猛烈な飢餓感。
視界が赤く染まり意識は飢餓に飲まれていく。
そしてそのまま――――――
――――――ライアンの肉に喰らいついた。
意識が途切れる刹那。
――――――声が聞こえた気がした。
◇
そこまで話すとスアロは新しい葉巻に火をつけた。
『まさか……ライアンが……。』
ザガンが呟く。
戦士ライアンは元々王国騎士団である。
神託を受け勇者パーティに選ばれた元部下を誇り、気にかけていた。
戦いの中、命を落としたのならどれほどよかったか。
精神に異常をきたし、仲間を手に掛け、そして仲間に喰われた。
どこに戦士としての最期があったのか。
『スアロ、気にやむな。』
そんなありきたりな気休めしか言えぬ自分にアセナ王は歯噛みした。
『ありがとうございます。』
スアロはそう言って自虐的に笑った。
◇
意識が途切れるとき、確かに声を聞いた。
【覚醒スキル《暴食》を獲得しました】
【スキル《剣聖》を獲得しました】
【スキル《餓狼》を獲得しました】
【スキル《薬物耐性》を獲得しました】
――――――スキル?
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