霊薬
アセナ公国が誇る王国騎士団。
規律を重んじ、民のために剣を振るう。
鍛え上げられた肉体に鉄の忠誠心を宿す彼等は隣国からも一目置かれている。
そんな騎士団をまとめる騎士団団長、ザガン=ステインは勇者スアロを【危険】と判断した。
人の上に立つ者として見本になるようにと、日々自己を律し、人格者として在ろうとした。
しかしこの男はどうだ。
忠誠を誓うアセナ王に対する態度、出で立ち、立ち振る舞い、全てが気に入らなかった。
人間の強さとは純粋な筋力や技術だけではない。
実力が肉薄した場合、潜り抜けた修羅場の数が差をつける。
だからこそザガンには分かった。
勇者スアロは強い。
自分の半分にも満たない歳の少年を最大級の戦力として認めた上で、刺し違えてでも王を護る為、一挙一動を見逃すまいとスアロの言動に全神経を集中させていた。
そんなザガンも気づけばスアロの口から紡がれる地獄に圧倒され、戦意すら失っていた。
おそらくこの場にいる誰よりも強いであろう少年が、とても儚く脆く、消えそうに見えた。
『これ、なにか分かりますか?』
スアロは濃紺の液体が入った小瓶をアセナ王の前に置いた。
『これは…ポーションか?いや、にしてはだいぶ色が濃いな……。』
アセナ王はチラりとザガンを見た。
『おそらく霊薬エリクサーかと。』
ザガンはそう答えた後、『しかし、自分も初めて見ます。』と付け加えた。
『ザガンさん、流石です。』
『これはエリクサー。瀕死の大ケガも瞬時に治すアイテムです。』
『片腕が吹き飛ぼうが、内臓がこぼれようが、瞬時に治ります。』
『魔王城に近づくにつれ、魔素は更に濃くなり、比例して遭遇する魔物も災害級の強さになってきました。』
『僕たちはエリクサーを大量に飲み、戦い続けました。』
最初に異変が出たのは戦士ライアンだった。
前衛職であるライアンは魔物の攻撃を受ける機会が多く、エリクサーを常用していた。
元王国騎士団員であり腕力、体力共に人間の限界値を優に超えた武人だったが、終わりが近いていた。
欠損した手足が一瞬で治る霊薬。
まともなわけがない。
日に日にライアンはライアンではなくなっていった。
それでも僧侶シャルルは解毒の魔法をかけ続けた。
もしかしたらお互い想い人だったのかもしれない。
そしてシャルルはライアンに喰われた。
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