勇者は語る
『さあ、何から話しましょうか。』
そう言って笑うスアロは酷く歪に見えた。
アセナ王は言葉を飾らず問う。
『……仲間は…どうなった?』
『……死にました。』
ほぼノータイムでの返答。
まわりの王族貴族たちから悲痛なため息が漏れる。
『殿下』
スアロが口を開く。
『魔王城に1番近い村って知ってます?』
『村?』
スアロの質問の意図を汲み取れなかった。
魔王城に1番近い村、と言った。
『王都から1番遠い村ならゴザの村と記憶しておる。』
『その通りです。ではそのゴザの村、旅の終着点、魔王城までの全行程でどの位置にあるか、ご存知ですか?』
アセナ王は言葉に詰まった。
王都から1番遠い村、つまり、我が国から勇者一行への最終補給地点が全行程の半分にも到達していなかったからである。
『申し訳ない。』
当時15歳にもなっていなかった若者に魔王討伐という重責を背負わせながら、まともに支援も出来なかったことをアセナ王は詫びた。
『あ、いや!違うんです!文句があるとかそういうのではないんです!』
予期せぬアセナ王の謝罪にスアロは慌てた。
『聞こう。』
スアロは、ふぅ、とひと息つくとまた口を開いた。
『誰かのせい、とか、そういうことではなく、ただ、聴いてください。』
『ゴザの村には王都を出て2年ほどで着きました。』
『そこから先は広大な樹海が広がり、民家は消え、魔物が巣食う領域でした。』
『毎日歩き、遭遇した魔物を倒し……
『食べました。』
『毎日。毎日。』
『ご存知、魔物とは野生動物が長期間に渡り魔素に触れることによって魔族化したモンスターです。』
『当然、その血肉には大量の魔素を含んでおり、人間には猛毒です。』
『それでも食べました。生きるために。』
『食べる度に吐き、高熱にうなされながら毒消しを噛み、食べました。』
『そんな生活が1年も続いた頃、気づけば魔物の肉を美味しく食べている自分がいました。』
誰もが言葉を失い、勇者の地獄を聴いていた。
『それって、人間なんですかね?』
ここまで読んで下さってありがとうございます。
これからも更新していきますので、興味を持っていただけたなら是非ともブックマークよろしくお願いします。
しらたま