勇者は笑う
そのとき、スアロの体が微かに震えた。
いくら魔王討伐を果たした英雄とはいえ、一国の王が目線を同じくして相対する。
スアロはこれが今から自身が語るべき悲譚に対するアセナ王の最大級の謝罪であり、覚悟であると分かっていた。
スアロが口を開く。
『殿下』
このとき一同は息を飲んだ。
あまりの声に。
あまりのその声の幼さに。
魔王討伐という偉業を成し遂げた勇者。
その規格外な功績に失念していたのだ。
彼がまだ二十歳にも満たない少年だったということに。
『申してみよ』
アセナ王の声は優しかった。
『一服していいすか?』
『ん?』
これには流石のアセナ王も目を見開いた。
一瞬の間を置いて理解したザガンは顔を真っ赤にしている。
『貴ッッ様ッッ!!!』
ザガンが剣に手を掛ける。
『ふははははははははは!』
アセナ王の笑い声が響いた。
『ははははは!このタイミングで一服とな!ははははははははは!』
『よいよい、皆も楽にせい。ワシも一服付き合おう。』
そう言うとアセナ王は近衛兵に『葉巻を』と続けた。
『ザガンもそうカリカリするでない。我が国では15歳から成人と認めておる。何も問題ない。』
『しかし!』
『よい』
少し強めにいい放つと、自ら葉巻に火をつけた。
ゆっくりと紫煙をくぐらせると、改めてスアロに向き合った。
『クリスト産の一級品だ。どうだ?』
『いえ、自分はこれを。』
そう言うとスアロは震える手で1本の葉巻を取り出し、火をつけた。
周囲に強烈な異臭が広がる。
明らかにまともな葉巻ではない。
その様子を見たアセナ王は
『魔素中毒か……。』
と、呟いた。
『さあ、何から話しましょうか。』
勇者は笑った。