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第99話 複雑な心はなくせない




数日後、私は正式にナルサスからの謝罪を受けた。

王宮の庭でお茶を飲んでいる時にラファエルが休憩に入ったタイミングで、ナルサスを引き連れてきたのだ。

私の許可が出て、翌日ルイスと共に釈放手続きと騎士契約を結んだそうだ。

しかも――


「………服従チップ…?」

「そう。予め組み込まれている命令に反すれば、即死する程の電流が全身に流れるように仕込まれている機械だよ」


………なんていう物を開発してるの…

ランドルフ国恐るべし…


「そ、それをナルサスの首筋…に……?」

「埋め込んだ」


首筋は騎士の制服の襟で隠れていて見えないけれど…

ラファエルが言うなら間違いなく埋め込まれているんだろう…


「本来、再犯が予想される犯罪者に埋め込む物なんだけどね」

「………そこまでしたら、ナルサスが裏切ることはないだろう、ってことね…」

「それでも俺はソフィアに近づける事自体嫌なんだけどね」


私達が話している間、ナルサスはラファエルの背後に直立不動で立って、沈黙したまま。

私の後ろにいるイヴとダークと同じように。

………成る程…

騎士のやるべき事は叩き込んだって事ね。

スパルタだっただろうに…


「組み込んだ内容は?」

「俺がいない時に一定の範囲以内にソフィアに近づかないこと。俺とソフィアの命令には絶対に服従。ソフィアに危害を加えないこと。民を全力で守ること。悪事を働かないこと」

「………随分細かく組み込めるのね…」


………一定の範囲ってどれぐらいなんだろう…


「もしソフィアが襲われてるときに俺がいなくても、そいつらがソフィア守るでしょ。ナルサスが守らなくても」

「はい」


ラファエルに見られたイヴは返事をする。

ダークはカックンと頷いた。

………やっぱりダークは機械式なんだろうか…


「ナルサスもソレで納得した。だろ?」

「ああ……ぁ…は、い」


反射的にナルサスは返事をしたが、言い直した。

………敬語教育はいまいちのようだ。


「………なんだよ。まだ慣れねぇのか…」

「け、敬語は使った事ねぇ……ない、ですから」

「くっ……」

「わ、笑うな!!」


………早速騎士の態度が崩れてる。

………でも…

正直、数日前に思ってしまった羨ましさは、私の中に燻っていた。

目の前で楽しそうなラファエルを直視できずに、視線を反らしてしまう。

………なんで私には親しい同性の友人が傍にいないのだろう、と…


「ソフィア?」

「………ぇ?」


不意に近い距離でラファエルの声がした。

私はハッと視線を戻すと、ラファエルが身を乗り出して私を覗き込んでいた。


「ぁ…ごめん。何か話しかけてた? 聞き逃しちゃった」

「ううん。様子が可笑しいから。何?」

「………」


何でもない、と言えば嘘をつくことになって、ラファエルは気づくだろう。

だから、私は首を横に振った。


「大したことじゃないの」

「じゃあ言えるんじゃない?」

「………ごめん、言いたくない…」


口に出せばラファエルはナルサスを突き放す。

それに……これ以上、惨めになりたくなかった。

男性に嫉妬しているなんて…

ラファエルの友人として一番のナルサスに、悔しさを感じるなんて。

私が取り持ったようなものなのに。


「………そっか。じゃあ、言いたくなったら聞かせてくれる?」

「ん……ごめんね…」

「いや、俺は言えないことならそう言ってとソフィアに言ったからね。謝る必要ないし」

「………ぅん…」


申し訳なく思いながらラファエルを見ると、ラファエルは笑ってくれる。

それにも罪悪感が…

………はぁ…

私、何やってるんだろうね…

しっかりしなきゃ。

私は……王女……なんだから……

………せめて、ソフィアと話したいな…

無理な希望を持つのが止められない。

ソフィアなら、王女としてのアドバイザーになってくれるだろうに…

私の物語を見続けてと言ったのに、この情けなさ。

本当に私は勢いだけの…思ったことの行動を起こせないダメな人間だな。

振り回すだけ振り回す、バカな女。


「………ぁ…ラファエル?」

「何?」

「………今日は、夜帰って来られるの…?」

「大丈夫だよ。ソフィアが起きている時間に戻れる」

「………良かった」


………せめて……夜だけはナルサスじゃなくて私と過ごして欲しい。

それぐらいの独占欲は……抱いても許して……


「ソフィアからのお誘い、初めてだね」

「………ぇ!?」


お、おおおお誘いって!?

た、ただ帰って来られるか聞いただけなのに!!


「寂しい?」


ラファエルがニコニコ笑って私を見てくる。

カァッと顔が赤くなるのが分かった。

自分の独占欲に。

自分の嫉妬心に。

自分のおねだりに。

ラファエルの嬉しそうに口にした言葉に。

全てのことが恥ずかしかった。


「ああ、ソフィアは本当に可愛いなぁ。なるべく早く仕事終わらせるよ」

「ぅぅ……む、無理しないで、ね……」

「うん。夕食も一緒に取ろうね」

「わ、分かった……ぁ……じゃあ、ソレまでに温泉で販売する商品、書き出しておくね…?」

「急がなくて良いからね? どうせなら俺にまた何か作って欲しいし」


………?

首を傾げると、ラファエルは笑みを深めた。

でもその笑顔は、とてつもなく黒かった。

………ぇ……私何かした!?


「誰かさんのせいでソフィアの刺繍に傷が付いちゃったんだよねぇ」


………ニコニコ笑っているけど、声が低いです…ラファエルさん……

サァッとナルサスの顔色が真っ青になっていくんですが…

もしかしなくても、私が攫われてラファエルが暴れたときに、ラファエルに贈ったハンカチが台無しになっちゃったんだね……

………何故もっと早く言ってくれなかったの…


「分かった。早く言ってくれれば良かったのに……その方が早く仕上がったし…」

「問題が落ち着くまではソフィアも気が休まらないでしょ。今のタイミングが一番だと思うよ」


………確かにね…


「また黒にする?」

「ん~黒も良いけど、他の色も欲しいかな?」


ラファエルの言葉に微笑んで、私は頷いた。


「いっぱい作る」

「よろしくね」


ラファエルは私の頬に少し触れ、離れていく。

………もう休憩終わりか…

少し残念に思いながらも、私はラファエルを見送った。

部屋に帰って私の気分が浮上していることに気づいた。

ラファエルは私に何か役目を与えることによって、多分私の沈んでいた感情を一時的にも飛ばしたのだろう。

………本当に、ラファエルは…

私は刺繍道具を手に持ち、ソファーに腰を下ろした。


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