第97話 揃いと変わらない思考
ラファエルと改めて2人きりになって、私は緊張してしまった。
久しぶりに見るラファエルは、本当に格好よかった。
………この人が彼氏でいいのだろうか…と思ってしまう。
ダメだ。
本当に初心に返ってしまっている…
落ち着け私……
………ぁれ?
「ちょ、ちょっとラファエル、さっき何気に夫婦って言ったでしょ!?」
「ソフィアも言ったじゃないか」
「将来仮面夫婦になっちゃうっていう意味だったんだけど!?」
「一緒でしょ。後およそ1年だよ」
「ううっ……」
何気にもう婚約してから半年は経過していた。
そしてそれは、私の誕生日も近いということにもなる。
………私、17歳になるんだ……
前世の私より、年齢を重ねることが出来る……
これからも、生きていくことが出来るということに。
………胸が詰まりそうだった。
「そうだ。ソフィア、手出して」
「手?」
私は右手をラファエルに差し出した。
「違う。左手」
「左?」
右手を戻して左手を出した。
ラファエルはポケットから何かを出し、私の左手の薬指にそれをはめた。
「………! これ…」
私の左薬指に光る物。
ラファエルに私が要求した指輪だった。
金の輪にルビーと思われる宝石が、等間隔で埋め込まれていた。
………ん?
「ら、ラファエル!? 宝石は1つのハズじゃ……」
「そのデザインの方がソフィアに似合うでしょ」
「でも……」
「金額は気にしないでよ。少し早いけど、誕生日の贈り物も兼ねてるし」
「………ぇ……」
ラファエルの言葉に、私は目を見開いてしまった。
ラファエルに誕生日など、伝えたことはないはずだ。
なぜ、知っているのだろう…
「この間、レオポルド殿に聞いた」
………いつの話だろうか…
2人、仲悪かったはずじゃ…
「他にもソフィアの小さい頃の話を――」
「ひゃぁ!? な、何を聞いたの!?」
「色々」
ニッコリ笑って、ラファエルはそれ以上言おうとしない。
ちょっとー!!
気になるんですけど!?
「それよりソフィア」
「………何」
それより、って…
私内容が滅茶苦茶気になってるんだけど…
「感想は?」
「え……」
「ユビワ。気に入らない?」
「ぁ……ううん。綺麗で、素敵。サイズもピッタリだよ」
「良かった」
ホッとするラファエルに、私はお礼一つ言ってないことに気づいた。
宝石に気を取られ、レオポルドの私の小さい頃のカミングアウトに気を取られて。
私の我が儘をラファエルは叶えてくれたのに。
「ありがとう。ラファエル」
「どう致しまして」
嬉しそうに笑うラファエル。
私の腰を抱くラファエルの指を見れば、私と同じ指輪を付けているのが見えた。
私より5mm程幅が太く、女性用と男性用のサイズを分けることは言っていないのに、ちゃんとペアリングになっていた。
ジッと見ていると、ラファエルが腕の位置を変えてくれる。
「良いねこれ。ソフィアとお揃いって事もあるけど、特別って感じで」
「うん。本当にありがとう」
「可愛いソフィアの可愛い我が儘だったからね。頑張ったよ」
「でも、忙しい中私の為に無理させて…」
「ソフィアの嬉しそうな顔が俺にとっての褒美だよ。だから、笑ってソフィア」
申し訳ないと思って俯けてしまった顔は、ラファエルの言葉にハッとして上げた。
「困った顔されるより、嬉しそうな顔が見たい。俺はソフィアの喜ぶことがしたいんだ。喜ぶ顔が見たくてやってるんだ。ソフィアが好きだからね」
「………ラファエル…」
「俺と婚約して良かったって、ソフィアが思ってくれるように俺頑張るから」
「ダメ」
ラファエルの言葉に、即答してしまった。
「これ以上働いちゃダメ。ラファエル倒れちゃう。私はラファエルに無理して欲しいんじゃなくて………その……」
「ソフィア?」
「………わ、私と一緒にいられる時間……もうちょっと増やしてもらった方が……嬉しい……」
うわ……私、何言ってるんだろ……
王女として……王族として…相応しくない言葉だ。
我が儘令嬢の言葉だ。
民のための王族。
それを忘れてラファエルに――王太子に我が儘言って邪魔をしてどうするんだ。
自分が恥ずかしい。
「ごめん! なんでもない!」
私はラファエルの顔を見られずに、私はラファエルの膝から立ち上がろうとした。
でもラファエルに抱きしめられ、立ち上がれなかった。
「ソフィア、可愛い」
「………ぇ…?」
「そういう我が儘大歓迎って言ったよね? 遠慮しないでどんどん言って。ソフィアは我が儘こういう時しか言わないんだから」
「でも、仕事の邪魔は…」
「仕事は仕事。ソフィアはソフィア。天秤に掛ける問題じゃないし。俺にとってはソフィアの方が大事。だからソフィアの住みやすいように国を変える」
「ちょ…民のためでしょ!?」
いきなり何を言い出すの!?
「そうだよ? 民のために国を変えるには、イコール、ソフィアの思う国、でしょ」
「………私の思う…?」
「ソフィアはちゃんとした王族だ。ソフィアが不快に思わない、良い国だとソフィアが思ったとき、この国の改国は完了するでしょ」
ちょっと待って!?
もしかして、私が気づかなかっただけで、ラファエルは私の顔色を伺いながら国のことを決めてたの!?
これは止めなければ!!
「ラファ――」
「もちろん、ちゃんと俺も考えて仕事してるよ。でもソフィアの判断も欲しい。俺とルイスだけだったら、この国のことしか知らないからね。サンチェス国での体験や見た国政をソフィアがこの国と比べて良いか悪いか判断して俺に言ってくれればいい」
………注意しようとしたら先越された…
流石に全部が全部私の判断にはしてなかったようで、ホッとする。
私はそんなに優秀な人間ではないし、国政のことに関しては全くのド素人。
ラファエルとルイスの方が遙かに上だ。
「………それくらいなら…」
良いか悪いか、住みやすいかそうでないか、の判断ならサンチェス国と比べてどうだと告げることくらいなら出来る。
全部私の意見を聞き入れられたら困るし。
私の思うがままの国って…私の王国を作ってやるみたいなシュミレーションゲームじゃないんだから…
好き勝手するなど恐ろしくて出来ないわよ…
する気もないし…
本当にラファエルって、心臓に悪いことを平気で言う…
「うん、期待してる。じゃ、食事にする?」
「………ぇ?」
いきなり変わった話題に、私はキョトンとしてしまった。
「俺、今日何も食べてないんだよね」
「ぇえ!? ちょ、ちゃんと食べてよ! 用意してもらおう!」
「うん」
ラファエルはニッコリ笑う。
………笑い事じゃないよ……もぉ……
私はため息をつきながら、ラファエルの膝から降りた。