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第94話 新しい手足




「………」

「姫、その表情は如何なものかと」


カゲロウに兄の影を派遣して欲しいと言って来いと言った。

言ったけれども…

目の前に立つ2人の影が、先程急に私の前に降ってきた。

サンチェス国兵士の格好をして。

その2人の顔を見た瞬間、私は思いっきり嫌な顔をしてしまった。


「………カゲロウ」

「なに~?」

「………私、お兄様のNo.1~5を連れてこいって言ったはずだけど」

「王子様が5人もはダメだって~。だから、No.6と7を姫様の影としてやるって~。ちなみに返さなくていいとも言われたよ~」

「………」


全力で拒否したい!!

目の前にいる2人は、私の苦手とするタイプの影なのだ。

どういうタイプかというと…


「お久しぶりでございます姫様。改めましてイヴでございます」

「………お久しぶりです………ダークと申します………」


………知ってるよ!!

イヴはライトの師匠。

ライト以上に口煩い…っていうか細かい。

ダークは逆に喋ることが少ない。

目で訴えてくるタイプだ。

この2人が四六時中私の護衛兵士として張りつくことになるって事でしょ!?

レオポルドの嫌がらせ!?

勘弁してよ!!

確かに腕はいいよ!?

でもレオポルドも口煩い&無口すぎて扱いに困っていて、腕はNo.1や2になれる実力なのに、身の回りを警護する1~5には決して入れなかった。

そんな影を寄越すんじゃないわよ!!


「チェンジ可能?」

「不可能です」


ライトが即答してきた。

あんたに聞いてないわ!!


「私達ではご不満ですか?」

「うん」

「相変わらずハッキリしておりますね。こういう時はやんわりと遠回しに仰るのが淑女としての作法ですよ」

「私をお淑やかな令嬢にしないでよ。私は私の思うがままに行動して話すの」

「まだそんな我が儘を仰ってるのですか」

「お淑やかな私でなくて、本当の私でいいってラファエルが……」

「………姫様?」


………思い出してしまった。

ラファエルにいつ会えるのだろうか。

今日も……来ないのかな……

カゲロウに兄の影を貰ってこいと言ってから、更に4日経っていた。

ラファエルに会えない日が更新されていた。

昨日で10日会えてないことになる……


「………まぁいいわ。私の行動に、言動にとやかく言わないで。私は私の思うとおりにする。貴方達は私の護衛だけを行ってちょうだい。異論は聞かないわ」

「姫、呼び寄せておいてその言葉は身勝手すぎるかと」

「私は身の回りの護衛が出来る影を、と言った。小姑みたいな世話係は呼んでない。不満ならお兄様のところに帰って」


こう言っても多分、イヴは小言を止めないだろうし、ダークはジッと目で訴えてくることは止めないだろう。

ライトに続いて、口煩い護衛が増えた。

でもこれでそうそう私を拉致できる人も、傷つけられる人もいないだろう。

少なくとももう二度とラファエルの涙は見たくない。

私の窮屈な生活と引き換えに、ラファエルの悲しみが無くなるなら易いもの。

………嫉妬対象は増えたかもだけど…

イヴは40代だからいいとして……

ダークはライトと同じく20代。

嫉妬対象になり得るかも……

14のカゲロウにさえ、だものね…

まぁ……その嫉妬も今は見せて欲しいかも…

話も、顔すら見せてくれてないから……寂しいし…


「………ラファエルのバカ」


呟いて私はソファーに座っていたけれど、立ち上がる。


「護衛も来たことだし、庭でティータイムよ」

「よろしいので?」

「閉じこもってたら気分も暗くなる。大体、顔見せないラファエルが悪い」

「怒られても知りませんよ?」

「だから、ラファエルが悪いって言ってるでしょ。しつこいな」

「しつ……」


ライトを黙らせ、手を上にあげる。

渋々天井に戻ったライトを横目で見送り、イヴとダークを引き連れて庭に行った。

途中であった侍女にお茶を頼めば、庭に運ばれてくる。

見覚えない2人に戸惑っていたけれど。

優雅にティータイムを楽しんでいた。

久しぶりにホッとする。

部屋で飲んでも密室でいたから、気分は良くならなかったし。

やっぱり緑に囲まれて飲むお茶は、気分を軽くしてくれるなぁ。

………背後で霊みたいにピッタリと張り付くように、近い距離で直立不動の2人がいなければ、もっと良いのに…

自分で頼んでおいてなんだけど。


「………そういえば、サンチェス国は変わりない?」

「はい。姫様の店も、ラファエル様の店も、順調に売上を伸ばしておりますよ」

「そっか…」

「新しく導入した指紋認証扉でしたか? それも王は気に入っています。王妃の守りが強化されましたからね」


………あの国益重視の国王が唯一愛情向ける相手。

それが王妃。

王妃を大切にする国王にはもってこいだったのだろう。


「ラファエル様が国王と商談しまして、ランドルフ国の借金の残りを、指紋認証扉の代金としたとか」

「ぶほっ!!」


イヴの言葉に私はお茶を吹き出した。


「………姫様……淑女が紅茶を吹き出すのは如何なものかと」

「げほっ!! し、仕方ないでしょ!? 今、あり得ないこと聞いたんだけど!?」

「………何がです?」

「借金の残りと指紋認証扉の代金が同じですって!?」

「それ程凄い開発をしたのですから当然でしょう」


私の金銭感覚がおかしいのだろうか?

確かに認証扉の存在は、この世界にとっては凄い開発にはなるだろう。

けれど、あの借金をチャラに出来るようなものだったのか。

私は日本での価値とこの世界の価値は違うことは勿論認識している。

私自身、日本の価値でさえも分かっていないのも。

そういうものが存在していると知っていても、開発・設置する金額など知らない。

ランドルフ国の借金と同等なものなのか、以下なのか、以上なのか、分からない。

分からないけど…


「………本当に……ランドルフ国のサンチェス国への借金は無くなったの……?」

「はい」

「………」


ラファエルが……

………本当に1年以内で借金を完済してしまった……?


「………はぁ…」


アイデアを提供したけれど、まさかこんなに早く実現できるとは思わないでしょう。

サンチェス国王がそれで良しとしたならば、国王判断でも価値があるものと認識されているということ。

………ひとまず最大の問題は1つ解決したということで…

私は大きく息を吐いた。

そしてそのまま残りのお茶を飲み干した。


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