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第91話 過去の罪




王宮に帰還して、私は真っ先にお風呂へ。

湯船に浸かってホッと息を吐く。

浴室の鏡に映った自分の醜さに、私は消えたくなった。

首にはくっきりと指の跡。

全身傷だらけ。

傷に湯が染みて痛いけど、王女としてこれはないわ。

痛みを我慢して浸かっていると、上から殺気が…


「………自業自得だから、ラファエルを責めないように」

「………王に何とご報告すれば?」

「しなくていい」


ライトにキツく言う。

報告などされてしまえば、連れ戻されてしまう。


「ですが、もうランドルフ国の護衛は信用できません」

「………」

「我々は影です。他者の目に触れる状態での表だって姫の守りが出来ない以上、サンチェス国から兵士を呼ぶしかありません」

「………それは…」


騎士の腕が熟練ではない以上、王家の人間を守ることに不安があるのは分かる。

でも、寄越して欲しいと連絡を取ってしまった時点で、兵士が来るのは私を連れ戻すためになる。


「サンチェス国の兵士は我々が認める腕です。姫の命が優先されます。姫が今後大人しくしていただける前提なら、今のままで宜しいですけど?」

「………主人を脅すんじゃないわよ」


私が大人しく部屋に閉じこもるわけないじゃない。

分かってて選択肢を二択にしておいて、事実上一択にするんじゃないわよ。


「………考える」

「宜しくお願いいたします」


ライトが殺気をおさめ、私は息を吐く。

………取りあえず、手当を受けてラファエルの話を聞かなきゃね…

私はお風呂から上がって、脱衣場に待機していた侍女と医者に、全身を好き勝手にされた。

手当が終わると、久しぶりに着るTHE王女用ドレスみたいな部屋用ドレスを着せられる。

………全力でジャージもどきを要求したい。

動きにくい!!

でも、そんな事は言えずに私は部屋に戻った。

部屋にはラファエルとルイスが待っていた。

漸く心置きなくラファエルの傍に寄れるわ。

あの身なりで抱えられて帰ってくるのが、どれだけ恥ずかしかったか…

小走りでラファエルの傍によると、ラファエルがホッとして私を抱き寄せた。

………ホッとする要素、あったっけ…?


「良かった。普通に歩けるんだね」

「………ぁ、うん。大丈夫」


ラファエルの言葉にコクンと頷く。

ずっと抱えられてたから、その間に体の状態はある程度回復している。


「お前達は出て行ってくれ。2人で話したい」

「終わりましたら私からも話がありますので呼んで下さい」

「嫌だ」

「我が儘言うな。絶対呼べよ」


………ルイス、言葉遣い崩れてるよ…

侍女達は頭を下げて出て行く。

ルイスも渋々出て行った。

ラファエルは私を抱え、ソファーに座って私を膝の上に乗せる。

………もう、これ当たり前のようになってる…?

恥ずかしいから止めて欲しい…


「痛みは?」

「今はないよ」

「そっか。良かった…」


ラファエルがソッと私の肩に額を付けた。


「………俺とナルサスは、5歳の時に知り合った」

「5歳……」

「俺の母は俺が5歳になる前にこの世を去った。俺は幼すぎて食事代を稼ぐことも出来なかった。盗んだ食べ物を食べてはまた盗みの日々。そうこうしていると、アイツらの1人に捕まってな」

「捕まった……?」

「アイツらの収入源の一つだった所から盗んだ。追いかけられて捕まえられて暴行を受けた」

「………5歳の子供を痛めつけたの…」


私にとっては、身近にない事だ。

前世も、今も。

だから、想像でも考えられないような生活だったのだろう。


「動けなくなったときに、庇われたんだ。ナルサスに」

「………もうすでにナルサスはその仲間だったの?」

「………ナルサスは、裏組織のトップの息子だった。愛人の子」

「………」


ラファエルと同じ……

それで仲良くなったのかしら…


「ナルサスの遊び相手として俺は生かされ、そして7歳の頃に初めて汚い仕事をしてこいと役目を与えられた。その時には仲間に引き込まれて2年。俺の思考も何もかも裏に染まっていた。ナメられないように口調も変わり、目付きも悪くなり……決して王族と言えるような男じゃなかったな」

「ラファエルが王宮に引き取られたのって……」

「15の時だな。裏社会に10年いた。人を騙す事や、偽ること。人を殺すことにも抵抗は一切なくなっていた」


それじゃあ、ラファエルは3年以内で王族の何もかもをマスターしたというのか。

留学してきたときは完璧イケメン王子だったから、正確には2年ちょっと…?

………そっちの方が凄いんですけど…


「ナルサスとは常に組まされていた。歳が近いのが俺だけだったっていうのもあるだろうけど」

「………じゃあ、余計にナルサスをないがしろにしたらダメじゃない。10年、パートナーだったんでしょ?」

「俺は王子だ。裏組織に繋がりがあると思われたら、民に見放される」


………はい、久々にラファエルにイラッとしましたー!

ラファエルの顔を上げさせ、思いっきり頬に平手打ちした。

目を覚まさせる為に。

………まぁ、ぺちんという可愛らしい音しか出なかったけど。

パンチもだけど、弱いな私の手は!!

そしてパチクリとするラファエルは、相変わらず可愛いな!!

イケメンのくせに可愛いって、私には屈辱だよ!!

悔しいよ!!


「ソフィア…?」

「民の前に、王子の前に、ラファエルでしょ」

「ぇ……」

「王族とか裏の人間とか以前に、ただのラファエルとナルサスでしょ! ナルサスは貴方を大事に思っている。私を殺そうとする程に。それは彼が貴方を大事だと思っている証拠でしょ!? 友達に立場なんて関係あるの!?」

「………俺は、王太子だ」

「………だから、彼諸共組織を根絶やしにすると?」

「民のためにならない者は排除する。それが国主だ」


それは、痛いほど分かる。

分かるけど。


「………ラファエル…貴方は、何のために言葉があると思っているの。何のために手足があると思っているの。何のための権力なの」

「言葉…手足…権力…?」

「貴方が表の世界に出てこれたように、友を共に表に来させようとは……思わなかったの……?」

「………!!」


ラファエルが目を見開き、私を凝視してきた。


「………10年共に過ごした友……貴方の言葉が、彼に届かないわけ無いでしょ…? 彼は貴方を大事に思っている。共にいたいと思っている。彼を助ける力が貴方にないのなら…」


………これを言えば、彼は力を失うかしら…

それとも、立ち向かってくれる…?

………ごめん、ラファエル…

私は今から貴方を傷つけるかもしれない。

でも、私は貴方の友を失わせたくないんだ。

王族は孤独なもの。

友人と称していても、王族の権力を欲している者達は、表面だけの付き合いだ。

分が悪くなると平気で裏切る。

ナルサスのように、ラファエル自身を大切にし、彼の愛する者まで排除して自分の元へ戻そうとする人など皆無。

やり方は強引すぎるけど、彼がそういう教育しか受けていなければ納得できる。

恐らく彼は、ラファエルを守るためなら自分がどうなっても構わないと思っている。

そういう人は、私達王族にとって、貴重な人材。

兵士や騎士、影になる為の最低条件でもあるけれど。

損得なしでそうしてくれる人物は、本当に大切なんだ。

だから、問答無用で排除対象にしてしまっているラファエルの考えに、私は同意できない。


「貴方に王族の――王太子の資格など、ありはしないわ」

「………」


私の言葉に、ラファエルは固まってしまった。

否定されるとは思わなかったのだろう。

国法に口を出す事など出来ない。

私はその方面に教養が無いから。

でも王族の立ち振る舞いについては、ラファエルより先輩であり、下の者を生かすも殺すも王族の振るまい次第と分かっている。

ラファエル……人を裁くには……それ相応の覚悟がいるんだよ…

特に、王族として――王太子として裁くなら…

相手を真っ直ぐに見据えないといけないのに…

目を反らして……王太子に逃げ込んではダメ。

固まっているラファエルを見ながら、私は彼がちゃんと考えてくれることを祈った。


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