第90話 助けられた後
「ユイカ……ユイカ……」
耳元で何度も名前を呼ばれる。
………ぁぁ、これは…本当に心配をかけたんだと、実感する。
不安にさせたのだと。
「ご、めん……なさ……」
「良かった……生きてる……」
「………ラファ、エル……置いて……かない、よ」
「……だって……さっき……動かなく……」
………ぁれ……?
ソッと体を離そうとするけど、逆にラファエルが腕に力を入れて離れられない。
もぞもぞ動いて顔だけでも何とか動かすと、ラファエルの頬が目に入った。
彼の頬に流れる涙も。
………私、本当にバカだな……
ラファエルの友を何とかしたくて、無謀なことして…
一番大事なラファエルを、泣かせてしまうなんて…
………でも、何とかしたかったんだ。
私でも、役に立てるんだって。
ラファエルの友を、私のせいで無くさせたくなかったんだ。
「気を失った、だけだよ……ビックリさせて、ごめんね…」
漸く普通に喋られるようになった。
「………ホントだよ…死んだと思った…俺の心臓も止まるかと思った……」
「………うん……ごめん……」
「………なんで、無茶したの……ジッとして助けられるまで……何もしないように前に言ったのに…」
………そんな事も言われたね…
でも……放っておけなかったんだもん……
ラファエルを大切な友と思っているだろうナルサスを。
話もしないうちからすれ違っている2人を。
「ラファエルの役に立ちたかったの…」
「もうソフィアは俺の役に立ちすぎてるから、これ以上の無茶しないでよ。俺の傍にいるのならまだしも、俺がいないところで1人で頑張らないで。分かった?」
もう泣き止んだのか、睨みつけるように見られ、強調された。
「………は、い」
私はコクンと頷くしかなかった。
そしてもう落ち着いたのか、ソフィア呼びに戻っている。
「姫、ここにいた男達は連行し終えましたよ」
「………いつの間に……」
ライトがラファエルの背後に立ち、相変わらずの無表情で淡々と報告された。
………いや、あの目は怒っているな…
「………ありがと。ごめん」
「………」
ライトは無言のまま天井に戻った。
………無言が一番怖いから!!
「………ぁ……ラファエルはここにどうやって入ったの…?」
「天井から」
「………はい?」
「天井からカゲロウに案内してもらいつつ。そしてソフィアの元に辿り着いたら、首絞められてた」
「………そ、そう…」
バッドタイミングで来られたのね……
殺されかけてたから、グッドタイミングだろうけど、心象的にはバッドかな…
一番見られたくないところを見られた。
これではますますナルサスとの仲を拗れさせてしまう。
「………帰ろう。手当もだし、体も綺麗にしたいだろう?」
「うん…」
………はっ!!
私、3日間お風呂入ってない!!
ラファエルに抱きしめられて安心しきっている場合じゃないよ!!
女子として!!
「………ごめん」
「………ぇ、なんでラファエルが謝るの…?」
「俺の過去まで、ソフィアを巻き込んで…こんな目に遭わせて…」
予想以上に気に病ませている…
私は気にしていないのに。
「………むしろ、嬉しかったよ…?」
「え…」
「ラファエルの事知れて」
「ソフィア……」
「………ラファエル…どうして交流を絶ったの…? ラファエルなら、彼らを説得して真っ当な道を歩ませるようにも出来たんじゃないの…?」
「………」
ラファエルは少し考えていたようだけれど、何も言わないまま私を姫抱きした。
「………ラファエル…?」
「………帰ってから、ね」
「………帰ったら話してくれる……?」
「ちゃんとソフィアが大人しくお風呂に入って、治療を受けてくれたらね」
「……うん…」
私はコクンと頷いて、大人しくラファエルに連れて行かれた。
深刻そうに考え込むラファエルの横顔を眺めながら…
 




