第80話 今度こそ
私は今、貴族の格好をしてラファエルを待っていた。
念願のラファエルとのきちんとしたデートです。
「う~…」
初めからデートって分かってるのって、なんでこんなにそわそわしてしまうのだろう。
き、緊張する…
「オロオロしているソフィアも可愛いね」
「うひゃぁ!?」
真後ろから突然ラファエルの声が。
私は急いで振り返る。
同じく貴族の格好をしているラファエルが立っていた。
だから、気配なく入ってくるの止めてくれない!?
いつの間にか居るっていうのが一番ビックリするから!!
「どうぞ、お姫様?」
「………もぅ」
クスクス笑いながら手を差し出すラファエルに、私は頬を膨らませながらその手に自分の手を乗せる。
「そういえば、ソフィアの元の名前ってなんて言うの?」
「………突然何?」
「城下でソフィア、なんて呼んだらバレるでしょ? だから偽名使おうと」
「………ラファエルは民に顔知られてるんだから、今更でしょ。別の名前呼んだら浮気って噂が出るわよ」
「それもそうか…でも、聞いてもいい? 人前では呼ばないから」
真顔で聞かれ、私は困ってしまう。
もうソフィア・サンチェスで慣れてしまっているのもあるし。
「………どうしても?」
「嫌ならいいよ。無理強いしたいわけじゃないから。ただ、俺が好きな女の本当の名前が知りたいだけだよ」
ラファエルの言葉にカァッと顔が赤くなるのが分かった。
「い、今はソフィアが本当の名前なんだけど……」
「でも性格――っていうか意識は前世の方のが強いんでしょ? だったら王女のソフィアじゃなく、前世のソフィアなんじゃないの?」
「り、理屈としてはそうだけど…」
本当の私を見てくれてるって分かる言葉に、私の心臓が煩くなっていく。
「………唯華」
「ユイカ? どういう意味?」
「………唯一無二の華(女)に……誰かの唯一になれるようにって、親が付けたらしいよ」
「ああ、じゃあユイカは俺のために生まれたんだ。この世に転生してきたのも前世に俺がいなかったからだね」
………ちょっと、何言ってるの!?
顔の熱がまた上がって、頭がクラクラしてきちゃったんですけど!!
「そ、そういう事言わないで!!」
私はラファエルをまともに見れなくなって、俯くしかなかった。
「ホント、可愛いな俺のユイカは」
「っ!」
「じゃ、行こうか」
これだけ私を恥ずかしがらせといて、ラファエルは満面の笑みで私の手を引く。
こっちはいっぱいいっぱいで、ご機嫌なラファエルに不満だよ!
部屋を出ると護衛騎士達が待機していて、私を見て不思議そうにする。
もう、今日はラファエルをまともに見れないよっ!
でもそうも言っておられず…
せっかくのデートだし、ね。
王宮から城下まで馬車で移動し、到着すればラファエルのエスコートで街を歩く。
「ソフィア、何か食べる?」
「まだいいよ。それより何処行くの?」
「決めてない」
「え!?」
ニッコリ笑って言うことじゃないと……
「息抜きだからね。ソフィアが気になる店があれば入れば良いかなって。俺が行く店って酒場とかだからソフィアに合わないしね。ソフィアの好きな系統の店って俺知らないし」
「………ぁ」
そっか。
そういう話もしなきゃだよね。
お互いを知るって約束したし。
「私が好きなのは、私の店みたいなリメイク品扱ってる店とか、テイラー国にある手芸店とかだよ」
「そう…じゃあ、この国にはソフィアの好きな店がないのか……作るか」
「え、いや、無理して作らなくても……そ、それにもうすぐ温泉街出来るでしょ? 温泉私好きだし」
「でも、それじゃ買い物出来ないでしょ。俺もソフィアに贈り物する時、近い方が良いし」
「贈り物要らないから!」
「今は、でしょ」
「うっ……」
た、確かにランドルフ国が豊かになれば断る理由がなくなる。
貰うのは嫌じゃないけど、慣れないというか…
「ソフィアも手芸店あれば好きな刺繍とかの材料揃えられるでしょ。テイラー国に行って大量買いしなくてもいいようにあった方が良いよ」
「うぅ…」
大量買いしたのバレてたんだ…
しかもちょっと心動いてきた…
身近にあればわざわざ遠出する必要もないし。
「テイラー国と同盟組めたし、交渉しやすい。刺繍なら貴族の需要もあるしね」
「そう、ね」
「次の企画決まったな」
「………はい…」
自分の欲求に負けてしまった瞬間だった…
「………ぁれ?」
「どうしたの?」
「あの店覗いていい?」
私は目に止まった露店の品を指差しながらラファエルを見上げた。
「ん? ああ、装飾品の店だね?」
「うん」
「いいよ」
ラファエルに了承を貰い、私は露店に近づいた。
勿論、ラファエルに手を繋がれたままだけど…
「こんにちわ!」
「こんにちわ。これは貴女が作ったの?」
「うん!」
露店に座っていたのは、幼い少女だった。
髪はボサボサで、着ている服はボロボロ。
手は傷だらけで痛々しい。
でも顔は笑顔で、頬もふっくらしている。
顔色もいい。
食に困っている子ではなさそうだ。
でも、衣まで回せるお金は無いのだろう。
こういう子を見ていると助けてあげたくなるけれど、それはダメだ。
1人に施しは出来ない。
………非情だけれど、それが世のルール。
私は飾られているブレスレットに手を伸ばす。
紅色の玉が20個ぐらい糸に通されている。
「綺麗ね。材料はなんなの?」
「海から取れる水晶だよ! いつもは透明のしか取れないんだけど、これは珍しい紅色だったの! 紅色のは滅多に取れないから、高くなるんだけど…」
確かにこれ以外は全て透明の水晶で作られているブレスレットやネックレスのみだ。
「貴女の国では水晶が取れるのね」
「うん! カイヨウ国の特産だよ!」
「カイヨウ国……テイラー国の隣の国だね。そんな遠くからここまで売りに来てるの?」
「うん。だって、テイラー国はこれより良い商品がいっぱいあるでしょ? 安っぽいからって売れないの……」
確かに、“水晶”っていうより、日本でいうビーズに近い素材だ。
だから懐かしくなって気になったんだけどね。
カイヨウ国は海に面している唯一の国。
漢字で書くと海洋ってとこか。
………そのまんまだねぇ…
ゲームの名前設定ホントいい加減だよ。
っとそれより水晶が海から取れるって凄いよね。
大きさはバラバラだからアンバランスだけど、それも手作りならでは。
「これ貰える?」
「え、いいの!? 高いよ?」
透明の水晶の5倍の値段はついているけど、私に買えない値段ではない。
「うん、大丈夫。これ気に入ったから」
「あ、ありがとう!」
「じゃぁ…」
「待った。ソフィア、それは俺が買ってあげるから」
「え、でも……」
「デートなんだから、俺が出すの」
ラファエルは譲らなかった。
さっさと支払いを済ませてしまう。
「あ、りがと……」
「うん。ドレスやその装飾品よりずっと安くて申し訳ないけどね」
「ぜ、全然だよ! 私にとっては凄く嬉しいよ!」
「ソフィアは相変わらず欲ないなぁ」
クスクスラファエルに笑われて、私は恥ずかしくなるけど、気にしてないフリして左手首にブレスレットを通した。
「仲良いね! お兄ちゃんとお姉ちゃん」
「俺の大事な人だからね」
「ちょっ…!?」
子供相手に何言ってるの!?
「すごくお似合いだよ! その水晶、お兄ちゃんの目の色にちょっと似てるね! 色薄いけど、同じ赤系統で!」
「え?」
「………ぇ」
気づいてなくて、私の頬は赤くなった。
ラファエルは嬉しそうに私を見てくるし。
私はたまたまだと弁解したけど、2人はニコニコしていて私の言葉は通じなかった。




