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第08話 彼に怒られました




カゲロウは正確にラファエルの場所が分かっていたように、潜伏先近くだろう所で下ろしてくれた。

影のカゲロウは見られたらマズいから、待機していてもらう。

ライトの存在は近くに感じられないが、いると思う。

取りあえずラファエルに会おうと、辺りを見渡した。

すると近くから音が聞こえた。

ゆっくり近づくと話し声だった。


「今回の荷はどうだ」

「サンチェス国からの荷はいつも通りです。これで今回の支払いもいつも通りですね」

「ああ。そうだな。早速いつもの場所へ運ぼう」


私は、不正をしている現場に居合わせてしまったようだ。

思わず出てしまいそうになる体を押しとどめる。

ここで出て行っても私には何も出来ない。

荷馬車が街とも王宮とも違う方向に向かう。

私は手を動かし、荷馬車を追うように見えるようにした。

近くの木から少しの音が聞こえ、黒い影が飛び出していった。

カゲロウが追ってくれただろう。

怪しい男達の姿が見えなくなった後、私は息を吐いた。

気づかれなくて良かった…

と、安心していたときだった。

グイッと腕を後方に引っ張られたのは。

見つかった!?

グッと目を閉じる。


「何やってるんだ!」


怒鳴られた声に聞き覚えがあった。

恐る恐る目を開けて見上げると、ラファエルの顔がそこにあった。

やはりカゲロウはラファエルの元に連れてきてくれていた。

信頼できる影だった。


「ラファエル、様…! 良かった、無事でしたのね」

「俺のことよりお前のことだろ! なんでここにいる!? 死にたいのか!?」


焦っているラファエルは、敬語を使えていない。

それに嬉しくなった心は一旦置いておいて、ラファエルを落ち着かせなければ。


「ごめんなさい…あのね……」


咄嗟に謝った言葉は本来の私のものだった。

しまった。

と思ったけど……


「話は後だ。ここを離れるぞ」


ラファエルは気づかなかったようだ。

良かった…

腕を引っ張られ、森の中を歩いて行く。

ここは国境に近い森の中。

土に汚れながら、ラファエルに連れられ私は歩く。

………こんな時に不謹慎だと思う。

でも、嬉しいと思ってしまう心は抑えられなかった。

ラファエルが敬語を使っていない。

王女としてのソフィアにではなく、一人のソフィア相手として怒ってくれている。

こんな状況で距離が近くなっても、普通の令嬢なら嫌だと思うんだろうな、と。

でもあいにく私は、普通の令嬢じゃない。

捕まれている手を握り返す。

それでハッとしたのか、ラファエルは手の力を緩めたけれど、私は離さなかった。

暫くその状態でいたけれど、森の中の古びた小屋の前でラファエルは私の手を離した。

それを残念と思ってしまう。

もう少し、繋いでいたかった。


「ここは木こりが住んでいた森小屋で、今は使っていません。ここで国境を探っていたんです」


敬語に戻ってしまったラファエルに対し、私は残念に思った。


「入って下さい。見つからないように早く」


ラファエルに背を押され、私は小屋に入った。

そしてラファエルも小屋に入り、ドアを閉めた。


「………はぁ。改めて何故こんな所にいるんですか。危ないでしょう」

「理由を話す前に、一つ良いですか…?」

「? なんでしょう」

「………さっきみたいに話してくださらない?」

「さっき……」


ラファエルは思い出しているのか暫く無言だった。

そして、段々顔色が悪くなっていく。


「す、すみません。あの時は…」

「いいんです。……嬉しかったから…」

「え……」

「あの……ラファエル様は私を、その……好き、って言ってくれましたけれど、ずっと敬語だったから……距離が、あるなと思っていました……あの、やっぱり私なんか……ラファエル様に相応しくないのでは……と…」


途切れ途切れに言うと、目を見開いて見られる。

や、やっぱり図々しかった!?

告白の返事もしてない女からそんな事言われてもって感じだよね!?

すみません!

やっぱり私出直した方が良いよね!?


「や、やっぱり、気にしないで……」

「………じゃあ、もう遠慮しない」


ガシッと両腕を捕まれる。


「………ぇ」

「なんでこんな所まで一人で来たんだ! 危ないだろ!? それに可愛いんだから誰かに攫われたりしたらどうするんだ!?」

「さ、攫われ……?」


しかもさり気なく可愛いを入れられてませんでした!?

しまった。

従者としてライトを付けるべきだったかな!?

ライトと合流してからラファエルに会うべきだった――って、その前にラファエルに見つかったからどっちにしても無理だ。


「だ、大丈夫ですわ! 私なんか攫う人いませんから!」

「自覚ないのか!? ソフィアはサンチェス国第一王女だろ! しかも俺の婚約者だぞ! 俺が愛した人! 自覚して!」

「す、すみません!」


あ、ああああ愛した人って!

そんな真剣な顔で言わないで!

顔が赤くなる!!

へ、平常心よソフィア!

お、おおお落ち着いて!

あぁ!

“すみません”じゃなくて“申し訳ございません”って言うべきだったでしょ!?

私、王女なんだから言葉遣い気をつけないとぉ!


「………ぁぁ……可愛い……」

「ぇ……」


ラファエルは顔を背けて呟く。

距離が近いから聞こえてしまっているからね!?

今の何処に可愛いと思われる要素が!?


「………ねぇ」

「は、はい?」

「………口づけていい?」

「………!?」


ラファエルが顔を上げたと思ったら、キスの許可求められた!?

なんで!?

今、私はラファエルに怒られている最中だったよね!?


「ぇ、ぁ、の?」

「いいよね」


ラファエルの手が後頭部に回ったかと思えば、引き寄せられた。

唇が温かい。

――ぇ

私、キス……してる……?

ラファエル、と……?

思わずラファエルの胸に手をつくと、ラファエルの口づけが激しくなった。

何で!?

って私初心者!!

前世でも今世でもキスしたことありませんから!!

い、息ってどうするの!?


「んっ……く…るし…」

「ぁ…」


口づけの間になんとか言葉を発すると、ラファエルがハッとしたように唇を離した。


「ふぇ……は、ぁ…」


酸欠で涙目になりながらラファエルを見る。

するとラファエルが真っ赤になった。

………何故…?


「………ぁぁ、ソフィア……可愛い…」


ラファエルが私にもう一度触れるだけのキスをしたかと思えば、抱きしめられる。


「ソフィア……俺のこと…好き?」

「………っ…」


ストレートに聞かれ、私は息を飲む。

ドキドキする胸。

嫌じゃなかった口づけ。

抱きしめられて安心する。

これで好きじゃなかったら、なんなのだろう。


「………ソフィア?」


耳元で囁かれ、私はビクッと反応してしまう。


「………ぁ、ぁの……わ、私、人を好きになった事……なくて……」

「………じゃあ、俺以外に口づけされたい?」


ラファエルに聞かれ、私は即首を横に振った。


「俺以外に抱きしめられたい?」


また首を横に振る。


「じゃあ、ソフィアも俺が好きなんだな。やった」


ギュッと力強く抱きしめられる。


「ゃ……ちょっと、痛い……」

「あ、ごめん。嬉しくて」


緩めてくれた腕の手。

ホッとした矢先に今の状態を思い出す。

ラファエルに抱きしめられ、二度も口づけた。

なにしてんの私!?

さっきまでシリアスな場面じゃなかった!?

私、勝手に出てきてラファエルに怒られてたよね!?

敬語ヤダって言っただけでなにこれ!?

しかも私彼が好きだと示しちゃったよね!?

無自覚好きとか、あり得ない!!

で、でも、彼に抱きしめられて嫌だとは思わなかったし、キスも嫌だと思わなかったし……

す、好きで、いいの?

………私、彼を好きだと思って……いいのかな……?

………………って!

また論点ずれてる!!

えっと…えっと…

あ、そうだ!

輸入の荷馬車!!

顔を上げると、嬉しそうな彼の顔。

その顔を見て、私は顔を赤くしてしまい、見つめることしか出来なくなった。


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