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第78話 曝け出した心




「一度ならず二度までも、俺の前でソフィアを侮辱したんだから、どうなってるか分かってるだろうね?」


すぅっとラファエルが視線をアマリリスに向けた。

優しく話しかけているように思うけれども、ラファエルは無表情だ。

目が冷たい。


「こんなに可愛いソフィアを、あろうことか不細工だと?」


………引っかかったのソコなの?

え?

他にいくつも可笑しい発言してたよね?

アマリリスだけでなく、私も結構言ってたよ…?

そんな事を思いながらラファエルを見上げていると、アマリリスが暴れてライトの拘束を解こうとする。


「ラファエル! 目を覚まして! その女は嘘つきなのよ!」


嘘はついてないけど。

隠していたことは、盛大に口にしてしまったけど。

それにしても、私の言葉は彼女には届かなかったんだ。

覚悟して本気でぶつかったのに。

少しでも心動かされていないなら、私の負けだ。


「ソフィアは俺に嘘つかない。今回はお前のせいでソフィアが隠していたかっただろう事を、口に出させてしまっただけだ。お前と同じ境遇だったって事だろ」


………ぇ…

私はラファエルを見上げる。

ラファエルは相変わらずアマリリスを見ていたけれど、ギュッと私を抱きしめる力を強めた。

まるで大丈夫だという風に。


「でも、お前とソフィアは全然違う」

「な!? 私とその女の何処が違うって言うの!?」


頭に血が上ったみたいだけれど、すぐに笑みを浮かべた。


「ああ、私が上でモブ王女が下ってことね! やっぱりラファエルは分かってるわ!」


………どういう思考回路なの…?

無表情のラファエルを見て、そう言えるのはある意味すごいな…


「違う。それで表現するならソフィアが頂点でお前は底辺だ。どん底のな」

「はぁ!?」

「ソフィアは自分の立場を自覚している。その責任を負っている。だからこそ、俺はソフィアを求めた。お前はよく分からないが自分の立場に固執し、自分の思うとおりに動いているだけだろ。ああならなければならない、こうであるはずだ、とな。だから軽い言葉に聞こえるんだよ。中身がないからな。お前自身で考え、行動していない。予め敷いてある道筋を辿ってるだけのように」


………すごい。

さっきのやり取りで、そこまで分かったの…?


「お前が俺を求めるのは、自分が単純に権力がある人間の隣で立っていたいだけだ。ようはお前にとっての装飾品が欲しいだけだろ」


………さすが王太子、と言ったらいいのだろうか?


「俺はソフィア以外の女は要らないと、お前に言ったよな? なのにこれだ。俺の怒りがお前に向いていることは分かっていただろ。こんなことして俺がお前に惚れると本気で思っているのか? 自分の女を傷つけるヤツに誰が惚れるかよ。俺を感情のない機械と一緒にするな。惚れっぽい他の男連中と一緒にするな」

「………」


アマリリスは目を見開き、固まった。

『まさかヒロインの自分が、サブキャラにフラれるなんて』とか思っているのだろうか。

だから言ったのに。

感情がある人間なんだと。


「俺はラファエル・ランドルフ。ランドルフ国王太子で、ソフィア・サンチェス王女を婚約者に持つ者。それは今後も変わらない。俺はソフィアを誰よりも愛しているんだ。ソフィア自身にさえ、俺から奪わせないのに、お前如きが奪えるなどと思い上がるなよ。平民風情が」


完全にラファエルがキレていた。

ギロリとアマリリスを睨みつけているラファエル。

そんなラファエルを見て、私の心臓が高鳴っていた。

ラファエルが私を選んでくれた。

ヒロインではなく、私を。

ゲーム補正でヒロインに奪われてしまったらどうしようかと思っていた。

でも、ちゃんと私を選んでくれたラファエルに、また泣きそうになった――


………んだけど…


「大体俺がソフィアに婚約を申し込んだんだぞ! 最初はソフィアに見向きもされてなかった俺が! 必死でソフィアを口説いて惚れさせたんだ!! 今は幸せ絶頂なんだ! なのになんで邪魔するんだ!」

「「「「「………」」」」」


私も、アマリリスも、ライトも、いつの間にか来ていたルイスも、その他大勢の騎士も、その場にいる全員がラファエルの言葉に固まってしまった。


「今日のデートもお前のせいで台無しだ! ルイスを説得してデートの時間を確保するのがどれほど大変か分かっているのか!? 昼の食事の時間もティータイムの時間ももっと欲しい! ソフィアとの貴重な時間を取るのも大変なのに!! なんで俺が愛しいソフィアを置き去りにして尻軽女を捜し回らないといけないんだよ!! 俺が追いかけたいのはソフィアであって、お前じゃない!!」


………

………………

………………………ラファエルさん……

私の感動を返して…

涙も引っ込みました…

ビシッとアマリリスを格好よく指差すのはまぁいいとして…

さっきまでの格好いい王太子、何処に行ったの……?

素のラファエルさん、出まくりですけど…

いつも人目があれば王太子モードのハズなのに……


「王宮中香水の匂いがキツいんだよ! 吐き気する! ソフィア、癒して」

「………ぁ、ぅん……」

「何処を歩いたかすぐ分かったけど鼻が可笑しくなりそうだ。やっと見つけたと思ったらソフィアに絡んでるし。後ろからブスッといきそうになった」

「………」


こ、怖い…

目の前でしないでね……


「今度のデートは上手く行くと思ってたんだ! なのに可愛いソフィアとデート出来なかった…。出掛けることすら出来なかった……くそっ…」


ラファエルもデート、楽しみだったんだ…

自分だけじゃないと分かって、私は微笑んだ。

そしてラファエルが王太子の仮面を脱いだのは、その鬱憤を発散したかったからだね…

そもそもの原因に対して。

………取りあえず、ブラックラファエルさんは一旦しまってもらいましょうか。

人前で恥ずかしい言葉をこれ以上言われるのは、遠慮したい!!

二人きりはともかく、こんな所で叫ばれたらまた噂になるし…

恥ずかしいし…


「今ラファエルといられるから、私は嬉しいよ?」

「………ソフィア……ああ…可愛い!!」


ぎゅむっと苦しいぐらいに抱きしめられる。

今日は特にラファエルの言葉も行動も、大胆で大袈裟になっている。

……私が疑ってしまったからかな…

それともアマリリスがいるから?

私はラファエルの背に腕を回しながら、そんな事を考えていた。


「はい、イチャつくのはその辺で」

「どっか行けルイス」

「馬に蹴られるのは遠慮したいので、立ち去りたいのは山々なのですが、この平民の処理をどうするかが先です」

「チッ」


盛大に舌打ちするラファエルに、私とルイスは苦笑する。


「サンチェス国に強制送還。2度とこんな事にならないように厳重に閉じ込めてもらって。この国にサンチェス国民を裁く権利はない。ただ、2度とこの国に入国は禁止するよう要求してくれ。まぁ、ソフィアを害そうとしたんだ。あちらも容赦しないだろう。大事なソフィアを傷つけようとしたのだから」


………本当にね。

どうしてサンチェス国王家はあんな風になってしまったのだろうか。

私のことなんか、娘ではなく国益の政略結婚させる為のただの王女、としか見てなかったはずなのに。

ラファエルと婚約してから過保護になっている。

家族より国益だった人達が、私の心配をするようになった。

私の行動のせいだろうか?

………よく分からないけれど…


「とにかく今後一切、俺とソフィアに近づかなければいいよ。その女に興味ないし」


ラファエルが容赦なくアマリリスに言い放ち、私を見てニッコリ笑った。


「今度ソフィアに何か言ったり、何かしたりしたら消せばいいしね」


………いや、良い笑顔で何怖いこと言ってるの。

ヒクッと私の頬は引きつった。


「本当は俺が処分したいけど、サンチェス国の人間に対して俺が動けば同盟壊れちゃうし」


………冷静な判断ありがとう、と言った方が良いのだろうか…?

ラファエルに言われた手前、もうアマリリスは言葉を発せない。

騎士達に連れて行かれた。

その表情は、抜け落ちていた。

最初に見せていた彼女は見る陰もなかった。

私はアマリリスの姿が見えなくなるまで視線で追い、見えなくなって息をついた。


「………ラファ――ひゃあ!?」


ラファエルを今一度見上げようとしたら、背と膝裏を掬い取られた。


「じゃあルイス。後はもう良いだろ。俺とソフィアの時間が削られた分、休むぞ」

「………はぁ。もうなんなら明日1日休んでデートしてきて下さい」

「よく分かってるじゃないか」


ラファエルはご機嫌で、私を姫抱きしたままスタスタ歩いて行く。

先程のラファエルの言葉を聞いた後で仕事などさせたら、今度はどうなるか分からない。

私とルイスの心は一緒だっただろう。

互いに視線が合えば、苦笑い。

私は大人しく、ラファエルに運ばれたのだった。


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