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第76話 2度目の




空気がザワついていた。

辺りはいつもと変わらなく見えた。

けれども、私は肌にピリピリとした空気が当たることに、眉をひそめた。

今私は中庭にいた。

中庭は緑に包まれ中心に元々あった丸テーブルと椅子に座ってティータイムを取るのが、私のお気に入り。

その場所に座って今日もお茶を楽しんでいたのだけれど…


「………ライト」

「はい」


背後に執事風な服を着たライトが立っている。

………我が影ながら格好いいんだよね。

執事服がよく似合う。

って、それは置いておいて。

ラファエルが突如、護衛としてライトを傍に置いておけと言い出した。

先程ラファエルと気持ちを確かめ合った後、デートの予定が急遽ラファエルに仕事が入った。

滅多なことではルイスは呼びに来ない。

特にラファエルに休みを与えたときには。

そのルイスから耳打ちされた事に顔を険しくさせ、ライトの件を私に強く言って出て行った。

緊急事態。

影であるライトを常に護衛として姿を見せておけと言うことは、そういう事。

今度こそデート出来ると思ったのに邪魔された、とか言わない。

緊急事態の時にそんな事など考えてられないから。

仕事――国優先。

私もラファエルもそれは変わらない。

ラファエルが出て行った後、ライトに事情を聞けば、王宮内にアマリリスの身があるという。

牢にいるけれど、前科がある。

今回も牢番を誘惑して出てくるかもしれない。

私はわざと部屋から出てきた。

立ち入り規制区域でも安全だとは思えなかったからだ。

アマリリスの誘惑は、甘く見てはいけないと思う。

女に甘い牢番ならともかく、サンチェス国の牢番を誘惑できるのは相当だと思う。

何故なら、二心は抱かない…いや、抱けない者を採用しているからだ。

既婚者であり、そして――奥様が恐妻、という男達を。

なんだそれは、と思うだろう。

私も前世の記憶を思い出してからは、この人選の仕方を聞いて同じように思った。

でも実際一度も女の誘惑に負けた男はいない。

そんな男達を誘惑して出てきたアマリリス。

ランドルフ国の牢番はどうか知らないけれど、サンチェス国の牢から抜けたアマリリスを甘く見たらいけないと、私は人目がある中庭へと来たのだ。

ここなら周りを騎士が巡回してくれるし、見張りとして数人立ってくれている。

部屋で1人でいるよりよほど安全だと思った。


「………出てくると思う?」

「1度出てきていますから。ただ……」

「………ただ?」

「ランドルフ国の牢は機械制御式ですから、難しいと思いますがね」

「機械制御式?」

「牢番は人ではなく、機械です。誘惑も何も効かないと思いますが」

「………」


じゃあ、私がここに来た意味は?

早く言えよ、と言いたかった。


「けれど、機械の設定を操作できる人物であれば、可能ですがね」

「………」


ライトの続いた言葉に、私は固まった。

操作パネルとかなら、前世の記憶があれば何とかなるのでは、と思ってしまったから。

彼女が前世、プログラム関係の仕事をしていたとか、機械に強い・詳しいとかだったらあり得ないことではない。


「………その操作って牢から手が届く範囲なの?」

「不可能、とは必ずしも言えないと思います。無理して腕を伸ばせば」

「何でそんな近くに作ってるかな……」

「王の優秀な国政の賜物でしょう」


迷惑な王だな。

思わずそう思ってしまった。


「………ラファエルが慌てて出て行ったことを考えると?」

「十中八九、逃げたんじゃないですか?」

「………」

「それか、予想外の出来事があったとか。バカ令嬢関連ではないことで」

「それでライトつけとけなんて言う?」

「縦ロールが来たとか?」

「………それはそれで嫌だ」


ヤな事思い出させないでよ…

もぅ……どっちも平民になったんだから、これ以上何もしないで欲しい…

私はラファエルの事、ランドルフ国の事を考えていたいのに…

でも……

私は彼女ヒロインに対して、言いたいことがある。

いい加減にして欲しい、と。

いつまでゲーム感覚なんだろうか。

ここは現実で、私はちゃんと生きている彼を知って、恋に落ちた。

彼も私を好いてくれている。

そんな私達の関係を、乱す権利が貴女にあるというの?

人の彼に言い寄る権利があるというの?

アマリリスにかき回された鬱憤もあった。

アマリリスがラファエルに近づかなければ、私はラファエルに対して不安になることはなかった。

疑うことなどなかった。

本当に信じているのなら、そんな事にはならなかっただろう、と言われれば何も言い返せないけれど…

自分の不甲斐なさを棚に上げて、他人を責めるんじゃない、と言われても反論できないのだけれど…

でも、最初の原因はアマリリスがラファエルに言い寄ったからであって。

婚約者がいる男に色目使ってきたのもアマリリスで。

何度彼女に言えば分かってもらえるのだろうか。

婚約者がいる男に近づくな、と。

自分がされたらどう思うのか、考えて欲しかった。


そんな事を思いながら、私は近づいてくる人物に視線を向けた。


ライトが私を背に庇ってくれるけど、私は視線を外さなかった。

1度あれば、当然2度目も疑う。

そしてそれは当たっていた。

私はゆっくりと椅子から腰を上げた。

視線は外さずに。


「ごきげんよう。アマリリス」


私は数m先で立ち止まった女に、そう言った。


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