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第74話 不安 ―R side―




「ソフィアが変だ」

「………」


真顔で言い放った俺を、冷ややかに見下ろすルイス。

………なんだよ。


「王太子。仕事して下さい」

「朝から今までしてたじゃないか! 昼過ぎてるんだぞ! ソフィアとの昼飯食わせないくせに! 休憩ぐらいくれ!! 食事をくれ!! そして俺の愚痴を聞け!!」

「嫌です。休憩はどうぞお一人で」

「鬼か!!」


2日前、ソフィアと共に眠ることが出来なかった。

可愛いソフィアを朝抱きしめに行って、一緒に日課を行った。

いつも通りだったはずだ。

なのに、ソフィアが作り笑いをしている。

あれほど作っているかそうでないか分かるって言ったのに。

何かあったのか聞いても、笑うだけ。

嘘をつくな、隠し事は良いと言った手前、言いたくないことを無理矢理聞くことは出来なかった。

嘘をついているわけじゃないから。

なんでもない、と言われたわけではないから。


「はっ! まさか他に好きな男が!?」

「あり得ませんね」

「なんでだよ!?」

「何処に出会いがあると思ってるんですか。貴方以外近づけないようにしているくせに」

「それもそうか。じゃあなんだ?」

「知りませんよ」


冷たく言われ、俺はペンをルイスに投げつけた。

難なく受け止めるルイスに、俺は悔しくなる。

宰相なんだから文系でいろよ。

大人しく当たってろよ。


「あーもう!! あの尻軽女の処理が追加になって、俺はソフィアとのイチャつく時間がない!!」


バンッと机を叩く。

そうでもしないと、苛ついてどうにかなりそうだった。

ソフィアを抱きしめたい!!

この鬼宰相!

休憩をくれ!!

俺にソフィアをくれ!!

ソフィアという癒やしをくれ!!


「………ぁぁ、それじゃないですか?」

「………は?」


鬱憤が爆発しそうになった時、ルイスの冷静な言葉が俺の思考を止めさせた。


「あの後、あの女の匂い、拭ってから行きましたか?」

「………匂い?」

「牢中に充満するほどの香水の匂いを付けてたんですよ? 抱きつかれた貴方にもついていたでしょうね? で、着替えて行ったんですか?」


ルイスの言葉にさぁっと俺は顔を青くした。

ソフィアに会いたい、ソフィアの香りで癒やされたい、と時間が空いた隙にそのまま向かった。

あの女の匂いがついているなど、気づかなかった。


「恐らく王太子が浮気してきたとでも思ったんじゃないですか? 花街とか行ってたのではないかと。元遊び人の王太子ですからね」

「遊び人言うな!! 街の状態を知るために彼方此方動き回ってただけだ!! 女と遊んだ事なんてねぇよ!! そもそも俺はソフィア一筋なんだぞ!?」

「そうですね。その顔で一途ですよね」

「顔関係ねぇだろ!?」

「………はぁ。ソフィア様に今の王太子の言葉遣い、聞かれたらどうなるんでしょうね」


ルイスの言葉にピタッと固まってしまった。

思わず周りを見渡してソフィアがいないことを確かめてしまう。


「いくつになっても気を抜ける相手には下町時代の口調に戻るんですから。元不良王太子」

「元不良言うな!! そもそもソフィアには話してあるし!!」

「で? その口調で話されたことは?」

「ぐっ………あった、いや、なかった……?」


………なかった、はず…

いや、怒ったら出てた、かも…?

覚えていない…


「果たして、幻滅されるかどうなるか」

「そ、ソフィアはこんな俺も愛してくれる!!」

「今疑われている最中では?」

「そ、ソレが原因だったかは分からないだろ!?」

「タイミング的には?」

「うっ………ピッタリです…」

「………何やってるんですか貴方は……」


ルイスに呆れられる。

し、仕方ないだろ!?

俺はソフィアが初恋で、初彼女で、初婚約者なんだ!!

女の事は詳しくねぇんだよ!!


「だ、大体! 婚約者も妻もいないお前に言われたくない!!」

「貴方が結婚しないからでしょうが」

「出来る年齢じゃないんだよ! ソフィアが! って、ソレ理由にならねぇだろ!!」

「なりますよ。臣下が主君より先に結婚できるわけないでしょう」

「………いや、お前成人の時、俺【ピー】歳じゃねぇか。主君関係ない………って! 何の音をかぶせてきてるんだよ!!」

「私の年齢がバレるじゃないですか」

「いやお前、俺の親父と同じ歳だからな? 皆知っているからな?」

「とにかく、私は王太子が無事に王になるまで結婚いたしません。仮でも私は今王座についているのですから、バレるわけにはいかないでしょう」

「………まぁな」


ルイスとのバカなやり取りで、何とか乱れた気持ちが落ち着いてきた。


「………で? そう言うって事は彼女いるんだな?」

「まぁ、一応。ですが、この忙しさで殆ど会っておりませんが」

「は? なんでだよ。俺は制限してないだろ」

「彼女は理解者ですよ。国が落ち着かないと私がゆっくり出来ませんからね」

「………そうか。すまん」

「いえ、王太子のせいではありませんから。立て直しにはソフィア様のアイデアで順調ですし」


ソフィアの名前が出て、俺は落ち込んだ。


「………ぁ~……ごめん~…ソフィア……」


元は俺の迂闊な行動のせいだ。


「………仕方ありませんね……今日はその仕事を片付けたら終わりで良いですよ。その後は存分にイチャついてきて下さい」

「………へ?」

「女性は愛情を向けてくれる相手、関心がない相手、笑顔を向けられても本心は見抜くんです。貴方から直球に聞かなくても、愛情を与えていれば信じてくれますよ」

「………それは、ソフィアは俺を信じていない、ということにもなるのではないか?」

「信じていても、不安になることはありますよ。今の貴方がまさにそうでしょう」


ルイスの言葉にハッとする。

そうだ。

俺は不安だった。

ソフィアを愛していても、信じていても、あの作った笑顔一つでこんなにも不安になった。

それを俺の軽率な行動で、俺がソフィアを不安にさせていたんだ。


「………助かる。すぐに終わらせる!」

「はい。………ソフィア様は昼食は要らないと言っていたそうです」

「っ! ………一緒に取る。準備させてくれ」

「畏まりました」


ルイスが出て行き、俺はギリッと歯を噛みしめ、目の前の書類に取りかかった。


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