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第71話 悲報




「姫、失礼いたします」


編みぐるみをしている最中にライトが上から降ってきた。


「………どうしたの」


ライトの表情に焦りを見て、私は眉をひそめた。


「婚約者様が」

「………ラファエルが?」

「女に誘惑されております」

「………」

「………」

「………で?」


ライトの言葉を頭で反芻し、考え、出た言葉がソレだった。

………私はバカなのだろうか、それとも賢いのだろうか。

どっちなのか判断つかないな。

普通の令嬢なら嫉妬ですぐさま飛び出すのだろうけど、この場合の私は立場上動いてはいけないだろう。

まだ「何処で」「誰に」を聞いていないし。


「いかがなさいますか」

「………それは、私がどう返したら正解なのかしら? まず初めに、相手は誰」

「美女でした」

「遠回しに私に喧嘩売ってる?」


少しイラッとした。


「で、何処でラファエルは口説かれてるの?」

「街の酒場です」

「完全に私が行ってはいけないところじゃないの」


街に行ったらラファエルに怒られるし。

酒場なんて入ったらいけない年齢だし。

ラファエルもまだ成人じゃないから行ってはいけないと思うけど、視察と言われたらそれまでだ。

感情に任せて動かなくて良かった……


「もう一度聞くわよ。相手は誰。ライトの事だから調べてあるんでしょ。私を貶す時間があるならさっさと言いなさい」


どうせ日頃の私への鬱憤を言葉で発散してるのだろうけどね。

私は仮にも貴方の主なんですけどね…


「バカ令嬢です」

「アウトでしょ」


反射的に返してしまった。

バカ令嬢ってライトとカゲロウがサンチェス国で言っていた人物。

1人しか私には思いつかないし。

アマリリスの事だとすぐ分かった。


「罰はまだ受けている最中じゃなかったの? サンチェス国から逃げ出した?」

「正確にはまだ罰は正式に決まっておりません。取りあえず平民落ちだけが決まっておりました」

「………見張りを誘惑か何かしたのかしら」

「でしょうね」


本当にあの人はやってくれる…


「サンチェス国に報告を。脱獄犯がランドルフ国に来ているって」

「バカ令嬢の方は?」

「ラファエルがどうにかするでしょ」

「………」

「何」


沈黙するライトに私は怪訝な顔をしてしまう。


「それが、婚約者様はバカ令嬢と気づいていないようで……酒場の女だと思っており、強くは言えないようでして」

「………は? ラファエルはアマリリスの顔を知っているはずでしょ?」

「似ているとは思っているようですが、サンチェス国から脱獄してくるはずないという先入観なのか、顔を覚えていないのか、のどちらかの思い込みのせいだとは思います」

「………」


私はため息をついた。


「カゲロウ」

「何~?」


天井からカゲロウが出てきた。


「聞いてたわね? サンチェス国まで行ってきて」

「分かった~」


カゲロウが窓から出ていった。


「ライトはこのままラファエルの所に戻って」

「それでは姫の守りが」

「大丈夫。見張りの騎士達が部屋の外にいるし」

「………」


沈黙するライトに私はまたため息をついた。

………今はさっさと行って欲しいんだけど。


「それとも何? 私が一緒に行けば良いわけ?」

「それはダメです」

「ならさっさと行け」


ライトを追い出すように強い口調で言ってしまった。

自分は冷静だ、と思っていたのに。

ライトが渋りながら出て行ったのを見送り、私はソファーに座り直した。


「………だい、じょうぶ…」


私はラファエルを信じている。

………信じているはず、なのに……

どうしてこんなに胸がギュウッと握りつぶされたかのように、痛むのだろう。

ふと視界に入った編みぐるみの猫を見つめた。

私が作った第一号。

ラファエルが可愛いと言って離さなかったけれど、なんとか奪い返した子。

変わりに綺麗に出来た猫をあげた。

ツンと猫を小突く。


「………ラファエルのばぁか…」


イケメンの彼だ。

美女に口説かれるなんて、あり得ないとは思っていない。

だからこそ、私は確約を求めたのだから。

その言葉さえあれば、私は彼の横に立っていられると自信を持っていた――はずなのに。


「醜いな、私」


ラファエルとヒロインがくっつくかもしれない。

私は捨てられるかもしれない。

私を絶対もらってくれると言った口で、他の女の誘惑に負けるなんて最低。

ラファエルも所詮、男だ。

普通の顔の女より、美人を選ぶよね。


そんな考えが次々と頭に過ぎり……

私は自分を軽蔑してしまった。

ラファエルを信じているはずの、自分の奥底に巣くう醜い感情に気づいてしまった。


「………これじゃ、ラファエルを好きだと………言っちゃだめ、だよね…」


ラファエルは私ではなくアマリリスを選ぶ。

そう決めつけるような言葉を考えてしまった時点で、私はラファエルを心の底から信用していなかった事に気づき、目を伏せた。

これではラファエルが普段言ってくれている言葉を、否定してしまっている事に否が応でも罪悪感が出てくる。

何が何でも信じていなければならないのに。

一度抱いてしまった感情。

私は今後、ラファエルに好きだと言ってはいけない気がしていた。


「………ごめん、なさい……」


私は体を丸め、両手で顔を覆った。

私はアマリリスに対して醜い嫉妬心を、ラファエルに対しての感情を、抑えるのに必死だった。


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