第07話 私は、無力です
すみません。
今回は少し短いです。
カゲロウとライトに任務を与え、私は部屋で刺繍。
本当に何やってるんだろう、私。
何も出来ずに皆を待つことだけしか出来なくて、苦しい。
一段落終えた刺繍を刺繍箱の上に置き、立ち上がる。
窓から見える景色は変わらない。
美しすぎる庭。
サンチェス国に居たときもそうだったけれど、無駄に税を使っていると思う。
こんなに王宮の庭を綺麗に出来るなら、もっと国民に返して欲しい。
でも、私は願うだけで何も出来ない。
ランドルフ国ではラファエルの婚約者としての立場しかない。
ランドルフ王家に進言できる権限は何処にもなく…。
更にラファエルが居ない今、自由に部屋を出ることさえ出来ない。
私は深窓の令嬢か…ってくらいに。
「姫様~」
「! カゲロウ」
いつの間にかカゲロウが傍に居て、私に書類を渡してきた。
「調べてきたよ~」
「ありがとう。食事は用意して貰うわね」
「俺、姫様の料理食べたい」
「………分かった」
苦笑して私は先日街で買った食材を使った料理を振る舞った。
この部屋には何でも揃っている。
だから自炊だって出来るのだ。
本当に普通の民家のような内装の部屋。
私を監禁するための部屋なのかとも思ったことがある。
でもラファエルの顔を見る限り、そんな事はあり得ないと思う。
………絆されているからかもしれないけど…
そんな事を思いながらカゲロウが持ってきた書類に目を通した。
「………ぇ」
そして目を見開いた。
「ちょっ……カゲロウ!? これ、本当!?」
カゲロウが手を抜くはずはない。
そう思っていても聞かずにはいられなかった。
「姫様だったらそういうと思ってたよ。やっぱり僕たちの姫様だね」
ニッコリと笑うカゲロウの顔には嘘偽りはない。
書類に書かれていることは本当だ。
内容は……
“国庫には何もなかった”
だった。
何もない。
つまり、民から集めた税も、王家が持っているはずの金品も、何もかも。
「どう、いう…」
「国庫番の話を盗み聞きして、理由を探ってみたけど」
「なんて?」
「姫様が確実に怒る内容。王家は贅沢しすぎた。サンチェス国からの輸入品があるから民は飢えることがない。だから放っておき、国の為の国政などを怠った」
グシャッと報告書が潰れた。
慌てて机に置いてシワを伸ばす。
そんな私の様子をカゲロウは気にしない。
「自分たちは贅沢三昧。そんな事がいつまでも続くことは無い。国庫が底をつきかけて漸く王家は焦った。サンチェス国への輸入品の支払いにも困窮することになり、一時凌ぎで他国にサンチェス国からの品を売り、それを支払いに充てた」
「バカな!? そんな事したら!」
「だから国民には食料が配分されずに貧困していった」
カゲロウは淡々と語った。
私の反論にも何も思わない。
それが影の役目であり、性格だ。
「そしてこんな状態になったのは1番政務が出来ないと言われている姫様の婚約者が原因だと広められた。第三王子は母親が平民で、王の遊びが過ぎて出来た子だから、利用して死んでも良いって思われたんだろうね」
「………成る程ね」
そんな事のためにラファエルを、国民を、蔑ろにしていたのか。
私は許せなかった。
ラファエルは国民のために走り回れる心優しい人だ。
恐らく、国民をどうにかして救いたいから、留学中にサンチェス国の王家との繋がりをもっと強くしておきたかった。
だから王女の私に目を付けて観察していた。
少しでも国民を救うためには、輸入する品を少しでも多くしたいと純粋に思っていたのだろう。
それが分かって嬉しかった。
自分を貰ってくれる予定の人はやはり優しい人だったと。
だから、これからも大切にしてくれるだろう。
この婚約は間違っていなかった。
私にとっても、ランドルフ国民にとっても。
この現状を知って、私はますますこのランドルフ国からいなくなるわけにはいかない。
王女として、彼の将来の伴侶として、しなければいけない事が山ほどある。
私はソファーに下ろしていた体をゆっくりと動かし、立ち上がる。
「カゲロウ」
「なに?」
「私のお願い、聞いてくれる?」
「何でも聞くよ!」
ニッと笑って、食事を終え立ち上がる。
「ラファエル様の元へ、私を連れて行って欲しいの」
「いいよ」
即答したカゲロウは、私を肩に担いだ。
身長が私の方が高いから、姫抱きやおんぶは出来ない。
米俵になった気分だ。
でも、ライトなら絶対に頷かない内容だった。
カゲロウを残す方にして正解だった。
「捕まっててね姫様」
カゲロウは音もなく部屋の窓から外へ出た。
そして闇の中に私と共に消えた。