表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
678/740

第678話 いつもの光景 ―A side―




私の名前はアマリリス。

元男爵令嬢だ。

姫様――ソフィア・サンチェス王女の侍女見習いとしてここにいる。

更に元の世界――日本の記憶を持つ転生者。

元の名前は陽本明里。

苗字も名前も明るい陽の元にいるようだけれど、実際は引きこもりでゲームやパソコンをしている、いわゆるオタクだった。

そしてこの世界、『恋する乙女は美しい~強奪愛は情熱的~』というタイトルである乙女ゲームの初代ヒロインへ転生してきたという、まぁ小説にありがちな設定な立場である。

その乙女ゲームと酷似したこの世界に生まれ、記憶を持ち、これ幸いと好き勝手やって、現在仕えることとなった主であるソフィア・サンチェス王女に危害を加え、罰を受けている身である。

今更何故そんな説明を、と思われただろう。

視線の先にいる、私の主となる姫様の挙動不審な行動に、内心微笑ましくもあり、じれったさを感じ、思わず現実逃避をした結果である。

この国の王太子、ラファエル・ランドルフ殿下は、『恋する乙女は美しい~強奪愛は情熱的~』(これ以降略して『恋奪』)2の攻略対象。

私の本命は彼だった。

けれども、彼はランドルフ国王太子であり、1の時点では攻略不可能。

『恋奪』1のヒロイン役の私では攻略不可のため、妥協して『恋奪』1の攻略対象のレオナルド・サンチェスを攻略していった結果、パーティーで断罪されたのは悪役令嬢ではなく私となり、更にそのパーティーでラファエル王太子に見初められたのは、ゲームではモブであったソフィア王女だった。

2でラファエル王太子の婚約者のはずだったユーリア・カイヨウはその時点で登場せず、何もかもが違った。

そこで気付けば良かったのに、私はラファエル王太子をソフィア王女から奪うために動き、最後は罰せられるという…

私の方が悪役令嬢になってしまい、結果、婚約者を奪い傷つけようとした相手であるソフィア王女に命を救われるという。

私は生まれ変わって、別人になって、更にヒロインとなったから、ゲーム通りに好き勝手やった。

やっていいんだと思った。

ここが現実だと、そんな当たり前のことも気付かずに。

………結果的に、姫様の元で好きなことが出来ているから、これで良かったのだと思える。

勿論、罪はしっかり受け止め、償っていきたいと思っている。


「だ、だから! 自分で食べられるっ!!」


おっと。

自分の思考に意識を持って行きすぎだわ。

私は今給仕侍女としてお2人の世話の途中なのだから、気を抜かないようにしないと。

顔を真っ赤にした姫様が、ラファエル様が食事をフォークに刺して差し出してくる前に手を上げ、それ以上近づかないようにしている。

ラファエル様は凄い笑顔だ。

………あの溺愛丸出しの顔を見ても、私は私を選んでくれるはずだと思っていた昔の自分を殴りたい。


「そんな事言わずに手をのけようか。ついでに口は開けてね」

「ラファエルっ!!」


………姫様は姫様でいい加減慣れようよ。

何回されてるのよ。

それどころか結構キスしてるくせに。

いつ一線を越えてしまうか、ってこっちがハラハラするぐらいに。

………いや、もうラファエル様が姫様を離さないだろうから、そういう関係になっても仕方ないって思う部分もあるよ。

でも一応1国の王女と王太子だからね。

民の見本にならなきゃいけないってことは分かるけど。

好き勝手やってた私が言えることではないけれど。

というか、いざそういう事になったときに、姫様のキャパがオーバーしないかどうかも心配だけれど。

さっきまで長期休暇明けの試験のことに顔を真っ青にしていた姫様が、今は顔を真っ赤にして狼狽えているのには笑える。

侍女たる者、顔には出せないけれど。

チラッと庭園へ出る通路に視線を向けると、こちらに歩いてくるルイス様が見えた。

そろそろラファエル様の休憩が終わるらしい。

けれど2人の食事はあまり減っていない。

こんな状態で席を立たれては、せっかく作った料理が台無しになってしまう。

私は2人の視界に入っていないけれど頭を下げ、その場を離れる。


「ルイス様」


近くまで行き頭を下げる。


「ラファエル様は」

「まだお食事中でございます。しばしお時間を下さいませんか」

「………遊んでいるようにも思えますがね」


確かに。

と、同意してしまいそうになるほどには、ラファエル様は姫様をからかって遊んでいるように見える。

食べ物であまり遊ばないで欲しいんだけどね。


「………ですが、食事はきちんと取って頂かないと、午後の業務に支障をきたします。ソフィア様もいい顔をしませんからね」

「ありがとうございます」


再び頭を下げたとき、後方から声が聞こえる。


「あ、ルイス」

「ラファエル様。午後の仕事がございます。手早く願います」

「………はぁ。はいはい」


ラファエル様がため息をついて残念そうな声を出した。

それに姫様が苦笑する。

いつもの光景である。

姫様は私の恩人で、大切な方だ。

その姫様の感情を動かすのはいつもラファエル様。

互いに想っていて羨ましい限り。

………まぁ、私にも一応そういう関係の人はいるのだけれど…

内心苦笑しながら、先程立っていた位置まで戻ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ