第65話 清々しい笑顔でした
「ただいまソフィア。何もなかった?」
ラファエルが夕方帰ってきて開口一番がそれだった。
満面の笑みで。
………ぁ~……縦ロール嬢は生きているのだろうか…
「何もなかったよ。……いや、目的の物以上の物に出会って上機嫌だよ」
「そっか。俺も行きたかった…」
「公務優先」
「分かってるよ」
「ラファエルの方こそ、ご機嫌だけど何かあったの?」
そう聞くと、ますますラファエルの笑みが深まった。
………ぁ、聞かない方が良かったみたい…
「ソフィアを襲ったのはテイラー国王女って聞いてるよね?」
「………正確にはその配下、でしょ」
「うん。で、今日王に証拠突きつけたんだよね。影達に探らせた情報全て」
小出しにしなかったんだ…
相当怒ってたんだね。
「同盟国王子の婚約者暗殺未遂。これを放置しておく国とは同盟を結べない。そう言い放ったら、第二王女は地位を剥奪。平民落ちになったよ」
「………」
ラファエル怖い…
「他国との同盟のために嫁に出す第一王女はいるから、大丈夫でしょ。むしろテイラー国の恥になる王女がいなくなって良かったと思うよ」
辛口評価…
でも王家の人間には、冷静に、そして冷酷に人を切る判断が下せる事が重要視される。
王家は自分の感情に左右されて、あらゆる事の判断をしてはいけない。
冷静に先を見据え、国のためになる判断を下さなければならない。
だから、縦ロール王女のあの言葉の数々、私にした事、これは王家として失格になる。
だからラファエルも、テイラー国王も、王女を切った。
………ま、あの王女が平民落ちしたからって、性格が変わるとは思わないけどね。
「これで第二王女に従う従者もいなくなった。ソフィアの命はもう狙うことは出来ないと思うよ」
「………そっか」
「もう恐怖はない?」
「大丈夫。ラファエルが一緒にいてくれるから、私に怖いものは何もないよ」
私が言った瞬間、ラファエルが顔を手で覆った。
え……どうし……
………ぁれ?
私今、無意識に恥ずかしい台詞言ってなかった…?
何言ったっけ…?
………
思い出して、私も両手で顔を覆った。
………何言ってるの私…
これじゃラファエルとずっと一緒にいたいと、言っているようなものじゃないか。
も、勿論一緒にはいて欲しいとは思っているけれど、四六時中じゃない。
適度、そう適度に一緒にいたいって思ってるだけだから!
公私混同して、って意味じゃないからね!!
「………ソフィア」
「は、はい!!」
「………不意にそういう事言うの、止めてくれる?」
ほんの少し頬を染めながら言われても…
「………ラファエルも言うじゃない…」
「俺はいいの。ソフィアの可愛い顔見たいから」
いや、意味が分からない…
ラファエルは良くて私がダメって、不公平だと思う。
す、すすんで言いたいわけじゃないけどね!
「こ、公務は終わったの?」
「うん。終わらせた」
終わらせたというラファエルは、良い笑顔だった。
多分、無理矢理終わらせてきたんだろうな…
「じゃあ帰れる?」
「ああ、明日の朝に出発しよう」
「お疲れ様」
「ありがと」
「そんなラファエルに、はい」
私は今日買ってきた物をラファエルに差し出した。
「何これ?」
「お仕事頑張っているラファエルにって買ったんだ」
ラファエルの手を取り、手の平サイズの箱をラファエルの手の上に置いた。
「ソフィアが、俺に!?」
「………なんでそんなに驚くの…」
「俺が願わないとソフィアは俺に物はくれないだろ!?」
………いや、なんで…
私だって贈り物ぐらいするよ。
買うか作るかっていう選択肢があることに気づかなかっただけで…
利益の私の取り分で何か買ってあげようって思ってたんだから。
それが遅くなっちゃっただけだよ。
「要らないなら捨てるけど」
「もう俺の物だ!」
最初から奪うなんて思ってないわよ…
そんなに必死で隠さなくても…
「見ていい?」
「どうぞ」
ラファエルが箱を開けて中身を見る。
「カフリンクスじゃないか!」
「タイピンも考えたんだけど、滅多に使わないでしょ? だから公務にも使えるカフリンクスがないか見に行ってたの」
「ありがとうソフィア!」
ラファエルに抱きしめられた。
………って!!
毎回抱きつくの止めてー!




