第64話 目的の物
翌日ラファエルが公務に向かい、私は貴族服を着て、ライトとカゲロウは使用人の服を着て宿を出た。
昨日ライトが見つけてくれている店に向かった。
「う、わぁ……」
私は店に入った瞬間に、目を輝かせてしまった。
その場から一歩も動けなくなるほどに、私の欲しいものでいっぱいだった。
真っ先にカラフルな棚に向かう。
「刺繍糸に刺繍針! ボタンにファスナー!! あ、こ、これは毛糸!? 毛糸があるということは…あ、あった! かぎ針!!」
テイラー国のみにあるとされる、手芸専門店!!
念願のファスナーにまさか毛糸まで売っているとは!!
「………姫……」
「楽しそうだね姫様」
後ろの2人に籠を持たせて、どんどん欲しいものは入れていく。
「姫様お金持ってきてるっけ?」
「………どうせ私の所持金をあてにしているのでしょう」
「俺はお金持ってないよ?」
「………私が姫様専用の宝物庫から持ってきています」
「え? 泥棒?」
「失敬な。姫様にサンチェス国から出る時に命令されたんです」
「じゃあ姫様のお金じゃん。ライトの所持金じゃないでしょ」
「名称はそれですが、私が持たされているので、私の所持金で間違ってはいないでしょう」
何か言われてるな。
でも私は目的の物を全て手に入れるため、店内を歩き回っていた。
「毛糸があればラファエルにマフラーとか作れるよね~」
想像しながら私は楽しくなった。
籠2つをいっぱいにした私はライトに支払ってもらい、荷物は2人に持ってもらう。
私も1つ持とうとしたけど、拒否された。
………ですよね…
さて……
「次は……」
「あちらのお店です」
ライトが左側の店を指した。
「ありがと」
私は別の店に足を踏み入れた。
そこは、紳士小物専用店だった。
「いろんな物があるね」
「姫様のお求めの物はこちらに」
ライトに導かれるままに商品が入れられているガラスケースに近づく。
「うん。確かに」
私はケースの中の商品を眺める。
どうしてこう心躍るのだろうか。
他人のために贈り物を選ぶのは。
「これとかラファエルに似合いそう」
指差しながらライトとカゲロウを見る。
「私に聞かないで下さい」
「俺もそういうことわかんない~」
カゲロウはともかく、ライトは興味がないからでしょ…
センスはあるくせに……
「よく分からないけど、姫様だけで選んだ方が喜ぶんじゃないの? 婚約者様」
「ですね」
………うん。
ライトは面倒くさいだけだね。
尤もだけど、カゲロウからそんな台詞が出るなんて思わなかった。
「分かったわよ」
私は悩んだけれど、結局最初に選んだ物を選択した。
店員に包んでもらい、これだけは私が持つと言って、ライトにもカゲロウにも持たせなかった。
店を出ると結構時間が経っていたようで、太陽が傾きかけていた。
宿を出たのは午前中。
9時頃だったと思う。
いまは13時くらいかな。
「何か食べてく?」
「大人しく宿に戻って下さい」
「数人に見張られてるから。多分婚約者様の影と、縦ロールの兵士」
「………縦ロールって……」
「あの縦ロール、朝何時間かけて巻いてるんだろうね? ロールが10もあったんだよ? あれが良いと思っているのかな」
………カゲロウ……
わざわざ数えたの?
王女だから侍女が数人がかりで短時間で巻いてると思うよ?
そしてあれかな?
縦ロールって私言葉に出してたのかな?
でないとカゲロウが口にしないよね…?
………いや、カゲロウなら言うかも…?
まぁそれはいいや。
「じゃあ、宿で何か食べよう。ラファエルはいつ帰ってくるか分からないし」
「はい」
「は~い」
私は2人と一緒に宿に向かって足を進めた。
贈り物を大事に抱えて。