第634話 気がつかない鈍感
ブレイクとドミニクが来た。
私はヒューバートを見てにっこり笑った。
ビクッと怯えるのは何故だヒューバート…
「ヒューバート、チャンスよ」
「………何がですか?」
………何故か眉をひそめられた。
本気で分かっていないようだ。
「お祭り。絶好のチャンスでしょうに」
「………?」
今度は首を傾げられる。
ガックリと肩を落としてしまうのは、仕方ないと思う。
何故自分で気づけないんだヒューバート…
それでも男か!
婚約者がいる男なのか!?
さっきの窓の外を見ていた表情は一体何だったんだ!?
「………あんた、こういう機会以外にいつソフィーとデートするの…」
「………あっ!」
顔を覆って言うと、今気づきました、という反応をされた。
ラファエルと私が祭りの話をしているときに気づけ!!
チャンスを逃すな!!
「これから休みなんだし、ソフィーにも休み与えるから……」
顔を覆ったまま目だけ指の間から、彼をジト目で見る。
「うっ……」
………言葉を詰まらせるんじゃない…
「もう! 気が利かずにソフィーに退屈させるようなら別れさせるわよ!?」
「気を付けるのでそれだけは止めて下さいっ!!」
慌てるヒューバートにため息をついてしまう。
婚約者になれただけで満足している風なヒューバートの背を、毎回押さなければならないかもしれない…
何故私がそこまで世話を……
「ボーッと突っ立ってないでソフィーの所へ行きなさい! ソフィーには戻ってこずにそのまま休みにしていいと伝えるのよ!?」
「はいっ!!」
ダッと走って行くヒューバートを見送る。
まったくもぉ……
フッと失笑するんじゃないオーフェス。
「ブレイクとドミニクは? 恋人、または婚約者。もしくは家庭持ち?」
「私には妻子がいますが……」
「私は婚約者が…」
「それならいいわ。せっかく来てもらったけど、休んで」
「「え……!?」」
私より優先させろ、との言葉に2人は目を見開く。
「私には影がいるし、ラファエル様も帰ってくるから。お祭り楽しんできていいよ」
戸惑っている2人は動こうとしない。
許可してるのだから遠慮しなくていいのに。
「それでは護衛の意味がありません!」
「私達は名誉あるソフィア様の騎士に一時的にでもなれたのです! 私達を外さないで下さい!」
必死で訴えてくるけれど、そんなに私の護衛がいいのか…?
名誉ある職ではないと思うけど…
「別に3日間いなくても大丈夫よ? こういう機会でもないとゆっくりデートとか出かけられないでしょうに」
「ですが、主人であるソフィア様がお祭りに行けないではありませんか!」
………そっちか!
そっちの遠慮があるのか!!
確かに私はお祭りに行けないけれど、だからといって騎士も行っちゃダメ、とは道理が通らない。
「今は主である私が構わないと言っているのよ。私は王宮からお祭りの花火を見るの。楽しみにしてるのよ? 一切祭りが楽しめないわけじゃないし」
「ですが…!!」
「行って来いブレイク、ドミニク」
「オーフェス!?」
「私が残る。ソフィア様の事は任せてもらって良い」
なんとオーフェスから助け船が。
「だが……」
「言っておくが、私はお前達2人を相手でも余裕で勝てる」
「っ……!」
………うわぁ……
オーフェス、それは言っちゃダメなやつじゃ……
冷や汗をかきながら私は見ていた。
「3日後には護衛を代わってもらう。その場合は私の分まで働いてもらう。それでいいだろう」
揉めていたが結局は言葉に甘える、との返事を聞けた。
2人は肩を落としながら出て行った。
………そんなに私の護衛がいいのか……?
「オーフェスにも休んでもらおうと思ったのに……」
「さすがに影だけでは心許ないでしょう。見える護衛もいなければ」
「そうだけど、影に姿を現してもらってれば…」
「影は忍ぶ者。むやみに顔を見せる事はないでしょう」
オーフェスの言葉に頷くしかなかった。
確かに影は極力姿を現さない方がいい。
ないものとして扱わねばならない。
「分かった。ありがと」
「どうせ私は1人身ですしね」
「作らないの?」
「いらないです」
キッパリ言われ、私は苦笑する。
ぶれないオーフェスは相変わらずだ。
「アマリリスとフィーアには2人でお祭りに行ってもらいましょうかね。さすがにお仕置き中のアルバートとジェラルドに対しては、お祭りに行かせる気にはならないわ」
「そうですね」
そのままオーフェスと話しながら、私はラファエルが戻ってくるのを待っていたのだった。




