第633話 そわそわ
王宮内が騒がしい。
今日の夕方に祭りがあるから、騎士も使用人も侍女も交代で遊びに行くらしい。
その為に仕事を急ピッチで進めているらしい。
いつも落ち着いている王宮内なのに、楽しみがあると浮き足立ってそわそわするよね。
分かる。
分かるよ?
………でもね…
それでも仕事中だよ。
いつも通りにしなさいよ。
思わずため息も出る。
別にラファエルとデート出来ないからって八つ当たりはしてない。
決してしてない。
私は王女として当然の注意を――
「八つ当たりにしか見えねぇぞソフィア様」
心の中の言葉に相づちされる。
何故だ。
………もしかして悪いクセが出たのかしら…?
気にしたら負ける気がする。
「うるさいアルバート。クビにするわよ」
「なんでだよ!?」
「そもそもなんでまだアルバートとジェラルドがいるのよ」
半目で見ると2人はキョトンとする。
あ、ちなみに声――言葉は戻りました。
なんだったんだろうね?
「なんでって、俺らはソフィア様の騎士じゃねぇか」
「罰として外されてたでしょうが。サンチェス国では仕方なくだけれど、もうランドルフ国に戻ってきてるわ」
「「………ぁ…」」
2人とも“忘れてた”と顔に書いてある。
「オーフェス」
「はい」
「チェンジ」
親指と人差し指だけ立てて、左右に動かす。
「畏まりました」
「え!?」
「ソフィア様許してぇ~!」
2人の言葉を無視して、オーフェスが引きずっていく。
ラファエルも会場の様子を見に行ったし、私の部屋の中は普段通りだな。
ブレイクとドミニクが来たら、ヒューバートとオーフェスに休みを与えて……
そうなるとソフィーも休み――いや、侍女達全員送り出すかな…
お祭りは誰もが楽しむものだし。
………ブレイクとドミニクは独身かしら?
彼女持ち?
所帯持ち?
聞いて対応してあげよう。
影はどうだろうか?
「ライト、カゲロウ、影’s、お祭り行きたい?」
『『『『『『いいえ』』』』』』
『行きた~い!』
………満場一致、ではなかった。
「いいよ。カゲロウ行っておいで」
『ありがとう姫様ぁ~♪』
天井裏から楽しそうな声が聞こえて苦笑する。
影がいるのならブレイクとドミニクを送り出しても良さそうだ。
ラファエルも挨拶が終わったら帰ってくるらしいし。
帰ってきたら王宮の屋上に連れて行ってくれるらしい。
花火だけは見よう、ということで。
楽しみだなぁ。
ラファエルが帰ってきたら浴衣に着替えるつもりだ。
せっかく作ったのだし。
そういえばガイアス・マジュの罰は結局何になったのだろうか?
ラファエルに聞き忘れないようにしないと。
あ、リーリエ王女はお祭り知ってるのかな?
行っていいと伝言お願いしようかな。
あれこれ考えていると、王宮の雰囲気がいつも通りになっているのに気付く。
………ソフィーかな?
チラッと壁際に立っているヒューバートを見ると、彼は窓の外――温泉街の方へ視線を向けていた。
心なしかそわそわしている気がして、苦笑する。
ソフィーが帰ってきたら送り出してあげないと。
そんなことを思いながら私はそっと目を閉じた。




