第63話 背後にいるのは
夜分だったとおもう。
ふと意識が浮上したときの周りの暗さで。
起き上がろうとして、話し声が聞こえてきた。
思わず横たわったまま聞き耳を立ててしまった。
『では、刺客を差し向けたのは、テイラー国王女ってことか』
『街で偶然“サンチェス国王女”って単語を耳にした見回り兵士がいたみたい。で、王女に報告したんだって。姫様がいるって』
『………チッ。あの影達クビにするか』
舌打ちがやけに響いていた。
どれだけ苛立ってるの…
『そうして。姫様傷つける原因作ったヤツ、姫様の傍に置いておけない』
『ああ』
『姫に護衛と言って付けた割には、お粗末な影ですね。女性だからといって適当に影を選んでもらっては困ります』
『弁解しようもない。すまない』
『今度同じ事するようなら、婚約者様から姫様返してもらうよ?』
『それは勘弁してくれ!!』
隣の部屋でこそこそ話しているつもりなんだろうけど…
聞こえてるよ…3人とも…
にしても……縦ロール王女かもとは一瞬思ったけど…
まさか本当にそうだったとは…
アマリリスかもとも思ったんだけどね…
『やはり早急に切り上げて帰国するべきだ』
『それは明日の公務が終わってからにして下さい。公務を姫のせいで中断したとあっては、姫が気にしてしまいます。そもそも姫がここに来たのは買いたい物があったから。その時間を差し上げて下さい』
『そうそれだ。ソフィアは何を買いに来た?』
『それは姫が言っておりませんので、答えられません』
『このやろ……』
多分この時ラファエルがライトを睨んだと思う。
『それよりライト良いの? 姫様に報告する前に婚約者様に報告しちゃって』
『でないとこの人は勝手に動いて、最終的に姫が尻拭いする羽目になりますから』
『俺を子供扱いするんじゃない!!』
………なんかしらないけど…ラファエルとライトとカゲロウが仲良くなってる…
男の人って、仲良くなるの早いんだなぁ…
『貴方が勝手にしたことで姫を危険に晒すことになったのですから、言われて当然だと思いますが?』
『ぐっ……』
『恐らく婚約者様より、姫様の方が護衛選ぶ目は良いよね~』
『目?』
『そ。信用出来そう、出来なさそうは姫様すぐ見抜く。姫様に付けられてた侍女に姫様本持たせなかった』
………え…
それはただ単に自分の趣味の本を、持ってもらうのは悪いと思っていただけなんだけど…
『“サンチェス国王女”と呼ばれる度に眉を潜めて、文句言いたそうな顔をしていましたね』
………あ、顔に出てた?
ごめん…
でも、それだけで人を見る目が良いとは言えないよ?
『それもだけど、その人の仕草ですぐ見抜くよ? 昔は一瞬で王と王妃の影、見抜いてた。普通に侍女の仕事とか従者の仕事している姿見ただけで』
『そうでしたね』
『へぇ…』
『婚約者様が選出した手前、姫様多分文句言えなかった』
『………』
いやいやいや。
どれだけ評価高いの!?
確かに呼び方は気にしてたけど、止めなかったから今回のことになったんだし!
重要視してなかったのは私も同じだし!
影の良し悪しを見分ける目なんてないから!!
『あ~………ソフィアに嫌われる…』
『それ大丈夫。姫様婚約者様にぞっこん』
『………そのようですね。不本意ですが』
ちょ!?
カゲロウ何言ってるの!?
ライトも不本意って何!?
それってライトが言う台詞じゃないよね!?
私は布団の中で悶えないように耐える。
『多分姫様、今後も婚約者様から離れないと思う』
『………でしょうね…』
………なんでライトはやれやれ…みたいな諦めたように言うの!?
『だから姫様の為に婚約者様は全力で采配すべき。姫様危険にあわせないように。囲うんじゃなくて、ちゃんと守りを固めて欲しい』
『私も同意します。今回みたいな避けられた危険を、自ら引き寄せるような護衛は付けられませんように』
『分かっている。すまなかった』
『基本俺達がいれば姫様に危険はないと思うけど』
『怪我をさせることは、でしょう。本日危険でした』
『あ、そっか』
和やかに話しているけど、結構深刻な話してるんだよね…?
私は一応王女だし、怪我したら一大事だしね。
護衛は増やして貰えると安全性は高くなるだろうけど、自由に動けなくなるのが難点だな…
基本的にライトとカゲロウがいれば大丈夫だと思うけど…
そんな事を思っていると、寝室に近づいてくる気配がした。
………この場合、寝たふりが正解なんだろうか…?
起きた方が良いのだろうか……?
でも寝たふりはバレるよね…?
私はドアが開くと同時にもぞもぞと動いて目を擦る。
「………ラファエル…?」
隣を見てキョトンとしてみる。
いるはずの人がいない、と不思議そうにしている風に見えるように。
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
「………うぅん……大丈夫。目が覚めちゃっただけ……何処か行ってたの…?」
「喉が渇いたから水を飲みに」
………嘘つき。
まぁ、私も嘘ついてるけど。
「そっか。私も欲しい…」
「じゃあ持ってくるよ」
ラファエルがまた出て行ってドアが閉まるのを確認して、人差し指を立て、上から下へ動かした。
ベッドの両脇にライトとカゲロウが天井から降り立つ。
「………テイラー国王女の処分は?」
「まだ指示されてないよ」
「そう」
「発覚もしていないようです。恐らく今、婚約者様が影を使って証拠を集め、明日の謁見時に糾弾されるでしょう」
「………なら時間がかかるでしょうね。例の店は?」
「ここから比較的近い距離に密集していました」
「それなら時間内に回れそうね」
「はい」
誰かが部屋に近づいている気配がして、私は手を上に上げた。
2人は天井に戻って行った。
近づいてきたのはラファエルで、コップを手に持っていた。
「ありがとう」
「影から報告聞いた?」
「うん。処理はラファエルに任せるよ」
「うん。任せて」
微笑まれ、私も微笑んで水を口にした。




