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第06話 手足が来ました




ラファエルに国境調査を頼んで二週間が経った。

ここから国境までは3日。

往復で余裕を持って一週間。

二週間経って連絡も何もないのは心配だ。

でも、私がここを出ても何も出来ることはない。

王宮に住んでいるならまだしも、私は離宮に住んでいる。

夜中にこっそり国庫を覗いてくることも出来ない。

ここで出される食事は豪華。

王宮の食問題は――ない。

街だけが被害に遭っている。

考えられることは――


王家が贅沢するせいで街に被害が出ている。

サンチェス国の作物は王宮に蓄えられ、金品が不足するとサンチェス国以外に売り、金品を得る。


国境付近の住民、あるいは山賊などの族が作物を強奪。

それを王家の一部に秘密裏に取引、金品を得ている。


今はこれだけか……

………もどかしい。

何故私はここで大人しくしているのだろう…

サンチェス国なら勝手知ったるなんとやら。

動き回っていたのに。

せめてサンチェス国に置いてこさされた彼らがいればなんとかなったはずなのに…

彼らとは、私の手となり足となって彼方此方あちこちまわって情報を得てくれる、王家が持っている“影”と呼ばれる者達の事。


「………はぁ……」


誰もいないことをいいことに、私はソファーに背中を深く沈める。

首も預けて天井に顔を向ける。


「………」


パチパチと瞬きする。

ここの離宮は天井に目があるのか……

目が合っちゃったなぁ……

………目?


「!?」


ガタンッと音を立ててソファーから立ち上がって後ずさる。


「な、なななっ!?」

「姫様反応面白ーい」

「こら、カゲロウ。姫を驚かすな」

「だって全然姫様俺達に気づかないんだもん。ここに来て色惚けして気配に鈍感になったんじゃないの?」

「言葉が過ぎるぞ」


天井に少しの隙間が空いており、そこから目だけが見えていた。

そして天井裏から聞こえてくる二人のやりとり。

懐かしい声。


「………カゲロウ……ライト…?」


私が心当たりがある2人の名を呼ぶと、シュッと天井から2つの影が落ちてきた。

瞬き一つの間に、私の目の前に長身の男と小柄な男が立っていた。

二人とも黒ずくめで目以外は覆っている。

長身で藍の瞳を持つのがライト。

小柄で翠の瞳を持つのがカゲロウ。

二人とも、私がサンチェス国に居たときに手足となって、色々な情報を持ってきてもらった。

断罪イベントの時の情報も、元は彼らに集めてもらった情報もある。


「どうしてここに…」

「だって俺達姫様の影だもん。姫様がこっちにいるならこっちにいるのが当たり前でしょ?」

「です。王の命令を聞く必要もありません。私達は姫の手足であり、姫以外の命令は聞きません。王も王妃も王子も専用の影がいるのですから、姫に居ないのはおかしいですし」

「………そう言ってここに来たのね……」


私は正直ホッとした。

これでラファエルの手助けが出来ると思ったから。


「………2人とも、お腹空いてる?」


私は食事を勧める――

なんてことはしない。

いや、ある意味2人にとっては食事と言っていい。


「空いてる空いてる!」

「どのような食事じょうほうで?」


そう。

彼らにとっての食事とは、情報収集の事だ。

2人共、諜報活動が生きる意味であり、それが遂行されなければ本当の食事ほうしゅうに有り付けない。

お腹を空かせれば空かせるほど、いい仕事をしてくれる。


「カゲロウ、貴方はここの国庫を調べて。サンチェス国の国庫とどれぐらいの差があるのかも含めて詳細に物品のリストを」

「了解!」


また瞬き一つする間にカゲロウの姿が消えた。


「ライトは国境へ。そこにラファエル様が居れば密かに護衛を。それと同時にサンチェス国の物資が引き渡された場面に出くわしたらそれが何処に行くのかも調べて。その場合、ラファエル様に危険が及ばないように気配って」

「姫は難しいことを仰る」

「その分、食事ほうしゅうは奮発するわ」


私が笑って言えば、ライトは唇を舐め(たように見えた)笑って姿を消した。


「………頼んだわよ。2人共」


私は窓際に行き、国境の方角を見つめる。


「………ラファエル様…」


無意識に呟いてしまい、私は唇を押さえる。


「………まずいな…」


これでは私がラファエルを好きで、心配しているようだ。

た、ただ恋人という立場で心配しているだけ!


王族として生まれたからには民優先だし?

民の事を考えれば国を動かす上の人間は優秀な方がいいし?

おそらく民のことを考えているのはラファエルだけだろうし?

そうなれば婚約者として助けてあげないといけないし?

ラファエルが死んだら私は国に帰されるだろうし?

ランドルフ国の現状を知ったからには放っておけないし?

生きていてもらわなきゃいけないし?

二週間も音沙汰ないんだし、変なことに巻き込まれていたら助けてあげないとだし?

怪我して動けないんだったらライトがいればなんとかなるだろうし?

色々これには理由があるんだし!

す、好きだから心配しているんじゃないんだから!


………思って私は膝をついてしまった。


『これは完全にツンデレの言葉では…』


と、思ったから。


「ぅ~………それもこれもラファエルが帰ってこないから……」


………帰ってこなかったらどうしよう…

見送った日、嫌な予感がしたのは、なんで…?

無事、だよね…

ま、まだ残り物の私をもらってくれてないんだから…

生きて帰ってこなきゃ、許さないんだから…


溢れてきた涙を流れる前に拭い、私は立ち上がってソファーに座り直した。

そして、侍女が置いていった刺繍セットに手を掛ける。

ラファエルが退屈凌ぎにと侍女に言って用意させたものらしい。

気分転換に私は刺繍を始めた。

彼が無事に戻るよう、祈りながら。


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