第599話 やっぱり私のもの
「それでソフィア」
ちん……とベッドの上で屍になりかけている私に対して、つやつやした顔――私という充電をしたおかげだろうか、素晴らしくご機嫌なラファエル。
………なんだこれ。
ちなみにラファエルは、私が視界に入れた椅子に座っていたのではなく、その反対側に椅子を移動して座っていました。
そちらは壁に近いから私も確認しなかったんだよね。
確かによく見たら窓際に置いてある机に対となる椅子が2脚共なかったんだよね。
目の前にある1脚の椅子しか確認しなかった私のミスですね、はい。
でも、人1人通るところがやっとの空間に、ラファエルがいるとは思わないでしょう?
ええ、思わないはずだ!
………っと、それはもういいとして……
「………何でしょうか……」
「ガイアス殿達にサンチェス国を回ってもらったんだけどさ」
ハッとしてラファエルを見る。
ちなみに私はきちんとベッドに寝かされ、ラファエルにベッドを整えてもらい、起きる前と変わらない体勢に戻されています。
「魔物は!?」
「はい、起き上がらない」
反射的に起き上がろうとしてラファエルに制される。
「あらかたソフィアが対処してくれてたんだけど、まだいるようできちんと対処するように回らせてる」
「………ぁ、そう、なんだ…」
………あれかな……
ラファエルとお兄様に脅されたかな……?
自業自得だけど…
「サンチェス国王に目通りを願ったんだけどね、門前払い食らっちゃって」
「え……」
「『今忙しい』の一言で」
………お父様……
いくら何でもそれは…
「まぁ、マジュ国の魔導士の処分もあるだろうし、ガイアス殿が戻ってきたら一緒にまた面会願ってみるよ」
「そう、だね…」
いくら何でも魔導士のあの態度に行動はダメだろう。
「ああ、ガイアス殿が連れてきた今回の魔道士達は使えるから、大丈夫だと思う」
「………使えるって……」
ラファエル……身も蓋もないよ…
でも……
「………ラファエル…」
「ん?」
「………あの聖女はまた連れてきては……」
「ないよ。いたらガイアス殿諸共受け入れてない」
ホッとする。
あの時ラファエルに抱きついていた女がいないだけで、安心してしまうなんて…
『ラファエルと一緒になるのは私』
『君は俺に相応しくない。相応しいのはアイだけだ』
夢の中で聞いた言葉に、冷たい瞳にゾッとする。
身体に悪寒が走り、思わず両手で身体を抱いた。
「ソフィア?」
目の前のラファエルに、ラファエルの優しい声に、ソッと手を伸ばす。
不思議そうにしたけれど、嬉しそうに握り返してくれる。
暖かいその体温に不安は溶ける。
やっぱり、ラファエルはあんな事言わないものね…
「どうしたの?」
額にそっと口づけを落としてくれるラファエルがいて、安心する。
でも……一向にその場を離れない、椅子に座ったままのラファエルに少し不満だ。
「………今日は、一緒に寝ないの……?」
ビキッとラファエルが固まってしまった。
え……なんで……
「ぁ~………」
何故かラファエルが手で顔を覆った。
何か葛藤しているようだった。
「………レオポルド殿に見つかったらマズいんだが……」
………ぁぁ、お兄様か……
ここはサンチェス国だから、ランドルフ国の部屋とはわけが違うものね…
でも……あんな夢見たばっかりだから……
「………夢見が悪かったの………だから、ラファエルに守って欲しい……」
ボソボソと恥ずかしい理由を呟く。
自分でも子供みたいだと思う。
あんな夢、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑ってればいい。
そう思っているのに、やっぱり不安で……
自分が格好悪くてシュンと落ち込んでいると、勢いよくバサッと布団が舞い上がったと思えばギュッと力強い腕に抱きしめられ、ふわりと布団が元の位置に戻った。
「ぁ……」
「夢でも俺のソフィアを虐めるのは許せないな。ソフィア、安心していいよ。俺が守るから」
優しく目と鼻の先で微笑まれ、私は強張っていた身体の力が抜けるのを感じた。
………ぁぁ……ホッする……
私のラファエルは、ちゃんとここにいる。
嬉しくてギュッとラファエルを抱きしめ返した直後、こてんと私の意識は落ちてしまったのだった。




