第596話 望んでない ―R side―
ソフィアと別れて5日。
だいぶ時間がかかってしまったと、ランドルフ国のマモノを片付けてすぐさまサンチェス国へとガイアス殿達と共に向かった。
通常3日はかかる道のりを、ガイアス殿と共に来ていたヨウフがサンチェス国へ来たことがあるらしく、テンソウマホウとやらで一瞬で国境へ。
そしてすぐさま王宮近くへとまたテンソウマホウを使い、辿り着けた。
一々精霊を気にして移動しなくて良くなったのは助かった。
俺まで精霊をショウカンして詰め寄られるのは、今は嫌だ。
早くソフィアに会いたい。
足早に王宮へと向かうと、門番達が慌ててレオポルド殿へ伝えてくると1人走って行った。
面倒な…
待ち時間の間にソフィアとの会話の時間が減る。
「ラファエル殿…」
思っていた時間よりはかなり早くレオポルド殿が走ってくる。
「………どうした? 顔色が悪い」
真っ先にソフィアの名を出そうとして、レオポルド殿の顔色を見た瞬間飲み込んだ。
血の気が引いている。
何か起こっているのか。
「………すまない」
レオポルド殿が頭を下げる。
眉を潜め、レオポルド殿を促して取りあえず王宮の中へ入れてもらう。
王宮の入り口は誰に見とがめられるか分からないし、何かあったのなら聞かれるのはマズいだろう。
ソフィアに会いたかったが、取りあえずレオポルド殿の執務室へ招き入れられ、素直に従った。
その瞬間、レオポルド殿が先程の比ではないくらいに直角に身体を曲げて、頭を下げた。
「一体どうしたんだ」
「………ソフィアを止めきれなく、許可してしまった俺の責任なんだ」
レオポルド殿の言葉に俺は悟った。
「………ソフィアに、何があったんだ?」
「サンチェス国に来てすぐにマモノの殲滅。そして田畑も土も元通りにして、更に森に集まっていたマモノも片付けてくれた。2日後、ソフィアはまだ本調子じゃないのに残りのマモノがいないか力を尽くしてくれて…」
「………ソフィアならやるよね。サンチェス国の王女なんだから」
俺の言葉に顔色悪いレオポルド殿は頭を上げた。
「………俺も、責任があるからソフィアの気持ちはよく分かった。止める権利は俺にはないだろう、と。俺だって力があれば反対されても行っただろう。だからついて行ってソフィアに対応してもらうしかなかったんだ。………でも、そのせいで…」
「………」
「………ソフィアが目を覚まさないんだ」
「っ……」
レオポルド殿の言葉に俺は息を飲んだ。
「今日で3日…目を覚まさないんだっ!」
悲痛な声で告げるレオポルド殿はその場に崩れ落ちた。
慌てて支える。
「………精霊の力を使ったのなら、前回同様、眠ったまま体力を回復しようとしていると思う」
ソッとレオポルド殿に囁く。
ここにはガイアス殿達もいる。
聞かれないようにするためだ。
「………目覚めるのか…?」
不安に揺れるレオポルド殿に頷く。
確信はないけれど、力を使ったのなら身体がついて行かなかったと推測できる。
「すまないがガイアス殿達はサンチェス国を回ってマモノがもういないか確認してくれないか?」
「しかし、我らは正式な面会も謝罪もしていない。勝手には…」
「もうガイアス殿が派遣した魔導士がやらかしています。今更では?」
「………っ……分かった……」
納得はいかなさそうだったが、俺はなるべく早く解決させようと急かした。
「………彼らは…」
「マジュ国の王太子と魔導士達だよ。先にサンチェス国の安全を確保しないと」
「………そう、か…」
レオポルド殿は力が入らない身体を何とか動かし、立ち上がった。
「………解決後、詳しい説明を。マジュ国王太子、ガイアス・マジュ殿下」
「っ……は、はいっ!」
そんな状態でも鋭く視線を向けるレオポルド殿。
ガイアス殿達が出て行き、2人きりになったところで、レオポルド殿はまた崩れ落ちた。
「大丈夫か!?」
「………ぁぁ……ソフィアは部屋に寝かせてるよ。行ってあげて…」
「………だが……」
こんな状態のレオポルド殿を放っておくことも出来ない。
「大丈夫。寝不足なだけだから。ソフィアもラファエル殿が来たって分かったら飛び起きるかもだし」
無理に笑う姿は痛々しい。
あんなに可愛がっているソフィアが目を覚まさないのは不安だろうに…
「………分かった。レオポルド殿も少し休んだ方がいい」
「そうするよ…ソフィアをよろしく」
「うん」
仮眠室へと向かうレオポルド殿の背を見送り、俺はソフィアの部屋へと走った。




