第594話 各個撃破
お兄様に姫抱きされて王宮の屋上へとやってきた。
優しく降ろされお兄様に礼を言い、屋上にあった豪華な椅子に座った。
よくお父様とお母様がお茶している場所故に、机と椅子は常にピカピカだ。
『さて……火精霊はいつも様子を見てもらってるし、別の者が行ってくれたら嬉しいのだけれど』
『ではわたくしが』
『我も行く』
風精霊と氷精霊が名乗り出た。
『四方それぞれ行って欲しいからあと2人、誰か行ってくれる?』
『じゃあ、暫く動いてない我も』
『では私も』
土精霊と雷精霊が返事をしてくれる。
『では4人共、宜しくね』
言うと4色の色が私の元から一瞬で出て行った。
うん、即行動素晴らしい。
「ではお兄様、私は視てるので私の騎士と周りの警戒はお願いします」
「任されたよ」
お兄様は私の向かいの椅子に座り、頷く。
騎士は私達の周りに等間隔で並んで周りを警戒してくれる。
屋上の入り口にはお兄様の兵士達がいる。
………まぁ、安心だろう。
私はソッと目を閉じた。
暗闇の中に、4人の目で見た光景が横2つ、縦に2つ、テレビ画面のモニターのように映し出される。
流れる光景が同時に4つ。
………うん、酔うなこれは。
文句は言えないけど。
すると1画面にあの荒らされていた田畑が映り込んだ。
「………凄いですわ。もう作物が元通りに……」
「ソフィアに言われたくないだろうね」
「何故ですか」
目を閉じたまま、お兄様に返す。
「だって、ソフィアもあっという間に田畑の土を直し、木々を再生させた」
「わたくしの力ではありません。わたくしの――協力者の力です」
兵士に聞かれてもいいように言い回すのは結構面倒くさい。
けれどバレるわけにはいかないから、慎重にならざるをえない。
っていうか、私はちゃんと普通の人間だからね!?
特別な力なんて持ってないからね!?
凄いのは精霊であって私じゃないからね!?
そこの所勘違いされたくないから!
『主、魔物が5匹いました』
『許可します。殲滅を』
『はい』
風精霊が魔物を見つけ、すぐさま処理する。
彼らは私の近くでしか力を出せない、という制限があるため、人気のない場所を選んで移動し、王宮の後方の森へと魔物を誘導。
私に近く、というのは直線距離にして約1〜2kmぐらい。
だから私が1階にいようと屋上にいようと、その距離は変わらない。
地図上での距離と考えればいい。
他にもいたらしく、次々と情報が入ってくる。
『主、こちらにも9匹』
『許可します。攻撃してください』
『了』
きちんと何匹か報告してくれるのも有り難い。
目を閉じたまま手を動かすと、手に紙とペンをそっと握らせてくれる。
優秀だよね。
西に5、北に9、っと…
書いている傍から情報が入ってくる。
3、7、6、8……
慎重派の魔物なのだろうか。
ホイホイに引っかかって出てくることなかった魔物が、連携を取って究極精霊達に襲いかかっている。
それでも精霊には敵わないのだが。
各方面殲滅される様を眺める。
現在おびき寄せられた魔物は38匹。
まぁまぁの残党がいるものだ。
ランドルフ国にいる魔物の位置が分かる魔導士が来る前に、あらかた片付けておきたい。
なぜなら、ここに派遣された魔道士が使い物にならないからだ。
あぶり出された魔導士は全員現在地下牢。
マジュ国の者が解決できず、サンチェス国の人間が全て解決した。
そういう筋書きをお父様もお兄様も狙っているからだ。
そうすれば、優位な条件で取引が出来る、という考え故に。
国と国との取引の場合、如何に相手より優位に立つか。
同盟国でもそうでなくても、国を豊かにするために、王族が動いている。
但しそれは正攻法でなければならない。
相手に揚げ足を取られないように。
「………っ…?」
くらりと頭が揺れた。
見えていた映像もぼやける。
………ぁ……やばっ……
「ソフィア!!」
横に倒れていく私の身体を、お兄様が受け止めてくれた。
各個撃破も相当精神力なのか体力なのかが削られていくのか…
治りきっていない身体では、耐えられなかったか…
休めという言葉には素直に従うべき。
でもサンチェス国の為に私はいるから、どうあっても私はこうしただろう。
どこか他人事に思いながら、私は目を閉じたまま意識を手放してしまった。
お兄様と騎士達の声が遠くで聞こえていた。
ぁぁ…
ラファエル…会いたい…声が聞きたい…
どうせなら、お兄様じゃなくてラファエルの腕の中で眠りたい…




