第593話 それが王族(わたし)の
サンチェス国へ来て2日。
ようやく身体がまともに動くようになってきた。
やっぱり負担が大きいな…
最上位ランクである究極精霊の力を使うには、相当な負担を覚悟しなければと改めて思う。
私の負担が大きいのは複数の究極精霊と契約をしているのもあるだろう。
「みんな、ついてきてくれる? 王宮の屋上で究極精霊にまた魔物を引き寄せてもらうから」
私はベッドから降りて侍女に着替えを手伝ってもらって、隣室へと向かった。
警護するために私の騎士達は全員待機していた。
そんな彼らに声をかける。
「………ソフィア様、もう1日休んだ方がよろしいのでは?」
「あれ以降、被害が今のところ出ているわけではありませんし」
「そうです。ソフィア様はラファエル様の大切な方です。元気なお姿でいらっしゃらないと」
「私達がラファエル様に叱られてしまいます」
ヒューバートとオーフェスは純粋に私の身体を。
そしてブレイクとドミニクはラファエルからの制裁を気にしているようだった。
それに苦笑する。
分かるけどね。
ラファエルに知られたら怒られる。
ラファエル怒ったら怖いからね。
私もいつ首輪を付けられるか分からない。
でも無抵抗ではいないけれど。
「心配してくれて有り難いけれど、私はこの国の王女です」
ハッとするブレイクとドミニク。
忘れてたわけじゃないわよね…?
「私は民が為に存在する王族。民の安全を保証できずに、王族ではいられないんですよ」
息を飲む2人。
今まで自分のことしか考えない王族や貴族を見ていた故の反応だろう。
「民の安全もですが、食物もです。人は食べなければ生きていられない。この国全ての民の食はなんとしてでも守る。それが、サンチェス国王族の使命なのですよ」
戸惑う2人を余所に、オーフェスとヒューバートが頭を下げた。
オーフェスはともかく、ヒューバートまで理解してくれていて、嬉しく思う。
彼は正式な私の騎士の中で、唯一ランドルフ国出身だ。
生まれも育ちもランドルフ国故に、私のサンチェス国での立場を理解するのは先だと思っていたのに。
本当に優秀な男ね。
「入るよソフィア」
「もう入ってるじゃないですかお兄様」
「あははっ」
笑い事じゃないんだけどね。
何度注意しても直らない――直さないんだから。
「そろそろ動くんじゃないかと思って迎えに来たよ」
「え…まさかお兄様も一緒に行くんですか?」
「行くよ。まぁ出来ることはないんだけど、ソフィアが倒れそうになったら支えるぐらいは出来る。ソフィアだけに負担をかけているんだ。それぐらいやらせてよ。王太子として情けないけど」
お兄様の言葉に心が温かくなる。
お兄様の言葉に胸が熱くなる事なんて、今まで何度あっただろう。
やっぱりお兄様もサンチェス国王族ね。
民を見捨てられない、なんとかしたい。
私達にとって、当たり前のこと。
………これを、もっと貴族の人達が当たり前のように思ってくれたら、どんなに国が良くなることか。
「………いいえお兄様。共に参りましょう」
私は素直に笑ってそう言えた。
「ありがと。どこ行くの?」
「屋上です。国全体を眺められる場所へ」
「そう。なら俺が運ぶよ」
「………は?」
意味が分からなく、首を傾げるとお兄様に足を掬われた。
「………え!?」
「レオポルド様!?」
私だけではなく、この部屋にいる全員が驚いた。
まさかお兄様にお姫様抱っこされる日が来ようとはっ!!
い、いや、さすがに小さいときは何度かあったとは思うけれど、成人間近の妹を抱える!?
「まだ完全に回復したわけじゃないでしょ。俺が運ぶ」
「ですがっ!」
「これぐらいさせてよ。俺は本当に国の害意をどうすることも出来ないのだから」
お兄様の目を見て、騎士達は諦めたようだった。
かくいう私も諦めたけれど。
お兄様といい、ラファエルといい、譲らないところは譲らないのだから。
「………分かりました。落とさないで下さいね」
「それは保証できないなぁ」
「保証して下さい!! 何笑って言ってるんですか!!」
ギャーギャー言いながら、私達は王宮の屋上へと向かったのだった。




