第589話 早すぎる ―R side―
「お待たせして申し訳ないラファエル殿!」
「………待ってないんだけど…」
「え!?」
ソフィアがサンチェス国へ向かうのを見送り、国と国との間にある国境に繋がる壁。
俺はそこへ馬でルイスと騎士らと共に向かっていた。
そして到着した頃に、ガイアス殿が戻ってきたのだ。
俺の返答にショックを受けているガイアス殿。
言葉足りずに誤解させていることは分かったけれど、何故か教えたくないと思ってしまった。
いけないな。
「いえ、マジュ国へ向かうには最低でも4日はかかるでしょう? 戻ってくる頃には7~8日程かかるかと」
「あ、ああ…そういう事か…」
ホッとするガイアス殿。
表情豊かだな。
それで王太子か…
「魔法の中には転送魔法というものがあってね。知っている場所なら座標を合わせればすぐにいけるんだ。それで国境の手前まで行き、国境で手続きを終えて次の国に入国したらまた次の国境へ、という風に移動できるんだ」
「それは便利ですね。私も使ってみたいです」
「こればかりは魔力が無ければなんとも…」
「分かってます」
話を一区切りさせ、俺はガイアス殿の後ろに立っている者達を見る。
「あ、私の信頼できる者達を連れてこさせてもらった」
ガイアス殿が後ろを見る。
「ガイアス王太子の付き人に選ばれましたヨウフでございます」
「リーリエと申します」
「ミュールと申します」
男2人に女1人。
今度の者達はフードを取り、素顔を見せている。
そして丁寧に頭を下げる様子に、今度は大丈夫か…と少しだけ警戒を解く。
全員が首の後ろで髪を束ね、統率された者、と言っていいだろう。
前の者達のように同じローブを着ているということは、こちらで言う騎士の制服と同じ物なのだろう。
「ヨウフは魔法の腕もさることながら、剣もいいんだ。リーリエは回復魔法に特化していて、ミュールは拘束魔法が得意なんだ」
「………ガイアス様。ランドルフ王太子殿下に対し、あまりにも気さくすぎます。こちらがご迷惑をおかけしているのですから、言葉遣いに気を付けて下さい」
「はっ!!」
ヨウフに注意され、ガイアス殿はハッと口を押さえた。
そろっと俺を見てくるガイアス殿に呆れてしまう。
「………今更だからもういいよ」
手を振ると、さぁっと顔色悪くなるガイアス殿は放っておくか…
「今度の者達は礼儀は取りあえず良さそうだ。宜しく頼むよ」
「「「はい」」」
また一斉に頭を下げてくる。
さて……
俺は精霊達に力を俺の周りに出してもらえるように頼んだ。
ソフィアのように上手くはいかないだろうけれど。
色とりどりの力に包まれる俺を、3人の魔導士達が目を見開く。
「凄い……マジュ国以外の者がこれ程までの力を持っているとは…!」
「王族付きの魔導士の中でも、上位に――いえ、それを越えていると思います!」
「そうでしょ!? ラファエル殿は凄いんだ!」
………何故ガイアス殿が誇らしげなんだ…
それにしても、俺の精霊達はマジュ国でも上位に位置するのか。
それならソフィアなら頂点に立つだろうな。
聞こえてきた鳴き声の方へ顔を向ける。
「ラファエル様! マモノが出現しました!!」
騎士の声が報告してくる。
「ここは俺がっ!」
ヨウフが走って行き、懐から木の棒を取り出した。
「彼のもの達を消滅させよ! ファイアーボール!」
木の棒から火の玉が複数飛び出し、マモノを牽制、そしてガイアス殿が光のマホウを放ち消滅させていく。
へぇ。
消え方が精霊の攻撃を受けたときと似ている。
本当にマホウと精霊の力は近いんだな。
「こちらへ!」
リーリエが怪我を負った騎士らの傷を癒している。
こちらも木の棒から力を出しているようだった。
「………今度の者達は協力的のようですね」
「………そうでなければ困る」
ルイスの小声に返しながら、俺は戦いを見ていた。




