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第587話 緊急会議




サンチェス国の緊急会議。

お兄様に騙され、私は今この場にいる。


「サンチェス国の北東、国境付近の食が見たことのない生物に、食い荒らされるという事件がございました。現在王のおかげで以前の姿を取り戻しておりますが、何が起こっているのか分かりません! 早急に調査をお願いしたく思います!」


立ち上がって意見したのは――あれは子爵か。

彼の領地も被害に遭ったのだろう。

その言い分に無事元には戻っているみたいだけれど、懸念は分かる。


「原因は分かっている」

「え……」


彼の言葉にキッパリと答えたのはお父様。


「しかし、さきの発言は撤回しろ」

「ど、どの言葉でしょうか…?」

「我がしたのは種を撒き、食を戻したことのみ。田畑の土を戻し、木々を甦らせたのは我が娘だ」

「娘……ソフィア様、が……!?」


………うん。

何してくれやがってんですかお父様。

全部お父様の手柄にしておきなさいよ。

そんな人外な力を持っているとか、広めなくていいから。

精霊の秘密はどうした。

全員の視線を集めなくていいから。

私はひっそりとおいとましたいんですがね!


「ど、どのようにしたら短期間であのように……」


戸惑っている人達に見られるが、私は笑みを絶やさなかった。

入ってきてからずっとだから、もう表情筋がですね、死にそうですよ。

目立たない王女としてのサンチェス国学園生活が長かったから、笑みなんてずっと浮かべてられるほど慣れてないんですよ。

私はそんな内心を見せないように、そのまま手を上げ、人差し指だけ立てて唇に付けた。


「それは王家の秘密ですわ」


必殺の言葉で黙らせる。

こう言っておけば、誰も追求することが出来ない。


「ソフィア」

「はい」


お父様に呼ばれ、顔を向ける。


「我も全容を知っているわけではない。皆に説明できるか」

「はい。大丈夫ですわ」

「頼む」


私は頷いて立ち上がった。


「わたくしが知っていることをお話します。ランドルフ国でわたくしが出かけているとき、ランドルフ国にて見たことのない生き物に遭遇致しました」


ザワつく室内を無視して私は話す。

聞き逃すまいと、隣で騒いでいる領主を小突いたりして、周りが勝手に収めてくれるから私は何もしない。


「その生き物はこのサンチェス国で見た生き物とは姿は違っており、主に雪や寒いところを好むようでした。サンチェス国にいた生き物は食べ物を求めていたのでしょう。この生き物の共通点は、魔物と呼ばれるマジュ国にいた生き物と判明しております」


またザワつく。

けれど無視。


「先日ランドルフ国へマジュ国の王太子、ガイアス・マジュ様が来国され、マジュ国から魔物を出さぬよう、国を囲むように結界と呼ばれる透明な壁を張っていたのですが、それが破られ各国に魔物が逃走したそうです。その魔物討伐のため、マジュ国は各国に特別な力を持っている者達が派遣されているそうです」

「そ、そのような者来てはおりませぬ!」

「サンチェス国は捨て置けということなのですか!?」


次々に貴族達が言葉を発する。


「静まれ」


一言。

その一言だけで室内が静まりかえった。

お父様の声は特別仕様なのだろうか。


「それについては私から」


お兄様が手を肩辺りまで上げ、私に頷いた。

私は席に座り、今度はお兄様が立ち上がる。


「本日1人の兵士を捕らえた。その兵士は見たことがない男だったため、カマをかけてみたら引っかかって拘束して尋問したところ、マジュ国の男だった。人知れず対処しようとしてサンチェス国兵士に紛れ込んだらしい。他の混ざっているマジュ国の男達は今探させているよ。対処するにしても他国で内密で動くような、そんな生優しい問題ではないからね。他国に損害を与えている以上、きちんと原因国の謝罪と説明がないのは筋が通らない。きちんとマジュ国に抗議する予定だよ」


お兄様の説明に、一先ず安堵の息をつく貴族達を尻目に、私はチラッとお父様の顔を見る。

沈黙しているお父様が怖い。

というか、マジュ国は好き勝手にしすぎだな。

きちんと手順を踏まないと。

いくら緊急だと言っても、ここまで放置するのはいただけない。


「その生物はソフィアが対処してくれている」


お兄様に見られ、私は頷く。


「どういうわけか、王族に魔物は寄ってくるようです。ですので、わたくしの元に寄ってくる魔物は、わたくしの騎士が対処して下さいましたので、この国にはもう魔物はいないと思います。が、念の為、こちらに数日滞在し、ランドルフ国の魔物討伐を終え、こちらに来られる予定のガイアス・マジュ王太子殿下の到着を待とうと思っております」


真実の中に嘘を交え、私は説得力があるだろう言い回しを考えながら伝えた。

食はあれだが、皆の身の安全は一先ず保証できるということを。

ホッとする貴族を私は冷めた目で見つめるけれども。

………自分の保身しか考えない貴族はこのサンチェス国にもいるのは事実。

そんな態度、お父様に見られていることも気付かないとは…

私はそっと目を閉じた。


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