第586話 不意打ちは困ります
ぼふんっとベッドにダイブして眠っていた。
次々と精霊達に力を貸してもらったから、精神的になのか文字通り体力的になのか、酷く体が怠かった。
前に寝込んだときと同じ様な感覚。
どれぐらい眠っていたのか分からないけれど、話し声で意識が浮上した。
隣室で何やら話しているようだった。
眠い目を擦りながら、寝室と隣室を繋ぐ扉へと向かう。
『まだ姫様は眠っております』
『そう。無理させちゃったね。話をしたかったのだけれど』
ソフィーとお兄様の声が聞こえる。
何かの報告だろう。
私は扉をソッと開けた。
「いいよ。ソフィー、着替えを」
「姫様!」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「その前に微睡んでいましたから大丈夫です。少々お待ち下さい」
いくら兄妹でも夜着では会えないから顔だけ出して話し、ソフィーが慌てて寄ってくるのを尻目にベッドへと戻る。
身支度をしてもらって、改めて私は寝室を出た。
「ごめんね急かした」
「いいえ」
「親父も交えていいか?」
お兄様が親指だけ立てて後ろを指した。
………それはどっちの意味だ。
そこにお父様がいるのだろうか?
それとも執務室?
首を傾げる前にお兄様が背を向けたので、お父様の執務室でということが分かった。
大人しく続く。
…お父様が帰ってくるまで眠っていたということか。
だいぶ寝ちゃったな…
お兄様と並んで歩き、周りは騎士と兵士達に囲まれている。
「ああ、例のあの男は別の国の人間だと分かったよ」
「マジュ国ですか」
「知ってたの?」
「それもふまえてお父様がいるところでお話します」
「うん。ところでソフィアは何時までその口調なの?」
「誰が何処にいるか分かりませんので一応」
この中の誰かにマジュ国の人間が混ざっているか分からないから。
………そういえばラファエルの方はどうなってるのかな。
怪我してなければいいのだけれど…
そんなことを考えているうちにお父様の執務室――ではなく謁見室の隣にある会議室に辿り着いた。
………何故に!?
扉の両側に立っていた兵士が取っ手を持って引いた。
ぎぃっと音を立てて扉が開く。
中にはサンチェス国貴族達がズラリと座り、一番奥にはお父様とお母様が座っていた。
………うん、帰りたい。
会議室に置かれている机は入り口から真っ直ぐで、お父様とお母様の位置で横になっている。
コの字で置かれている後ろにもまた机があり、これまた真っ直ぐに置かれている。
上座から公爵・伯爵・男爵。
公爵の後ろに侯爵。
伯爵の後ろに子爵。
そして男爵の後ろにまた男爵らが座るようになっている。
王・王妃
侯 公 公 侯
爵 爵 爵 爵
・ ・ ・ ・
子 伯 伯 子
爵 爵 爵 爵
・ ・ ・ ・
男 男 男 男
爵 爵 爵 爵
入り口
こんな感じか。
………で、私とお兄様は両親の両隣に座ることになる。
お兄様……貴族達が集まっているならさっきの引こうとする姿勢は、むしろ角を生んだのでは…
これ、私来なかったら叩かれちゃうでしょ!?
さっきからいい顔で笑っていますけれども!
私も笑顔を扉が開く前から、まさかと思いつつも作ってましたけれども!
「ソフィア、もう身体は良いのか」
「はい。遅くなりまして申し訳ございません」
お父様から声をかけられ、私は頭を下げた。
今から何が始まるのか、前準備してなかった私は心臓バクバクで気絶しそうですよお兄様!!
心の準備ぐらいさせてよ!
報連相コレ大事!!
「レオポルド、ソフィア、着席を」
ゆっくりとお父様が手を動かし、私とお兄様は頭を下げて堂々と真ん中を歩いて行く。
王と王妃の前で一度立ち止まって頭を下げ、左右に分かれてお兄様はお父様の、私はお母様の隣に着席した。
「これより、緊急会議を始めます」
お父様の後ろに立っていた宰相が声を発した。
私はおそらく今から説明と質問攻めをされるんだろうと予測し、心の中で涙したのだった。
でなければ私をも呼んだ理由が分からないから。
この世界では“女は政に携われない”が通常である。
お母様がいる時点でも可笑しいのだけれども。
サンチェス国の特産品である食が失われたのだから、無関係ではいられないのだろうけれど。
それとも、私だけが参加するのを懸念されたのかしら…?
お母様もいたら、悪い意味での紅一点にはならないから。
私は宰相の言葉に耳を傾けながら、一度ゆっくりと目を閉じたのだった。




