第583話 終わってます
土精霊と木精霊に森を元通りにしてもらった。
やっぱり毎回見るたびに「すごっ」っていう感想しか出ない。
全て終われば私の中に戻ってもらう。
そして今度は歩きでサンチェス国王宮へと向かう。
周りを観察しながら。
「本当にあの区間だけだったのね」
森から出て主道を歩きながら田畑を見渡す。
見える範囲は問題はない。
「お兄様の言葉で、サンチェス国の半分以上は食べられていると思ったのだけれど…」
「充分に甚大な被害だったと思いますよ」
オーフェスに言われ、彼を見上げる。
「あの辺りはランドルフ国、そして隣国の国境が近い場所。来国した人々の目に映れば、すぐに引き返して騒ぎになっているでしょう」
「………ぁ…」
そうか。
私もランドルフ国の国境を抜けてすぐ見えた光景に唖然とした。
視界に映る範囲が全て悲惨なことになっていたのだ。
サンチェス国の異常事態に騒ぎ立てられれば、同盟に影響が起きる。
「………そうね。既に隣国では騒がれているわね…」
「あの状態になってどれだけ経っているか分かりませんね。ランドルフ国と同時期だと考えると、7日前後でしょうか」
「判明してすぐに規制がかけられていたなら少人数だろうけれど、それでも侮れないものね…」
噂が広まるのは早い。
………何もなければいいのだけれど…
『主』
頭の中に水精霊の声が聞こえ、私は耳を押さえる。
『何?』
『先程の場所に王が到着したようです。種をまいたところから次々と甦っているようです』
『本当!?』
さすが究極精霊!
あんな――いや、うん。
能力と性格は分けなきゃね。
『やっぱり食の究極精霊っていうだけはあるわね。土精霊の力と掛け合わされてる部分もあるでしょうけれど』
『はい。究極精霊同士の力故とでも申しましょうか。この分だとそう時間はかからず元通りになるでしょう』
『お父様の精霊の力含め、兵士達には口を噤んでいてもらわなければいけないわね』
水精霊の報告を聞き終え、私は気を散じるのを止め、歩き続ける。
「………ソフィア様」
「どうしたの?」
後ろから声をかけられ、振り向くとドミニクが鋭い視線を右に向けていた。
その方向を見ると、思わず顔を顰めてしまう。
「………私、待機を命じたわよね」
「命じてましたね」
「………何で追ってきてるわけ?」
私に意見してきた兵士が馬を走らせこちらへと向かってきていた。
あの眼帯を付けていた巨体の兵士だ。
「ソフィア様!!」
手綱を引いて目と鼻の先で馬を止め、飛び降りて私の前に膝をついた。
「やはり危険でございます! 私も加えて下さい! ソフィア様の盾ぐらい務めます!!」
………うん、いらない。
私は王女としての仮面を被り、笑みを浮かべたまま思う。
っていうか、あんたはお兄様かお父様の部下でしょうが。
きちんと断ってきたのだろうか。
………いや、おそらくアレからすぐに馬に飛び乗ったに違いない。
だって、あそこからここまで氷精霊だったから短時間で到着したのだ。
対処していた時間を差し引いても、私達が立ち去った後に出ていないと辻褄が合わない。
「いらない」
またオーフェスが私の前に立ってくれる。
「だがっ!!」
「もう終わった」
「………ぇ…」
オーフェスに簡潔に言われ、眼帯男はポカンと口を開けたまま固まった。
「参りましょうソフィア様。途中で馬車を手配して王宮へ」
「ええ」
そのまま男を置いて私達は歩き出す。
そして暫く経った後に慌てて眼帯男が馬を引きながら走って追いついてくる。
「お、終わったとは一体どういう事ですか!?」
「言葉のままだ」
「そんなっ……!? ありえない!! サンチェス国を脅かした謎の生物をそんな簡単にっ!!」
………あの場で水精霊の力を目の当たりにしているはずなんだけどな…
私はため息をソッとつきながら、黙ってオーフェスの後を歩いたのだった。




