第582話 精霊噴出
兵士達が見えなくなってから、私達は人気がないところで氷精霊の背に乗り、サンチェス国の北西の森へと最速で向かっていた。
氷精霊の足では早すぎて例え視界に入れようとも、それは一瞬のことで人の記憶には残らないのだとか。
どんだけチート能力だよ、と突っ込みたいのを我慢して口を噤んだ。
私の騎士らは乗ったことがないから口を押さえて青ざめている。
降りたら車酔い改め、氷精霊酔いになっているかもしれない。
やっぱり落ち着いたら車も検討してもらおう…
自動ゴミ収集車を検討できるぐらいなんだから、同じ様なもので簡単だろう。
氷精霊の背から森の確認が出来たと思えば、火精霊の気配を感じた。
見えないけれど。
『主、森に突っ込むか?』
『お願い。適当な広さがあるところで降ろして』
『了』
氷精霊は速度を保ったまま森へと突っ込んだ。
数分走ったところで足を止める。
止まったところで風精霊に風で降ろしてもらった。
騎士達はふらふらとその場で立っていることで精一杯らしく、顔色が悪い。
うん、ごめん。
でも気にしてもいられない。
適当な広さである森の中の開けた場所。
そこにまるで寿司詰め状態の魔物の群れがいた。
………これは50や100じゃきかないな…
気持ち悪いぐらいにうじゃうじゃいる…
まだ動物の形でよかった。
これが虫の形だったら、私近づけたかどうか…
契約精霊は契約者が近くにいないと力を発揮できない。
その法則に従うしかない私は、敵が虫だったらここまで積極的に近づける自信はない…
『火精霊、この上にいる?』
私が来てもやっぱり魔物達は見向きもしない。
火精霊の力に引きつけられているのだろう。
………氷精霊にも見向きもしないのは、火精霊の方が力があるのだろうか…?
契約精霊にも力の上下があるのだろうか…
『いる』
『水精霊、一掃して』
『はい』
水精霊は今度は人型で姿を現し、一斉に見てきた魔物に向かって容赦なく手の平から水を発射した。
その威力、量の凄さに私は驚いた。
消防車の放水の勢いより何倍も凄く、その水圧で起こる爆風に飛ばされそうになった。
「ソフィア様!!」
慌ててヒューバートが背後で支えてくれる。
「あ、ありがとう…」
水精霊容赦ないな!
せめて私に離れるよう忠告しようよ!
自分で指示しておいて、思わず理不尽なことを思ってしまう。
水精霊には反応するということは、火精霊と水精霊の力は同格なのかな…?
「相変わらずソフィア様の契約精霊は凄いですね」
私を支えたまま、ヒューバートが水精霊を見て言った。
こくんと頷き同意する。
「こんな凄い人達が私と契約なんて未だに信じられないけれど……」
話していると人型になって姿を現した火精霊が、私の近くに着地した。
『取りあえずサンチェス国にいるだろう魔物はこれで全てだと思う。国中旋回して集めたから』
「この短時間にありがとう。ランドルフ国でもそうしたらよかったわね…」
『いや、本当に全部かは分からない。あの王太子の話であったマジュ国の魔導士の力で調べてもらうまで、油断は出来ないだろう』
………ラファエルとの会話を聞いていたのか…
って、そうだよね。
私の頭の中での話だから、私と繋がっている精霊達も会話を聞けるわよね…
『なんにせよ、王太子らがこっちに来るまでサンチェス国に滞在した方がいい。また往復も部外者がいれば面倒だ』
「そうだね。火精霊ゆっくり休んで」
言えば火精霊が姿を消した。
そして私の中に火精霊の気配を感じ、戻ったことが分かる。
水精霊の出した水で消滅していっている魔物は、その数をもう数匹残しているだけだった。
私が火精霊と話している間に、水精霊は水を出し続けていたらしい。
………辺りが水浸しだけれど。
地面が泥濘み……って言葉は生やさしいかも…
木の根が剥き出しになり、ドスンと音を立ててなぎ倒されていく。
………うん。
木精霊と土精霊にもう一仕事してもらわなきゃね…
私が遠い目をしたときには魔物の姿は消えていた。
水精霊は水を出すのを止め、私の方を見た。
「ありがとう水精霊。ゆっくり休んでね」
水精霊は頭を下げて姿を消した。
土精霊に地面を、木精霊に木々を直してもらい、ようやく一息付けたのだった。




