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第577話 いりません




「これ以上貴殿らをここに置いておくわけにはいかなくなった。理由は分かるよね」


ラファエルが腕を組みながら異議を認めぬ声色で言い放った。

目の前に座っているガイアス・マジュ始め、その後ろに立っている魔導士達の顔色は真っ青だ。

今回は言い逃れしようにも、聖女と魔導士は顔を見られている。


「す、すまないっ!!」


ガバッとガイアス・マジュが頭を下げるが、それで許されることではない。


「ソフィアに怪我がなかったからいいようなものの、一歩間違えれば命を落とす。マジュ国のマホウは、他国王族を傷つけるためのものなのか。よく分かったよ」

「け、決してそのようなことはっ!!」

「いくら言われようとも、そこの聖女と連れがソフィアを害そうとしたことは事実。許すつもりはない」

「わ、私はその女と話をしようとしただけでっ!!」

「アイ!!」

「………へぇ。聖女の常識では目上の者と話をする際は、部屋の扉を破壊して無理矢理席に着かすことなのか。私の国では考えられない常識なのだな」


ラファエルに冷たく見られ、聖女は言葉を詰まらせた。

けれどそれで口を閉じる聖女ではなかった。


「わ、私は扉を開けてとお願いしただけよ! そしたらこの人達がっ!」

「願った、とは? ソフィアの部屋の前に待機していた騎士に断られたのだろう。それで引かないとは一体どういう事。君が願えば何でも叶うとでも? 子供か」

「なっ…!?」


カッと聖女の顔が赤くなる。

侮辱の言葉が分かるぐらいには成長したようだ。


「それ以前にあの場所は私の許可なく立ち入ることを禁じられている王族限定区域だ」

「え……」

「それを無視して不法侵入したということは、罰せられていいということだ」

「そ、そんな事知らないっ!!」


焦ったのか聖女が立ち上がり、すぐさま私とラファエルの騎士が私達を守るように立ち位置を変えた。


「………どうやってあの区域に立ち入った。通路には指紋認証式扉で制限されていたはずだ」

「そ、れは……っ」


チラッと聖女が魔道士達を見た。

………ふぅん…


「………成る程…」

「ソフィア?」


小声だったのに、ラファエルは私の声を拾ったようだ。

私の方を見てくる。


「ラファエル様、確かに通路には指紋認証式扉がありますが、窓にはないですわ」

「………」

「彼らが魔法で空中に浮かぶことが出来るのであれば、外から侵入されます」

「………はぁ……」


ラファエルが手で顔を覆ってため息を吐いた。

確かに盲点だったわ。

魔法がある時点で、空を飛べる可能性を考えられていれば、簡単に侵入できないように対策を打てただろう。


「ということは、ソフィアと私の寝室の嫌がらせも簡単だね」

「い、嫌がらせとはっ!?」


ガイアス・マジュが慌ててラファエルを見、ラファエルは事情を説明した。

顔色が更に悪くなるガイアス・マジュは、今にも倒れそうだ。

まさかそんなことをするとは思わなかったのだろう。

非常識だが、自国の大切な聖女サマなのだから、信じたかっただろうに。


「ガイアス殿。即刻そこの者達を帰国させ他の常識のある者を呼び寄せるか、貴方も含め全員がこのランドルフ国から出てマジュ国の今後一切の入国を禁じられるか、選んで下さい」

「っ……!!」

「もう貴方方の我が儘を、私は受け入れられないんですよ。我が国の者に害しか与えない、はた迷惑な聖女という女の我が物顔での所業に、我らが与える刑は処刑しかありえませんから」

「ちょ、なんでよ! 私はヒロインなのよ!? どうしてラファエルは私に惚れないの!?」


………は?

あんな自分勝手な振る舞いで、なんでラファエルがアンタに惚れなきゃいけないわけ?

惚れられると思える方が可笑しいんだけど?


「アイ!! いい加減にしろ!!」


………穏やかだったガイアス・マジュが……怒鳴った…?


「君は聖女だけれども、この国では我がマジュ国と同等の扱いをされないと散々言っただろう!! ラファエル殿に対しても敬称も付けずに馴れ馴れしい! そもそもソフィア嬢と婚約しているラファエル殿に対して近づくのも不敬だと言ったのに! どうして君はそうなったんだ!」

「が、ガイアス…?」

「君には失望したよ! ソフィア嬢に嫌がらせしたあげくにソフィア嬢の部屋の扉を壊せと命じる女だったとは! 聖女が聞いて呆れるよ! 聖女がこんなだと知らなかった前の自分を殴ってやりたいよ! 聖女召喚なんてしないように当時の私に言ってやりたい! これでは我が国の問題を解決してくれているソフィア嬢の方が聖女だと言われたら納得してしまうよ!」


………なんか飛び火してきた!?

嫌だよ聖女だなんて!!

聖女ってアレでしょ!?

国の危機には駆けつけ、無償で民に施しをし、黒い心なんて持たず、ただただいい子ちゃんで周りに接する。

目の前のアイとかいう聖女とは全く違う意味での聖女ですが。

………うん、無理♡

国の危機には駆けつけるよ?

私王女だし。

でも無償で施し?

国の運営にはお金がいるんだから、無償で施しても意味ないでしょ。

それよりも民に学を与え、自分の力で立ち上がりお金を生むようにすることが、将来の糧になるでしょ。

無償で国は生き残れません。

黒い心――醜さなどの嫉妬心を持たない女になる?

無理無理絶対無理!

ラファエルに寄ってくる女には嫉妬するし!

男のナルサスにまで嫉妬するほど、私はラファエルの1番でいたいし!

いい子ちゃんには絶対なれない自信があるわ!!

私は祈っていればいいただの女じゃないから!

国に生きる民達のために生きる王族ですから!


「どうしてガイアスも私よりあの女を評価するの!? 私は聖女でしょ!」

「君は聖女なんかじゃない!!」


おお……?

ガイアス・マジュがハッキリ言ったよ。

自分たちが喚び出した聖女を、聖女じゃないと。


「自分が聖女だというのなら、ソフィア嬢に嫌がらせする前に、ラファエル殿に近づこうとする前に、どうしてランドルフ国の魔物討伐に行かない!!」

「っ……!」

「ラファエル殿とソフィア嬢は危険も顧みず、我が国の問題解決のために動いてくれているんだ! なのに君は一体ここに来て何をした! 嫌がらせしていただけじゃないか!!」


誰もいなければ私はここで拍手をしただろう。

あの頭を下げるしか能がなか――げふんっ……国のために必死になって空回っていた王太子が、ここ数日で成長している。

ラファエルがなんか教育したのだろうか?

そっとラファエルを見たけれど、ラファエルも少し目を見開いていたから、違うのだろう。

彼は自分で成長したというのか。

嬉しい誤算だね?


「ラファエル殿、ソフィア嬢、申し訳なかった」


ガイアス・マジュが改めて頭を下げた。

彼に怒鳴られた聖女は、涙目でその場に座り込んでいる。


「すぐに彼らを国へ返す。すぐに代わりを――彼らより信頼できる者を呼び寄せる。だから、私だけは残らせて頂けないだろうか。ランドルフ国に迷惑をかけているのに、迷惑をかけた我が国の者が無関係でいるのは出来かねる。お願い申し上げるっ!!」


必死で頭を下げるガイアス・マジュが哀れに思った。

純粋にこの事態を終息させようとしているのに、部下に恵まれていないが為に、いらぬ苦労をしている。


「………その連れてくる者達は、真に信頼できる者達なのか?」

「ここにいるのは王に命じられて連れてきた者達だ。次の者は私の信頼できる者。無礼はしないと約束申し上げる!」


顔を上げたガイアス・マジュの瞳は強く、嘘を吐いていないと分かる。


「………分かった」

「ラファエル様…」

「ただし、彼らは責任を持ってガイアス殿が連れて帰るように。戻ってくるまではこちらで対応する」

「そ、それでは迷惑を…」

「彼らがこの国にいる事自体迷惑だ。きちんと帰国するまで貴殿にちゃんと確認をして頂きたい。今回のソフィアに対する事は、貴殿の監督不行き届きだ」

「っ! 仰るとおりだ。温情に感謝します」


ガイアス・マジュが頭を下げ、そして彼の魔法で彼の連れは全員拘束され、ランドルフ国をこのまま去るようになった。

丁寧にもう1度頭を下げて王宮を後にしたガイアス・マジュを見送り、私はホッと息を吐いたのだった。

………けれど、このまま聖女が大人しくしているとは思えず、不安が心に残っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告です。 「っ! 仰るとおりだ。御状に感謝します」 温情の間違いではないでしょうか?
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