第575話 なんでそうなる
アレからラファエルが帰ってくるまで部屋で待っていたけれど、中々帰ってこなかった。
話し合いが長引いてるのかな?
出来るだけ一緒にいるようにと言われたけれど、あの場合私が様子見に戻るわけにはいかないしね。
かといって騎士を行かせるとラファエルが逆に怒りそうだ。
何杯目かになるだろうか、お茶に口を付けたときにノック音が聞こえた。
途端にピリッとした空気になる。
私は扉に視線を向け、壁際に立っている騎士らに視線を向ける。
動いたのはブレイク。
扉の近くまで移動し、待機する。
オーフェスとヒューバートが私の背後に移動してくる。
「………どなたでしょう?」
ノックをするということはラファエルではない。
………こんな時に判断材料になるのは喜ばしいと思っていいのだろうか?
『おくつろぎ中、申し訳ございません。ソフィア様に面会をしたいという者が来られておりますが、如何なさいますか?』
「………」
警戒度が更に上がった。
今の声は私の部屋の前で交代で警備してくれている、ラファエルの指示を受けた騎士だろう。
その騎士にも通達してくれているはずなんだけれども。
「その者はラファエル様の許可を得ている者ですか?」
私に面会する者はラファエルの許可がいる。
それはずっと変わっていない。
解除してくれと頼んでもいないし、更にこの状況ではますます必要な手順となる。
『………貰っているようです』
「………」
何故即答せず、最初に沈黙した?
確認さえしていなかったということ?
今確認した?
………それとも――
スッと目を細めたとき、ほんの少しだけ空気が動いた。
ソレは耳元を微かに通過した。
固いライトの声が――姫、と。
警戒度MAXのライトのささやきに、私はソファーの背に手を置いて飛び越え、オーフェスとヒューバートの背後へと移動する。
私の行動に慣れていないブレイクとドミニクは目を見開いたが、オーフェスとヒューバートは動揺もなく剣に手をかけた。
手を振って侍女を隣室へと下がらせる。
「………お断りして下さい。ラファエル様からは何も伺っておりません」
ラファエルなら許可を出す前に、きちんと私に確認を取るはずだし、取らないとしたらお兄様かお父様お母様相手くらいだろう。
『………畏まりま――何をしている!!』
突然騎士が声を荒げ、そして私の部屋の扉が吹っ飛んだ。
………吹っ飛んだ!?
王太子妃(まだなっていないけれども!)の部屋の頑丈な扉が!?
ヒューバートが私の頭を抱え、力尽くでその場に伏せた。
その上からオーフェスも伏せ、私を守ってくれる。
ブレイクとドミニクは無事!?
部屋に壊れた扉の破片が飛び交う音と、壊れたときに出た煙が立ちこめる。
「………過激すぎるでしょ」
「そこではないですソフィア様」
「そもそも扉は壊すものではありません」
………冷静な突っ込みありがとう。
音も煙も落ち着いたところで、オーフェスとヒューバートが身を起こし、周りを確認する。
「ごきげんよう王女」
扉を壊してでも面会したい者が聖女だと分かり、私はゲッソリした。
ソファーの後ろに隠れていますけれども。
………居留守使えないかしらね…
さっき思いっきり会話しちゃったから無理だよね…
「………って! いないじゃないのよ! どこ行ったのよ!! いつの間に出かけたのよ!」
………え?
マジで天然なの?
普通隠れてるって思わない?
「………サンチェス国王女の部屋に不法侵入。覚悟はよろしいか」
一斉に騎士らが動いて聖女を囲む。
私は隠れたまま聖女の姿を精霊伝いで見る。
後ろには魔導士2人。
どちらかが扉を壊したのだろう。
………聖女にいいように使われているだけだろうけれど。
なんであれだけ言っても懲りないかなぁ。
王太子に迷惑がかかる――ああ、マジュ国では聖女は王と同等、ってアマリリスが言ってたっけ?
ソレによって王太子より聖女優先なのか…
それも可笑しいって思わないのかね。
ましてや他国で問題起こしたら、大変なことになるのが分からないの…?
既に自分の国の問題で他国を巻き込んでいるのにも関わらず。
確かに恋奪では聖女の言葉を何でも、誰でも叶えてくれるらしいけど。
こんな事をして大丈夫だと、本気で思っているのだろうか。
「ちょ、待って! 私は王女に話をしに来ただけで!」
「ソフィア様には話はありません。立場が上の人間が拒否しているのに、そんな我が儘が通るとお思いですか」
「私は聖女よ!?」
「それがどうしました」
「なっ……!?」
「聖女だろうが関係ありません。貴女の立場を今一度確認して下さい。ああ、ソフィア様の部屋の扉の弁償は勿論して頂きますよ。貴女自身の財で」
「はっ!? なんで私がっ!」
「当然でしょう! 壊したら弁償するのは常識です! その常識もないのですか!」
話の内容はかみ合っているのに、何故か通じない聖女に、私はため息を吐いた。
これはもう治らないだろう。
まともに人の意見を聞かない……いや、聞いているけれども理解しない相手など、相手するのも無駄。
『風精霊、叩き出しちゃって』
『畏まりました』
「「!?」」
「きゃぁぁぁああああ!?」
風精霊の見えない風に乗り、3人は遙か彼方へと飛んでいったらしい。
ない扉の向こう、通路に響く聖女の声が段々小さくなり、聞こえなくなった。
「………扉、どうするのよ……」
私は粉々にされた無残な扉を見て、ため息を吐いたのだった。
せめて……せめて警備の騎士を気絶させて普通に入ってくるとかしなさいよ。
なんで壊すのよ。
警備騎士は青ざめた顔で震えていた。
「………今度からはきちんとラファエル様の許可を貰った者だけ、中に声かけをしてちょうだい。きちんと先触れか直々に伝えて下さるから」
「も、申し訳ございませんでした!!」
直角に頭を下げる騎士を尻目に、私は心の中で精霊達に扉を直せないかを確認したのだった。
アレと行動を共にとか、拷問だわ…
これで強制帰国させられないかな。
普通ならするよね?
………ただこの場合、あの魔導士が壊したと思われるので、魔導士だけ帰されて聖女は残るか…
ほんと、もうやだあの聖女…




