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第571話 人の振り見て ―A side―




「ちょっとそこの貴女!」


姫様への食事を運んでいるところだった。

私の周りには騎士達がいる。

マジュ国の人達が滞在中、そして姫様に嫌がらせをした犯人が分かっていない以上、何もかも警戒するように言われている。

それは勿論、姫様の口に入る食事を運ぶときも警戒対象であり、ラファエル様が騎士の何人かを食事を運ぶ時間に派遣してくれてた。

通路で呼び止められる。

腰に手を当て、仁王立ちになっている1人の女の後ろに2人の男性。


「………」


教育。

姫様の口から出そうな言葉が、私の心の中でも生まれた。


「何か御用でしょうか聖女サマ」


私は頭を下げ、来賓客への礼を尽くす。

さすがに彼女の態度を見て敬いたくない感情に駆られ、“様”より“サマ”が合っているような気がするため、片言みたいになる。


「なんであんたがここにいるのよ!」

「………何故と申されましても、姫様への食事の担当をさせてもらっておりますので、運ぶのにこの通路を通っているのですが」

「そうじゃないわよ!!」


ダンッと床に足を打ち付ける聖女。

それはどうなの。

聖女以前に女として。


「あんた、サンチェス国で結婚してるはずでしょ! なんでラファエルの傍にいるわけ!? 大人しくあっちの国で暮らしてなさいよ! まさか、あんたもラファエル目当てなわけ!? 恋奪1のヒロインのクセして図々しい!!」


ガチャッと周りの騎士が一斉に剣に手をかけた音がする。

私は頭を下げたまま何も言わなかった。

私はただの侍女見習いだし、彼らの主人じゃないし、咎める権利などありはしない。

………っていうか、人を指差さないでよ。


「恐れながら…我が主人の婚約者に対して、敬称をお付けにならない、それ以前にランドルフ国王太子の名を許可なく呼ぶ行為、決して許されることではありません」

「はっ! 何を言っているの? 私は聖女よ。ヒロインなの。何やっても許されるわ」


そんなわけあるか!

そう叫びたいのを堪える。

私が言えた義理ではない。

私も以前は好き勝手にやっていたのだ。

彼女と同じように。


「あんたの主人に伝えなさいよ。さっさとラファエルの前から消えなさい、とね。もちろんあんたもよ」


くすくすと笑いながらハッキリと告げた言葉に、ついに騎士達が剣を抜いた。


「王太子殿下とサンチェス国王女に対するなんと無礼なこと!!」

「いくら来賓客といえども、我らの主人をバカにするなど、許せぬ!!」

「その命をもって償う覚悟はよろしいか!!」


騎士達の堪忍袋の緒が切れた。

殺気立ちながら抜かれた剣に、聖女サマは腰を抜かした。


「ひぃ!?」

「アイ様!!」


彼女の後ろにいた男達が彼女の前に出る。

男達はフード付きのローブを着ており、見た目だけで魔法使いだと分かるような格好をしていた。

無様に尻餅をついた聖女サマに思わず失笑してしまいそうになり、堪える。


「ランドルフ国の騎士は来賓客に対する礼儀はこれが普通か!」

「普通ではないのはそちらの方だろう! 我が国の王太子とその婚約者をバカにするような言動が常識だというのか!」

「この方は聖女様なんだぞ!」

「それがどうした! それはそちらの国の称号であって、貴族位も何も持っていない平民だろう!」

「な、何ですって!?」

「平民が王族に対しての礼儀も出来ていない! そんな恥知らずな女を恥ずかしげもなく連れている方が可笑しいだろ!! マジュ国では平民が王族に対して先程の言動が許されるというのか! なんたる非常識!」

「なんだと!?」


………ぁぁ……

この場が混沌の地になってしまった…

私は武器も持っていない、素人の侍女見習いだ。

仲裁に入ろうとしても怖くて出来ない。


「何事ですか!!」


通路に響いた声に、全員が声のした方へ視線を向けた。

そこにはラファエル様とルイス様、そしてガイアス王太子が立っていた。

ガイアス王太子の顔色は真っ青だ。

声を上げたのはルイス様で、彼は強張った顔で近づいてくる。


「騎士達、いくら頭に血が上ったからと言っても、来賓客であるマジュ国の者への王宮での抜刀は許されませんよ。彼らは丸腰ではないですか」

「ですがこの者達は得体の知れない力を持っているのでしょう! 我らが倒されては、ラファエル様とソフィア様に危険が迫ります!」

「言っていることは分かりますが、剣を収めなさい」


ルイス様に問答無用で言い放たれ、騎士達は悔しそうに剣を収めた。


「………ガイアス王太子。彼らの監督責任は貴方にある。ランドルフ王宮内で騒ぎを起こすのなら、退宮してもらわなければならなくなる。王に許可を貰ったとはいえ、あまり過ぎると私の方で命じます。協力も致しかねる」

「も、申し訳ない!!」


バッとガイアス王太子が頭を下げる。

ラファエル様の視線は冷ややかだ。


「お前達、なんて事をしでかすんだ! 我々はここに滞在させて頂いている立場だ! 勝手な真似はするな!!」

「「申し訳ございません!!」」

「なっ、なんでよ……私は聖女よ! 膝をつかないこの人達が――」

「アイ!!」


ガイアス王太子に怒鳴られ、ビクッと聖女サマの身体が震える。


「君はマジュ国では王と同等のように扱われる。けれど他国では非力な1人の平民だ」


私は密かにガイアス王太子の言葉に目を見開く。

ゲームではガイアス王太子は聖女に寛大で、何でも許す王太子だった。

聖女を溺愛し、他国であってもなんでも許容し、聖女を庇う言動をする人だったのに。

私は姫様の言葉を今一度思い出す。


『ここは恋奪であって恋奪ではない。1人1人が生き、それぞれ大切な人のために動いている、私達と何も変わらない。だから、ここでしっかりと自分の行いを顧みて、今度こそ間違えないように生きなさい。明里――いえ、アマリリス』


私はそっと胸に手を置く。

――はい、姫様。

心の中で記憶の姫様の言葉に今一度頷く。

私は、もう間違えません。

ガイアス王太子も、ここに生きる1人の人間。

作られた人物像とは違う。


「アマリリス!!」

「ぁ……ジェラルド」


通路の向こうからジェラルドが走ってきて、遠慮なく私に抱きついてくる。


「怪我ない!?」

「け、怪我はない、よ……」

「よかったぁ…」


騒ぎを聞きつけて走ってきてくれたようだった。

ホッとしていつものように笑うジェラルドに、私も微笑み返す。


「俺のお嫁さんになる前に傷物になっても貰うけど、やっぱり綺麗な身体の方がいいもんね!」

「ちょ、なんてことを言うの!」


こんな大勢いる場所で言う必要ないでしょう!


「あ、赤くなった。やっぱりアマリリスって可愛いよねぇ~」

「ジェラルド!!」


ポカポカと胸を叩くけれども、ジェラルドはビクともしない。

………子供っぽいのに逞しい身体なんだから!!


「ジェラルド、アマリリス、イチャついている場合じゃないでしょ。さっさとソフィアに食事を運んで」

「あっ! す、すみません!!」

「はぁい」


ラファエルに苦笑され、私はハッとした。

カートを再び押そうとして、その役目がジェラルドに奪われる。


「ちょ、ジェラルド!?」

「俺が運ぶ~アマリリスちゃんと付いてきてねぇ」

「待って! そんな早く勢いよく押したら零れちゃう!! 盛り付けも崩れる!! 姫様に出せないような状態にしないで!! 姫様は何でも召し上がるけどそれでは私のプライドが――っていうか私の仕事を取らないで!!」

「あはは~」

「あははじゃない!!」


その場から立ち去っていく私達を、ラファエル様達は苦笑しながら見、マジュ国組はポカンとして見ていたのは、気づかなかった。


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