第565話 憶測を言わないように
「いやぁ、ラファエル殿の婚約者は凄いですね!」
辺りを捜索し、魔物が出てこないことを確認。
その後、帰路についている最中。
ガイアス・マジュらマジュ国組と共に。
私達とマジュ国組を騎士達が囲んで。
王宮へ帰るまでの間、ガイアス・マジュは興奮しきりだった。
その勢いに少し引いてしまう私は、間にラファエルを挟む形で歩いている。
「ソフィアは優秀ですからね」
………余所行きの笑顔でラファエルが答えているけれども…
それにしても、聖女サマが静かすぎるのが不気味すぎるんだけれども。
彼女はガイアス・マジュの後ろを歩き、周りをマジュ国から来た仲間が囲んでいる。
チラッと視線を向けると、ゾッとした。
後方からずっと私を睨みつけていた。
『………いつから?』
『帰路についたときからです』
『いや、言ってよ!?』
『王太子様がご一緒ですから手出しは出来ないだろうと』
精霊達は気付いていたらしい。
私は魔物を取りあえず片付けられて気が抜けすぎていたようだ。
いつもなら気付くはず…
悪意に敏感に反応できるはずだもの…
思わずラファエルに握られている手に力がこもる。
「ん? ソフィア、どうしたの?」
「………え? ぁ、何でもないです」
私は慌てて手を離そうとしたけれど、ラファエルが離さず掴まれたままだ。
「あ、そっか。私達より力を使ってたんだもんね。疲れているよね。おぶろうか?」
「け、結構ですわ!」
他国の人もいる前でそんな恥ずかしいことさせないでよ!!
「そう? 疲れたらちゃんと言ってね?」
「はい」
微笑んで頷くとラファエルも微笑んだ。
「………」
「ガイアス殿? どうなさいましたか?」
「いや、ラファエル殿と婚約者殿は、もう付き合いが長いので?」
「そんな事はないよ。1年も経っていない」
「え!?」
大袈裟なほど驚くガイアス・マジュに、私とラファエルは偶然にも同じタイミングで首を傾げる。
「どうかされましたか?」
「いや、昔からの付き合いがあるかと思うほどに、自然体だったから…」
私達は顔を見合わせる。
そうか…
そんな風に見えるなら、嬉しいかな…
ちょっと照れてしまい、ラファエルから顔を背けてしまう。
「あ、ソフィアが照れてる」
「い、一々指摘しなくていいです!!」
パタパタと手を繋いでいない方の手で顔を扇ぐ。
「多分、濃い時間を過ごしているからだと思いますよ。恋愛に時間は関係ありませんし、喧嘩もしょっちゅうですよ」
「喧嘩…想像できないな……」
「何言ってるんですか。恥ずかしながら初対面の会談で、私とソフィアの喧嘩を見たではないですか」
「ら、ラファエル様!!」
恥ずかしげもなく言うラファエルの手を引くが、面白がって私を見下ろしてくるラファエルに頬を膨らませるだけに留めた。
「ああ、そういえば」
「でもすぐ仲直りですよ。私はソフィアに弱いですから」
「なっ…!?」
私が尻に敷いているみたいに言わないでよ!?
「聞き捨てなりませんわラファエル様!」
「本当のことでしょう? 私が折れる方が多い」
「それはラファエル様がよくないことを仰るからでしょう!? わたくしが間違っていればすぐに謝ってますでしょ! それにラファエル様の方が何度もわたくしを謝罪させないと気が済まないときが多いではないですか!」
「え? そう?」
「そうです!」
本当に分からないという顔で首を傾げないで!
むぅっとまた頬を膨らませると、ラファエルが笑う。
「ごめんごめん」
ラファエルは私の頭を撫でる。
それで許しちゃう私もどうかと思うけどね!
「本当に仲がいいんだね。………そうか。私の知っている婚約者とは違うからか」
「ガイアス殿のいう婚約者とは?」
「ああ、マジュ国は魔法の力を強めるために、より魔力が強い者と婚姻を結ぶんだ。だから完全に政略で恋愛が生まれることが稀なんだ」
「………そういう事でしたら難しいですね」
私はガイアス・マジュの言葉に疑問が生まれる。
「そういう政略を否定するつもりはないのですが、魔法の力が強い者同士で婚姻をしても、魔力が強い子が産まれるとは限らないのではないですか? むしろ反発し合って子が出来にくいとか……」
私が途中まで言い、ふとガイアス・マジュを見ると、ガイアス・マジュは目を見開いていた。
「す、凄いですね! 話を聞いただけでそこまで分かるんですか!?」
………だから何故私には敬語なんだ。
ラファエルに使ってよ。
思わず半目になってしまいそうになる。
「そうなんです! ここ数年は子の産まれる数が激減しているんです。1夫婦に1人、2人目が出来れば上出来と言われるほどに。むしろ出来ないことが多くなっていて…」
「そ、そうなんですね…」
「ですが、反発し合ってとはどういう事です!?」
え……
ズイッとガイアス・マジュに接近されそうになって、ラファエルに腕を引かれて距離を取らされる。
さり気なくありがとうラファエル…
「えっと……」
どう言えばいいか分からずに、私は口ごもってしまう。
だってこれは前世の知識からだし…
「昔読んだ書物からの知識なのですが、血縁関係が近ければ近い程、夫婦に子が出来なくなる、血が濃すぎて早産や死産が多い、と」
「そんなことが!!」
「自分たちの血を大切にすることは良いことだと思いますが、あまりに近すぎると子がその血に絶えられないようです。ですから魔法の力も同じなのでは…と安易な考えなのです。魔法がどれほどのものかは分かりかねますが、力で子を産むのではなく、子に力を強めるよう修行させる方法の方が良いかと……と、思ってしまったのです。不確定なことを安易に口にしてしまい、申し訳ございません…」
「いえ、謝らないで下さい! 国に帰ったら医師にその旨伝えて原因となり得るかどうか調べましょう!」
ぱぁっと笑顔になるガイアス・マジュを尻目に、ソッとラファエルを見上げる。
するとラファエルは手で顔を覆っていた。
………ぁ、なんかマズかった…?
「………ソフィア、また1つ…国を救う為の知識をあげちゃったかもよ…」
「………ごめんなさい…」
もう口を開かないでおこう。
私はラファエルの腕に寄りかかったのだった。




