第561話 私は撒き餌
後方から追ってきているマジュ国組は放って置いて、私達はスキー場建設予定地へ辿り着いた。
「あ、綺麗にスキー場が出来てる」
山の斜面を利用して、精霊達が(多分私の記憶から再現した)スキーのコースが出来上がっていた。
傍にはソリ場もちゃっかり作られている。
「ソフィアの想像のまま?」
「うん。ありがとう」
所々に障害となるものも作られていて、あそこ乗り上げたら転ぶだろうなぁ…と呑気に思う。
「後はリフトだよね?」
「うん。上まで登るための」
「技術者が開発できるの待ってね」
「楽しみにしてる」
ラファエルと笑い合っていると、ザワッと周りの気配が変わった気がした。
ハッと頂上付近に視線を向ける。
「ソフィア?」
「………」
不思議そうにしているラファエルとルイスを見れば、違和感は私しか感じていないと分かる。
「気のせい――じゃないよねっ!」
咄嗟に私はラファエルの腕にしがみついた。
「ソ――」
ラファエルが私の名を呼ぼうとしたその瞬間、辺りがいきなり吹雪に見舞われた。
既視感に見舞われる。
やっぱり私が行くところに現れたのだ。
魔物達を引きつける餌になった気分だ。
「うわっ!?」
「ラファエル様! ソフィア様!!」
急いで騎士達が私達の周りを囲んだ。
ラファエルは顔を腕で庇いながら、もう片方の――私がしがみついている腕を引き抜いて、そのまま私をその胸に抱き込む。
前が見えなくなるほどの酷い吹雪になっている。
「くそっ…これじゃ何も見えないっ」
魔物の気配を感じない。
けれど、吹雪になっているからいるはずだ。
厚着しているのに身体が固まっていく。
「ソフィア、大丈夫?」
「ぅぅっ…さ、寒いっ……」
というか、冷たい…というか、痛い…
ガチガチと歯が鳴る。
そんな私を見て、ラファエルが1度私を離したと思えば、自分のコートの前を開けて私をその中へ――
………え!?
ギュッとそのままコートの上から抱きしめられた。
「ら、ラファエル…コレじゃあラファエルが動けない…」
「俺が動くとしたら騎士が全員突破されたときだから」
「で、でもっ…」
動けないことは勿論だけれど、なにより全身がラファエルの温もりと匂いに包まれて……恥ずかしすぎるんですけどっ!!
顔が寒さとは違う意味で顔が赤くなってしまう。
「大人しくしててソフィア」
私が悪いんですかね!?
一応緊迫した状況じゃないんですか!?
私、こんな事されて冷静でいられないんですけど!?
「ぎゃぁ!?」
そんな時、誰かの声がした。
ハッと顔を上げると、騎士の1人がその場に蹲り、その騎士を守るように別の騎士が前に立った。
そして四方から動物の唸り声のようなものがしてきた。
いつの間にか周りを囲まれている。
「………この吹雪、厄介だな」
ラファエルが呟いたとおり、吹雪の中に黒い影のようなものがうっすらと見えるけれど、何がいるのか見えない。
大きさ的に、あの捕らえた魔物と同じではないかと思うけれども。
『………火精霊、吹雪を止めることは出来ないわよね』
『出来る』
『………え…』
火精霊に即答され、私は一瞬固まった。
………って、出来るんかい!!
じゃあ、言って!?
むしろもうやっちゃって!?
『だが、姿を見せてはいけないのだろ』
『………ぁ…………姿を見せなきゃやれない……?』
『………主の手から力を出すなら、少し時間がかかる。それに大規模な天候操作となればそれだけ本来の姿の方がいい』
『時間がかかってもいいからお願い!!』
『………では主の手を拝借させてもらう』
そう言われた途端に、私の意思とは関係なしに腕が勝手に動いて天に向かって伸ばされた。
「え、ソフィア?」
突然の私の行動にラファエルが目を見開く。
私も目を見開いて驚いてますけれども!
じわりと手が暖かくなっていき、次の瞬間、空に向かって私の手から大量の炎が噴き出した。
「うわっ!?」
「あっつ!?」
ですよね!!
周りの騎士達が炎の熱でビックリして振り返ってくる。
いや、前は見てて!?
炎は途中で四散し、私達の周り半径大体100メートルぐらいに落ちた。
そしてまるで炎の檻のように等間隔で上に伸び、私達を囲んでドーム状になった。
炎の向こう側は変わらず吹雪だけれども、このドームの中は免れていた。
「………火精霊すごい…」
「本当にね」
時間がかかると言っていたのに、私からしたら本当に一瞬の出来事に感じた。
精霊の感覚とは違うのかも…?
『主達の周りだけ見えればいいんだろう? もっと広げるか?』
『広げたらスキー場が熱されて溶けちゃうから止めて』
『………了』
火精霊のおかげで周りが見えるようになり、私達は魔物にやはり囲まれていたことを知る。
「………前より増えてる…」
魔物は捕らえた魔物と同じ形をしていた。
そしてその数は数え切れないほど。
「………50……いや、100はいるか」
「そうですね」
火精霊のおかげで暖かくなり、ラファエルから私は離れ、私もラファエルもルイスも何があってもいいように両手を空けた。
「全員戦闘準備! 俺達に1匹も近づけるなよ!」
ラファエルの言葉に騎士達が全員声を揃えて「御意!」と返事をし、魔物達に一斉に向かって行った。
「ソフィア、ルイス、騎士達に当てるなよ?」
「保証できないよ!」
「初めての試みですからね」
「おそらく氷属性だから、無難に炎でいってみるか」
ラファエルと私は手の平に炎を、ルイスは闇を作り出してもらい、魔物達に向かって放った。




