第560話 やってみよう
アレから色々実験して、精霊の攻撃はどんな物も有効と分かった。
今度は俺が守る、とラファエルが私を守ってくれようとするのは純粋に嬉しい。
けど怪我をしないかが心配だ。
私達は最後に魔物をその場に残して建物を出た。
生かしておいていいのかと聞けば、あの建物はどんなことをしても壊れないだろうということで、ランドルフ国内にいる全ての魔物を消した後で、捕らえた魔物も処理したいとのこと。
他の魔物と対面することで、新たに疑問が出たらあの魔物で試したい、とも。
それに建物内だけだけれども閉じ込めて、その姿を消さないかどうかも知りたいらしい。
………確かに、温泉街に出没する前までの行動が分からないし、目撃情報もない。
姿を消して近づけるのか、別の移動方法があるのか。
アマリリスにこっそり確認しようかな…
そんなことを思いながら私はラファエルと共に部屋に帰って就寝。
翌日から魔物捜索になった。
ちなみに建物から出たときにはヒロインの姿はなかった。
「学園が休みでよかった」
翌朝朝食を取り、私達精霊契約者全員王宮から離れることで、王宮は安全だろうと判断し、主戦力は殆ど連れて行くこととなった。
私の騎士にラファエルの騎士。
そして北ということで、第四騎士隊ジェシー隊長率いる騎士達。
今回見習いは含まない。
精霊の力を遺憾なく発揮するために。
それとそれぞれの騎士隊で巡回に行かない騎士たち。
見習い教育の為に第一から第三の隊長副隊長は置いてきている。
「私達が授業受けている最中に学園が襲撃されても困るものね」
「うん」
ざくざくと雪の中を歩きながら私とラファエル、そしてルイスは周りを騎士達に囲まれながら移動していた。
スキー場建設予定地が1番被害を受けても民を巻き込まないだろうということで、そこまで移動中。
「………で、アレは?」
私は精霊から報告され、気付いた。
遙か後方から、人がこっそり追ってきている、という。
ラファエルを見上げ、視線だけで後ろを示すと、ラファエルはため息をつく。
「………追い返して突き放しても諦めないんだもん。ある意味評価できる人材だよ」
ラファエルもルイスも精霊から伝えられたのか、気付いていたようだった。
朝一王宮でラファエルに会えば、ランドルフ国での行動を制限なく許可して欲しいと詰め寄って。
食事を終えて準備をしていれば、連れて行って欲しいと願い。
拒否れば勝手についてくるという…
「ガイアス王太子は、強いわね…」
「………あれが強い、ね。ああいうのは諦めが悪い、または自分の我を通す我が儘、って言うんだよ」
「でも、自国の責任、と言って解決しようとする。ラファエルに拒否されて「ああそうですか」って引かず他人任せにしないところ、責任感は強いと思うよ」
「………ソフィアが俺以外を褒める…」
………否定するのはそのせいなの…?
ラファエルの言葉に苦笑する。
「………王との謁見を終え、許可が出るまで王宮から出ることや、勝手な真似をしないように釘を刺したんだけどなぁ…」
「そういえばルイスはどういう返答をするつもりだったの…?」
静かに私達の会話を聞いているルイスを見上げる。
「特に考えていませんでした」
「え……」
「私は先入観を持って面会するわけにはいきませんからね」
「あ、そっか…」
周りの騎士達に聞かれても、私達はお構いなしに話す。
全員が王が幽閉され、ルイスが影武者だと知っているから。
箝口令はしかれているし、見聞きしたことは聞かなかったことにして右から左へ流している。
それが王族が管理する王宮騎士だ。
「………しかし……付いてこられていると、安易に精霊に出てきてもらうわけにはいかないんだよね…」
「そうだね」
私は暫く考え、ポムッと左の手の平に右手拳を置く。
「私達の手の平からみんなに力を出してもらうとか」
「「………手の平?」」
「そうすれば精霊の姿を現さずに済むから見られないし、私達が魔法みたいな力を持っているから対応できるんだと、ガイアス王太子達に納得させられると思うけど」
………っていうかそんなことをすれば、私はますますファンタジーの世界に来たんだと実感しちゃうなぁ…
自分で魔法を使って敵をやっつける。
まさに人外になった気分になる。
あ、誰かが今更かよ、って言ってる気がする。
でもでも、憧れるじゃない!?
自分で魔法を使いたい、って!
誰もが憧れるものだよ!!
………誰に力説しているんだろう私…
「………そんな事出来るの?」
「そうですよ。私達はそんな力の使い方をしてくれと願ったことはないんですよ?」
2人に否定的な反応をされ、私はラファエルをジト目で見てしまう。
「………昨日、ラファエルがガイアス王太子達に対してしてたでしょ…氷の精霊で床を凍らせてたじゃない。その時精霊は姿を現してなかったでしょ」
「………………………ぁ」
「ラファエル様はそんなことをしていたんですか」
その報告は受けていなかったのか、ルイスが半目でラファエルを見る。
「ちょ、ちょっと感情の制御が出来なかったんだって。睨むなよルイス」
「………はぁ…訴えられていないことが救いですね……けれど、行き当たりばったりで出来ますかね?」
「………それは……確証できないけど…」
私は試しに手の平を上に向けて火精霊に心の中で願う。
私の手の平の上に火の玉を出して欲しい、と。
すると――
「うひゃぁ!?」
「ソフィア!!」
ボッと手の平に火の玉が出てきて、驚いて足を滑らせてしまう私の背をラファエルが支える。
勢いがよすぎたのと、ちょっと思っていたよりも大きくて、前髪が燃えるかと思った…ビックリしたぁ……
「あ、ありがとう……」
私はラファエルを見上げてお礼を言うが、ラファエルもルイスも私の手を凝視していた。
「………本当に出た…」
「出ましたね…」
まじまじと見られると、なんだか恥ずかしくなる…
私の手の平、可笑しくないかな…なんて見当外れな考えをしてしまった。
「レッド」
ラファエルが同じく手の平を上に向けて火の精霊の名を呼んだ。
私が実践して見せたからか、火精霊が作った火より小さい玉がラファエルの手の平に浮かぶ。
「おお……」
ラファエルがなんか子供みたいに目を輝かせてそれを見る。
口元には笑みが浮かんでいて、楽しそう。
………可愛すぎでしょ!!
「私は闇の玉ですかね」
そう言いながらルイスの手の平に真っ黒い玉が現れる。
全員問題なさそうだ。
………ということは、私が頭に浮かべた魔法の実現が出来るのかな?
例えば火の矢とか火の竜巻とか。
あの技名叫びながら攻撃するやつ。
思わず私も子供みたいにはしゃいでしまいそうで、口を手で覆った。
人目があるのにそんな王女らしくない事はできないわ。
そう思いながらも、手の下で私は笑みを引っ込めることが出来そうになかった。




