第558話 実験です、が…
「ソフィア、お願い」
「闇精霊」
ラファエル達と共に、精霊の力を出せる建物へと来た。
今回は実験のために、普段入室を許可されていない契約者以外の騎士達もいる。
私の騎士にラファエルの騎士も。
もちろんルイスもいる。
目の前に闇の力で作られた球体が現れた。
『………いきなり放すのか?』
「いや危険なこと言わないでよ!」
闇精霊も姿を現し、私に聞いてくる。
ギョッとして慌てて闇精霊の手を掴む。
「あの球体を四角い格子状に出来る?」
『………格子…』
「牢屋みたいに」
『………ぁぁ、アレか…』
闇精霊の手を離すと、闇精霊は手を動かして形を変えていく。
すると檻に入っているように魔物が姿を現した。
途端に格子状になっている闇の力に対して体当たりをし始める。
鉄とかじゃないから無音だけれども。
グルルッと魔物が唸る声だけがする。
「………何、あの生き物」
ラファエルが顎に手を付けて観察している。
戦闘になるかもしれないからか、腕まくりして。
………こんな時なのに顔が赤くなりそう…
「この国では存在しない動物、のようですね。あ、マモノ、でしたか」
「でも助かる」
「………ぇ?」
ラファエルの言葉に私は首を傾げる。
「見覚えない動物の姿なら、遭遇したらすぐに分かるでしょう? この国の動物に類似していれば魔物かどうか判断できないでしょ。避難を促すことも出来ない」
「あ……そっか…」
説明に納得して、私は魔物に改めて視線を向ける。
すると、真っ直ぐに魔物に睨まれていた。
………ラファエルとルイスがいても、私を見ているということは…
「………ふむ……ソフィア」
ラファエルが何かを考え頷く。
そして私を見下ろしてくる。
「え? 何?」
「1回ここから出てくれる?」
「………へ?」
「ソフィアの契約精霊は究極精霊。俺達の精霊の気配より強く感じてるのかもしれないから」
「………ぁ、なるほど……」
私は頷いて私の騎士と共に建物から1度出た。
入り口が閉まり、私は建物を見上げる。
中の音が一切聞こえない。
「やっぱり精霊が作る…結界? は凄いんだね」
「そうですね。人の力でここまで防音される建物を作ることは出来ないでしょう」
オーフェスが私の言葉に返してくれる。
「ランドルフ国の技術者でも無理なのかな?」
「………将来的にあるいは……といったところでしょうか。確証はありませんね」
「そっか…」
やっぱり精霊様々なんだな…
共存関係なら、いつか近未来的な国が作れるかもしれないね。
私はのんびり騎士らと話していた。
背後からの足音が聞こえるまでは。
スッと私の背後に騎士らが移動して、その背で私の姿を隠すのが分かった。
私は騎士らに任せてラファエルを待つ。
「………何用ですか」
警戒する騎士達の気配と、それに気圧される気配。
「あ、あの…! ラファエルの婚約者って、貴女…!?」
やっぱりヒロインかぁ……
王宮内からこの場所へ移動しているのを見られてたかな?
つけてくる気配はなかったはずだから。
あれば精霊が教えてくれるだろうし。
この建物は王族が管理できるように王宮から見える距離に建てられている。
…っていうか、会ったじゃん。
なんで初対面みたいな感じで言ってくるの。
私が呑気に考えていると、騎士達が剣を抜く音がした。
「ひっ!?」
「ソフィア・サンチェス王女に対してその物言いは何事か」
「呼びかけるだけに留まらず、王女を貴女呼ばわりの上、王太子殿下をも呼び捨てか!」
………どうでもいいけど、私初めて“殿下”って呼び方を聞いた気がする…
「ぇ……な、なんで……っ……」
なんでって…
乙女ゲームのゆるゆる設定なら、聖女と崇められてみんなから何やっても好意を持たれるでしょうよ。
なにせ三流ゲームだから。
………でも、ここは現実で、そんなゆるゆる設定のままいられると思っているのが可笑しい。
階級社会でそれが許されれば、あっという間に秩序崩壊する。
マジュ国内ならそれでも許されただろうけれど。
………あのラファエルの怒りを見て、まだ甘い考えでいられるのは、絶対に自分はちやほやされる運命だとか思っている、あるいはやはり天然なのか…
今振り向いたら、涙目になってるのかなぁ?
もしもラファエルを攻略したいなら、ここで私に取り入るとか?
踏み込ませませんけれども。
またラファエルを怒らせて、問答無用で凍らされたら堪ったものではない。
………そういえばなんであの時凍ったのだろうか?
ラファエルと1番相性がいいのは氷精霊?
でも、ラファエルが最初に契約したのは水の精霊であるユーグだよね?
感情的になれば制御できずに、1番力が出る属性が出るのかな?
う~ん…
「………っ……そ、ソフィア・サンチェスっていう人なんて、出てこなかったのにっ…!」
………そりゃモブですから。
「なんでっ…!! ここ、恋奪2でしょ…!? ラファエルは私のっ…!!」
ラファエルは物ではありません。
小声で呟いてるけど、精霊のおかげで私には聞こえてますよ~っと。
双方膠着状態になったみたいだったから、いつ向かってこられてもいいように、彼女を見ている精霊の目を共有しています。
前を向いているのに後ろも見えるとか、チートかよ。
って突っ込み入りそうだ。
結構これはきつい。
何がって、自分の目に映るものと、精霊が見ている光景がダブって見えているから。
………酔いそう…
目を瞑れよ、とか言われる気がする…
でもラファエルが呼びに来たときに目を閉じてたら、変な子に思われるでしょ?
おかげで彼女の声が聞こえる――というよりかは、唇の動きを読んで精霊が頭の中で伝えてくれているだけなんだけどね。
騎士達はおそらく聞こえていないでしょう。
「ソフィア、お待たせ」
建物の入り口が開き、ラファエルが顔を出す。
ラファエルの視線がチラッと私の背後に向いたけれども、すぐさま私に向く。
ラファエルも無視の方向ですね。
了解です。
「いえ。何か分かりましたか?」
「分かったよ。入っておいで」
自然に私の腰に手が回り、ラファエルに中へと導かれる。
「ソフィアの騎士達もおいで」
視線を向けずにそう言い、騎士らが入ればすぐさま扉が閉められた。
「何あれ」
「さぁ?」
ラファエルに聞かれ、私は首を傾げるだけだった。
………あれ、居座られたらどうしようかな。
そんなことを考えながら、私はルイスに向かって吠えてた魔物が自分に向くのを見つめた。
「………あ、ソフィア! さっき俺以外に触れたでしょ!!」
「精霊にまで!?」
ぶれないラファエルさん、さすがです…




