第553話 予定外訪問
ラファエルに至近距離で尋問――いやいや、質問されている私。
どう言ったらいいか分からなくて、視線を彷徨わせてしまう。
そうこうしているうちに焦れたラファエルは、更に顔を近づけてくる。
もはや0距離!!
ひぃぃ…!!
綺麗な顔で、満面の笑みで、凄まないでぇ!!
怖い!!
怖いからぁ!!
「………力尽くじゃないとダメかな?」
何をなさるおつもりですか!?
私が別の意味で固まってしまったとき、ノック音がした。
この状況を打破できるのならばと、私はすぐさま入室許可を出した。
そして後悔する。
入ってきた使用人に私達の状態を見られ、恥ずかしくなった。
更に使用人も固まってしまう。
私が何も言えなくなり、ラファエルがため息をついて顔を遠ざけていく。
それによって私はホッと息をつく。
けれどもラファエルにしっかりと抱きしめられ、また恥ずかしくなったけれども!
「………何?」
「はっ、し、失礼致します! ラファエル様に謁見願いたいと申し出がありまして」
ラファエルの視線がまた鋭く光った。
「………今日は面会申請出てなかったけど?」
「き、緊急と言われまして!」
ぷるぷると震える使用人。
ラファエルの機嫌が悪くなっていくのを感じたのだろう。
「………ふぅん。相手は?」
「マジュ国の王太子、ガイアス・マジュ様と、そのお連れ様だそうです!」
相手を知った瞬間、私は思わずラファエルから身を離し、アマリリスを見てしまった。
アマリリスも私を見ており、視線だけで大体察する。
「――これも知ってるか」
ボソッと呟かれた言葉に、私はしまった、と思った。
私だけに聞こえただろうその呟きは、今後の私の立ち位置を変えてしまうだろう。
「………まぁいい。応接室に通して」
「は、はいっ!!」
使用人はラファエルの視線から逃れられた安堵のせいか、すぐさま身を翻して出て行った。
いや、待って!?
私の行動のせいだけれども、爆弾だけ落としていかないで!!
「ソフィア」
「はっ、はいっ!!」
「俺が戻ってくるまで部屋から出ないように。それと、それまでに頭の中を整理しておいて。俺にスムーズに説明できるように」
背後からの威圧感たっぷりのラファエルの言葉から、私の逃げ道はないことを知る。
「………か、畏まりました……」
「敬語」
「わ、分かった!!」
ひぃぃ!!
怖いよぉ!!
ビシッと背を伸ばして叫ぶと、ラファエルは私の頭を撫でて出て行った。
パタンと扉が閉まったと同時にばたりっとソファーに倒れ込んでしまった。
「す、すみません姫様!! わ、私のせいでっ!!」
そんな私にすぐさまアマリリスが駆け寄ってきて涙目で謝ってくる。
………やっぱりアマリリスも怖かったよね…
「う、ううん……私が腹芸出来なかっただけだから…」
「で、ですが、私がお伝えしたせいですから…」
「いや、むしろ知っててよかったよ」
「え……」
私はゆっくりと身を起こした。
もし知らなければ、すぐさまアレが魔物だと気付かなかったし。
街に被害が出たかもしれないし。
冷静に魔物を分析など出来なかっただろう。
「………でも、精霊達に街を見ててもらったはずなのに……アレが出てくるまで異常なんて感じられなかったんだよね…?」
究極精霊に確認すると、肯定される。
直前まで気配を感じさせない魔物相手に、どう対処しろというのだろうか。
「アレの正体を知ってるのはアマリリスの方なのぉ?」
突然ジェラルドの声が入ってきて、ハッと私は周りを見た。
そして私に全員の視線が集まっているのに気付いて、ヤバいと思った。
アマリリスも顔を青くした。
ど、どうしよう…
「………仕方ありません。姫様、ラファエル様がお帰りになられましたら全てをお話しましょう」
「え……でも…」
覚悟を決めたアマリリスの視線に、私は戸惑う。
その事で悪い影響が出たらどうするの…
「………大丈夫です。アレの正体を言うだけで、(ゲームの)内容は話しませんから」
私にだけに聞こえるようにアマリリスが囁いた。
あ、そうか…
魔物の件だけ話せばいいのか。
未来のことを話さなければいけないと思ってたから…
ホッとすると、アマリリスも笑う。
「姫様お疲れでしょう。ラファエル様がお戻りになられるまで、お休みになっては如何ですか?」
「え……」
アマリリスが強引に私を促して、寝室のベッドに横にならされた。
………アマリリスって、こんなに強引だったっけ?
「横になりながら、ラファエル様の様子をお探り下さい。おそらく王太子の連れはヒロインです」
「………え!?」
みんなに聞こえないようにだろう。
アマリリスは寝室に入ってからも小声で囁く。
私は身を起こしてアマリリスを凝視する。
「ヒロインが最初に訪れるマジュ国。そこから何処の国の現象を解決するかはヒロインに委ねられます。最初の選択肢であるのです。自分の好む男性を選ぶビジュアルが画面に映し出されて」
「――っ!? そ、れは……つまり……」
「時期から言って、ラファエル様を選択した可能性が高いです。召喚される世界の人間は、日本をモチーフにしておりますから、ゲームをしているヒロインが召喚されてる可能性もあります」
アマリリスの言葉に私の顔は真っ青になっていることだろう。
「ラファエル様が姫様から心移りされるとは思っておりません。ですが、会話を知っていて損はないかと。それに姫様が狙われていた、と知っている以上、ラファエル様は解決するためにヒロインの傍に付くかもしれません」
ラファエルの隣に私じゃない誰かが並ぶ……
そ、れは……絶対に嫌だっ。
「わ、分かった。見てみる」
「はい。お休みなさいませ姫様」
アマリリスはいつものように振る舞い、寝室から出て行った。
そして私はベッドに身を委ね、ソッと目を閉じたのだった。




