第550話 狙われる理由
アルバートに担がれたまま、私はアシュトン公爵領である北に来た。
「アルバート! あちらへ! 民家とはなるべく離れて!」
「分かってる! だが、こう雪が深くちゃ思いどおりに走れねぇ!!」
万年雪が積もっている北には、前のランドルフ国全体のように1mは雪が積もっていた。
雪の上を走ろうとしても滑って上手く走れない。
魔物が追ってきている状態で、走れないのは致命傷だ。
「っ……ぁ! 火精霊!! アルバート達に道を!」
私が言うと、すぐさま姿を現してくれた火精霊が火を吐いて、道を作ってくれる。
………って、ぁ……
「………火精霊に乗って逃げたら速かったんじゃ……」
「「「「………」」」」
私の呟きに騎士達は無言で走り続ける。
………ごめんなさい!!
「もうこのままの方が早ぇ!!」
道が出来、アルバートの走るスピードが上がる。
他の3人も。
後方に見えていた魔物の姿が遠くなっていく。
………魔物より早い人間の足って、なんだ…
そう思っていると、急にガクンッと衝撃が来た。
「うひゃぁ!? アルバート!?」
慌ててアルバートの肩に手を置いて振り向いた。
アルバートが前方を睨みつけていたから、私も顔を自分の後方――アルバートの正面に向ける。
「………う、そ……」
私達が向かう先に追ってきている魔物と、全く同じ姿の魔物の群れが待ち受けていた。
目算だけでも10匹以上。
下手したら20匹はいるのではないだろうか。
後方にいた3人がすぐに私とアルバートを囲み、アルバートの前方にヒューバートとジェラルド、後方にオーフェスが立った。
そして後方の魔物も追いついてきて、前方の魔物がゆっくりと動き、私達は囲まれてしまった。
「………ソフィア様、下ろすぜ?」
「………うん…」
私はソッとアルバートに下ろされた。
背の高いアルバートの肩に担がれていた私を、魔物は見上げていて、下ろされたら視線も下へと動く。
………やっぱり、狙いは私なんだ…
なんで……
ゴクッと喉が上下した瞬間、一斉に魔物が飛びかかってきた。
一直線に私に向かって。
「ソフィア様動かないでよ!?」
「わ、分かってる!!」
ジェラルドに言われ、私は魔物達から視線を外さずに返す。
騎士達が剣で魔物を真っ二つにしていく。
でも、先程と同じように他の魔物を相手している間に、斬り捨てた魔物達が元に戻りまた向かってくる。
「これじゃキリがねぇ!!」
「なんか方法ないの!?」
「このままではソフィア様が怪我を負ってしまいます!!」
「そう言われてもっ!!」
何度も復活していく魔物。
それに対して騎士達は怪我を負って、体力を消耗していく。
このままでは騎士達が倒れてしまう。
そうこうしていると、後方の魔物達が次々と倒れていっているのが見えた。
目をこらすと、ライトとカゲロウも参戦してくれていた。
私ばかりに向かってくるから後方からなら、簡単に斬り伏せれるみたいだった。
けれどやっぱり魔物達は復活していく。
復活しても自分が斬った相手には向かっていかない。
………何の法則があるの…!?
ここにアマリリスがいたら聞けるのにっ。
原因と言われても私は何も持ってないし。
みんなになくて私にある物って何!?
『主!!』
未だに姿を現していた火精霊に声をかけられ、ハッとして上を見た。
するとどういうわけか魔物が、初めて私以外に飛びかかった。
――空にいた、私の真上にいた火精霊に向かって…
「っ!! みんな!! 出てきて!!」
究極精霊全員に姿を現してもらうと、魔物達の視線が四散した。
「やっぱり…!!」
「ソフィア様、これは……」
「この動物たちは、私の中の精霊の気配に向かってきてたんだ!!」
精霊達が私達から離れて行くと、魔物達が分かれて追っていく。
それぞれに攻撃をしてもらうと、攻撃を受けた瞬間、魔物が倒れ、黒い煙を出しながらその姿を消していった。
「………精霊の攻撃は効くようですね…」
街から離れているとはいえ、空中から火やら水やらが飛び交っているのを、人に見られないか少々心配してしまうけれど、取りあえず魔物達を片付け――
「あ……! ま、待って!! 1匹は拘束して! 倒さないで!!」
残り少なくなったところでハッとし、言うと闇精霊が闇の力で魔物を覆い、球体の中に閉じ込めた。
「危ねぇよソフィア様!! なんで倒さねぇんだ!?」
アルバートに言われ、私は彼を見上げる。
「何故斬られて復活するのか、何故私の精霊の気配に向かってくるのか、他の…街にいた精霊には見向きもしなかったから、究極精霊以外には向かっていかないのか、究極精霊の力だけが倒す方法なのか、色々調べないといけないでしょ? もし法則が究極精霊ではなく、“契約精霊のみ”の気配に向かってくるなら、ラファエルもルイスも危ないじゃない」
「ぁ~…そうか」
ガシガシと頭を乱暴に掻き、アルバートは怒鳴ったことを謝ってくる。
私は首を横に振って許す。
周りに魔物が跡形もなく消えたことを確認し、私は息を吐いた。
「ソフィア様、急いでお戻りを。またいつ現れるか分かりませんから」
「うん。今度は火精霊に乗せてもらって、急いで戻ろう」
火精霊以外には戻ってもらい、火精霊は私達を乗せて空へと舞い上がった。
「………ぁ……ラファエルと私、話せるのかな……」
ラファエルを怒らせている私の話を聞いてくれるかどうか分からない。
門前払いだったし…
暫く考えて、私は水精霊にユーグ経由でラファエルに聞いてもらうために、一足先に戻ってもらった。
先に見たこともない動物に襲われていると伝言を頼んだから、多分これから伝える一先ず解決した旨を聞いて、詳しいことを聞いてくれる時間は作ってくれるだろうけれど……
それに乗じて謝罪できるかな……?
ラファエルに嫌われたままでいたくない…
憂鬱な気分になりながら、王宮へと帰還した。




