表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
549/740

第549話 恋奪2始動




ヒュッと頬を掠める風に違和感があった。

ローズの背中を追いかけ、店に入る直前に感じた違和感。

私は周囲を見渡すも、何に違和感があったのかは分からなかった。


『主!!』


精霊の焦った声を聞くまでは。


「きゃぁぁあああ!!」


温泉街に悲鳴が響き渡った。


「ソフィア様!」


オーフェスが私の前に。

物陰から護衛をしていた私の騎士達も、次々に走り寄ってきて私の周りが固められた直後だった。

温泉街が吹雪に見舞われたのは。


「ひっ…!?」


比較的暖かくなっていたランドルフ国。

今では厚着をせず、通常のシャツに薄手の上着で事足りていた。

故に冷たい吹雪の中で耐えられる格好ではなかった。

急激に体温が奪われていく。


「ソフィア様! 店の中へ!!」


護衛達に言われ、ハッとする。


「ダメ! まだ民が道に沢山いるわ! 先に民を店に誘導して!」

「ですが!!」

「お願い!! ラファエルの民を守って!!」

「っ………アルバート! ジェラルド! 避難誘導を!」

「おう!」

「分かった!!」


2人が手分けして走り、誘導していく。

短時間で私の足も手も、感覚が奪われていく。

日課をして体力を付けている私でさえこうだ。

これでは鍛えていない女子供は耐えられない。

現に道に蹲る人達もいる。


『みんな! 周りにいる精霊に影で人型に変身させて、民達を抱えて店に避難させることは出来る!?』

『『『『『『『『仰せのままに!!』』』』』』』』


すぐに対応してくれる精霊達に感謝する。

混乱している中なら、助けられている最中の人の顔など見ていられないだろう。

見覚えない騎士だとか、精霊とはバレずにすむ。

建物の影から次々に見知らぬ男性達が現れ、民を抱えて店の中へと避難させてくれる。

精霊達に物の重さは関係ないらしいから、素早く避難させてくれるのはありがたい。

見える範囲に民がいなくなった頃、アルバートとジェラルドが戻ってくるのを確認した。


「ソフィア様! もういい加減にっ」

「分かってるわ!」


一歩も動かなかった私に、痺れを切らしたオーフェスが怒り、私は頷く。

今度は素直に足を動かそうとしたとき、ゾクリと全身に悪寒が走った。

ハッと顔を上げると、店の屋根の上にソレはいた。


「お下がりくださいソフィア様!!」


私とほぼ同時にソレを視界に入れたオーフェスとヒューバートが剣を抜き、アルバートとジェラルドが私の手を引き、自分たちの後方へと引きずるように下がらせてくれる。

グルルルルッと鋭い牙をむき出して唸るソレは、真っ直ぐに私を睨みつけていた。

来る、と思ったときにはソレは私の既に目の前にいた。

大きく口を開け、私に齧りつこうと――


「「ナメるな!!」」


両側から剣先が飛びだし、ソレの首を左右から斬りつけた。

咄嗟に私はその場にしゃがみ込む。

そして胴は私の前に、首は私の後ろに落ちた。


「……はっ……はっ……」


浅い息を吐きながら、私は心臓を押さえた。

一瞬の出来事に、夢なんじゃないかと思ったけれど、斬られたソレの生暖かい血が、私の全身を汚し、酷い匂いが鼻をついた。

――殺されると思った。

ドクドクと煩い心臓が、苦しい。


「ソフィア様!」

「お怪我は!?」


心配してくれる騎士達に返事をしたくても出来なかった。

ゆるっと首を横に振るしか。

視線はソレから離せぬままに。

何故、1番遠くにいた私を狙ったの?

そもそも、この動物は一体…?

落ち着いてから観察すると、大型犬ぐらいの大きさで、全身真っ黒な普通に見れば犬、なのだろう。

けれど……

恐る恐る背後を伺う。

そしてビクッと怯えてしまい、その場で尻餅をついてしまった。

金色の瞳が、真っ直ぐに私を見ていた。

口を大きく開けたまま。


「ソフィア様見ちゃダメ」


ジェラルドに手で目を覆われた。

吹雪で冷えているはずのジェラルドの手の平は暖かく、その温もりに安堵する。

あの犬みたいな動物は、顔を見ると狼みたいだった。

なんでこんな所に狼が…?


「何でしょう。この生き物は」

「見たことねぇな。レオポルド様に同行して行った他国でも見た事ねぇ」

「………何故ソフィア様を狙ったのでしょう?」

「………分かりませんね。兎に角王宮へ急ぎ戻った方が良さそうです」

「ですが吹雪――あれ……」


気付いたときには吹雪は止んでいた。

短い間に積もった雪は、地面の熱ですぐに溶けた。

尻餅をついたままの私は、下半身がびしょ濡れになってしまった。


「………ぁ……」


唐突にアマリリスの言葉が甦って来た。


「………そういえば、もうサンチェス国も長期休暇入ったわね……」


この狼みたいなもの、それは……魔物だと、私は理解してしまった。

そして、その魔物が死んだら吹雪が止んだ。

切り離して考えるなという方が無理だ。

この1匹だけだとは思えない。

………あと、何匹魔物は現れるの…?

私を狙ってきたということは、民は襲われないの?

………って、考えるのは後!!


「急いで王宮へ! ラファエル様へ報告を――」


私はジェラルドの手を外し、みんなに最後まで伝える前に気付いた。


ビチャッという音と共に、


ズルズル…という音がして、


ゆっくりと魔物の2つに分かたれた頭と胴体が動き、


距離を縮め、くっついていくのを。


騎士らは私の言葉で私に視線を向けており、私が固まり、目を見開いて唖然としている先を見――

すぐさま私をアルバートが肩に抱え上げ走り出し、後の3人はそれに続いた。


「っ! ローズがまだっ!」

「共にいない方が安全です!!」


止めようとして、すぐさまヒューバートに遮られた。

斬られる前の状態に戻った魔物が立ち上がり、すぐさま周りが吹雪になり、真っ直ぐ私に向かってくる魔物を見て私は口を噤んだ。

みんなももう分かっていたようだった。

魔物がまた私を狙ってくるだろう、と。

私は大人しく抱えられたまま、みんなに守られた状態で、温泉街を後にした。

精霊にラファエルへの伝令を頼み、アルバートに命じ、王宮ではなく北の公爵領にある周りに民家がない、雪崩が起きそうもないところへと逃げてもらったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ