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第548話 頭を冷やして




ラファエルを怒らせてしまってから、1日経った。

朝も昼も休憩時間も私の元へは来てくれなかった。

だったら、と私から会いに行っても門前払い。

扉は開かず、護衛騎士に追い返されるという…

ラファエルの騎士はちゃんと仕事してるね…


「――ぁ」


私の騎士達も見習って欲しいところではある。

けれど今の問題はソレではない。

どうやったらラファエルは私の謝罪を受け入れてくれるのだろうか…


「ソフィアったら!」


肩を叩かれ、ハッと顔を上げる。

そこには怒った顔のローズが立っていた。


「………ぁ…」


私は考え込んでいたから、ローズが戻ってきたことにも気付いていなかったんだ。


「お帰りなさい。良い物ありましたか?」

「ありましたわ。お付き合い頂いてありがとうございます」


現在温泉街へローズと共に買い物に来ていた。

ローズが買いたいと言っていた物を買いに来るために。

ルイスがいないときに行きたいと、それならばラファエルと仕事をしているときだろうと、ローズが私の部屋に訪ねてきたのは今から1時間ほど前。

今日のラファエルの休憩時間は過ぎていて…

私の元に来てくれなかったのなら、今日はもうダメだろうと……諦めてローズと共に部屋を出た。

………前みたいに押し掛けてダメだった。

まだラファエルは怒ってるんだ、と。

今は何を言っても伝わらないのだと。

………私は諦めてはいけなかったのではないか…?

ちゃんと許してもらうまで謝るべきだったのではないか…?

で、でも……私のために頑張ってくれているラファエルの仕事を邪魔して、私の謝罪を押しつけるのも違うよね…?

私は、どうすれば良かったのだろうか…


「もうソフィアはまた暗い顔をして」


また意識を飛ばしていたみたいで、ローズを見ると頬を膨らませていた。

心なしか潤んだ瞳で見られている。

………うっわ……可愛い……

美人なローズが頬を膨らませるなんて…これはルイスが見たら見惚れるかも…

同性である私でさえ頬が熱くなってしまう。


「ろ、ローズ!」

「何?」

「ラ――エル様の前ではそんな顔をしないでくださいましね!!」


公共の場所で思わずラファエルの名前を叫んでしまいそうになり、慌てて言い直す。

私の名前はともかく、王太子の名をこんな場所で出してはダメだろうから。


「………何を言っているの?」


ぁ……今度は眉をひそめられてしまった。


「だ、だって……ローズが可愛くて……」


ぼそぼそと小声で言う。

ラファエルがローズに惚れるなんてことはないだろうけれど、なんか嫌だ……


「もぉ。ソフィアも充分可愛いですわ。もっと自信を持ちなさいな」


ふわりと柔らかい匂いがした。

ローズが私の頬に触れていて、ローズの付けている香の匂いだと気付くのに時間がかかった。


「で、でも……私……エル様を怒らせてしまいましたわ……きっと今頃呆れられています……私エル様に甘えっぱなしで…」

「ソレはソフィアのせいではなく、あの方がソフィアを甘やかしすぎたからですわ」

「え……」


………それは結果的に私のせいでは……?


「ちょっとはお互いに困ったらいいんです。学習能力がないのはあの方もソフィアもいい勝負ですし」


グサッと心臓にローズの言葉の刃が刺さった。

ローズが全面的に私の味方とは思ってはいないけれども、言葉が痛い…

よろっとよろめいてしまい、真後ろにいる平民服を着、さり気なく護衛をしてくれているオーフェスに寄りかかってしまった。


「ぅぅっ…」

「お2人とも、すぐに調子に乗るのを少しは自覚して欲しいですわね」


チラッとローズがオーフェスを見、見られたオーフェスはすぃっと視線だけを反らした。

それはどういう意味だ…


「と、言ってはみましたが、ソフィアが謝っても顔を見せることさえしないのでしたら、放っておけばいいのです」

「え……」

「ソフィアはご自分が悪かったと謝ったのです。それでも許せないという小さなお心しかお持ちでないのでしたら、ソフィアはあの方には勿体ないということです」

「な、何故そんな話になるのです…」

「男性なら、愛しい女性の可愛い悪戯など許容できなければ!」

「………」


ローズの言葉が、何故か素直に受け入れられない。

拳を握って空を睨むローズに、何かただならぬ気配を感じた。


「………ローズ、ルイスと喧嘩したのかな…?」


ふと私は、ローズが実感こもった力説をしているので、ローズの実体験ではないかと推測した。

小声で後ろにいるオーフェスに声だけで問うた。


「………そうでしょうね」


………オーフェス、何故棒読みで言う…

チラッと見上げると、心底嫌だという顔を隠しさえしてなかった。

………………ぁぁ、これか。

オーフェスが女性に興味が無いの。

煩わしいのは嫌いだものね。

女性のご機嫌取りなんて断固拒否なのだろう。

………ぁれ?

なら私は?

………主だからいいってこと…?

よく分からない…


「ソフィア!」

「は、はい!!」

「絶対に折れてはダメですわよ!」

「え……」

「言葉巧みにこちらを頷かせようとされても、あちらが折れるまで頷いてはダメですわ!! 分かりましたね!!」

「は、はい……」


ローズの勢いで思わず反射的に頷いてしまった。


「よろしいですわ。では、次はあのお店に寄ってみましょう」


まだ買い物を続ける為にローズが歩いて行く。

その背中を見ながら私も歩き出す。


「………帰ったら、またラファエルに会いに行って謝ろう……」


ローズは折れるなと言ったけれど、今回のは私が悪かったのだから。

私はローズをどう宥めようか考えながら、ローズの後に続いて店に向かった。


「………ソフィア様、まんまとローズ嬢の罠にはまっていますよ…」


オーフェスが後方でため息をついていることなど気付かずに。


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