第544話 恒例行事
訓練場の入り口を壊して登場したアルバート。
その残骸をひょいひょいっと飛び越えてジェラルドも現れた。
「アルバート~あれ怒られるよ~」
「あれぐらいで怒られるかよ」
いや怒るわ!
「アルバート!」
「へ……!? そ、ソフィア様!? なんでここに!?」
観客席からアルバートを呼ぶと、明らかに狼狽える。
訓練場に様子を見に行くと、朝に予定を言ったでしょうに!!
ちゃんと聞いておきなさいよ!
「わたくしが何処にいようと勝手でしょう。きちんと貴方にも朝伝えてましてよ! それよりも、その壊した入り口の修理代は、きっちりと取り立てておくようにフィーアに言っておきますからね!」
「げぇ!? そ、そんな!?」
「訓練場は王族管理ですわよ!? 王族所有の建物を故意に壊すなんて何を考えていますの!? 訓練で壊してしまったものは許容範囲ですが、今のは必要ない事ですわよね! 自分がした事への責任は自分で取りなさい!!」
「すんませんでした!!」
腰に手を当てて怒ると、アルバートが直立不動になって謝った。
「大体貴方は考えが足りないんです! どうせ格好いいからとか、そのようなどうでもいい理由で壊したのでしょう!?」
「どう、でも……」
アルバートが固まってしまった。
自分が目立つからだとか単純に考えていたことだろうけれど、私に否定されて思考が止まったようだ。
「ちょっとは考えて行動なさい! こんな事ではどんどん給金を引かれていって、食事が取れなくなるわよ!」
「2度としません!!」
アルバートがその場に伏してしまった。
………ぁ…
見習いもいる場所で情けない姿見せちゃったな。
いや、今のを咎めない主人はダメだろう。
やっぱり間違っていないはずだ。
「………それで、貴方は何をあんなに張り切っていたのですか」
「えっと……」
「見習い達の根性を叩き直してやるんだってぇ~」
言い淀むアルバートの代わりにジェラルドが答えてくれる、が…
「………そうですか。見習いの教育する前に、ご自分の行動を改めるのが先だと思いますが」
「うっ……」
思わず呆れてしまった。
「ソフィア様、皆の訓練の時間が遅れております」
「あ、ごめんなさい」
ヒューバートに言われ、私は下がった。
「お邪魔しましたわ」
私は騎士と見習い達に微笑み、元の場所へと戻った。
彼らは私が見学していると分かって戸惑っていたが、仕切り直しでアルバートが声を上げることで話が戻る。
「み、見習いの根性叩き直しだ! 俺が全員相手をしてやる!」
「ちょっとぉ。俺にも残しておいてよぉ~」
「じゃあ半分ずつな!」
仕切り直して2人が剣を持った。
見習い達は戸惑い、誰も動こうとしない。
相手が相手だけに、だろうけれども、おそらく1番の原因は私だ。
私の評価によって、見習いでいられなくなったら…なんて考えていそうだ。
現に私の方をチラチラ見てくる見習い達が多数だ。
「………あれじゃあ訓練にならないわね」
「そうですね」
「………じゃあ、動いてもらおうかしら」
「ソフィア様?」
私は各隊長達に視線を向けた。
視線には敏感なようで、4人が私を見てくる。
ヒューバート曰く、私の命令も聞くそうだから、試しに。
手で動くように促すと、全員が頷き、一瞬で剣を抜いてアルバートとジェラルドに向かっていった。
ギィンッとぶつかり合う剣。
「うぉ!? あ、危ねぇ!! おい! 卑怯だぞ!! 隊長が2人がかりで来るな!!」
「あはははっ」
アルバートに2人、ジェラルドに2人、突っ込んでいた。
ギリギリで受け止めることが出来たアルバートが焦る。
逆にジェラルドは2人の剣を受け止めずに避け、笑いながら逃げている。
………鬼ごっこか。
「見習いを全員相手しようとしていただろう。60人全て相手するより断然軽いだろ?」
「強さが違うだろうが!? うぐっ!!」
アルバートが1人の相手をしているうちに、もう1人もアルバートに向かい、焦ったアルバートが逃げた。
「………情けな…」
「ソフィア様」
ポツリと呟くと、オーフェスに窘められた。
はいはいすみませんでした~…
だって、あんなに自信満々に言っていたアルバートが、予想外の出来事に焦っているのだもの。
思わずざまぁと思ってしまった。
「俺が勝ったらソフィア様付きの騎士だな! ちょうどこの後やることになってたしな。早まっただけだ」
「んな!? んなことさせるか!!」
隊長の挑発にノってしまったアルバートは、ようやく反撃に出た。
………ああ、さっきのオーフェスが聞いてきた「存じてたのか」は、週1で行われている通称「ソフィア王女付き騎士入れ替え争奪戦」試合の日だということを、って意味だったのか。
納得納得……って…勝手にそんなこと決めないで欲しいんだけどね。
気心知れた者たちの方が楽だし。
…それよりアルバート……
「………単純…」
「………否定はしませんが」
おお…
オーフェスに同意されたぞ。
「ソフィア様付きの騎士は俺だ!!」
騎士の剣を押し返し、アルバートが剣を振り下ろす。
そんなに私の騎士のままでいたいのかね…?
結構私、無茶やってる自覚があるから、私の騎士なんて人気なんかないと思っているのに…
ラファエル付きの方が誇りに思うじゃない?
「俺が好き勝手出来るのは、許容してくれるのは、ソフィア様ぐらいなんだ! ソフィア様の騎士の地位は渡さねぇぞ!!」
………そんな理由!?
怒るときは怒るし、好き勝手してたら謹慎させるわよ。
………ぁ……あれか。
私がやったことがあることをやっても、咎められないという…
今までの無礼行為も何だかんだで流してたわね…
「………次からはちゃんと咎めよう…」
「そうして下さい。調子に乗りますから。散々ソフィア様に注意されてもアレですし」
オーフェスの視線が訓練場の入り口に向く。
………ですよねぇ…
私はアルバートとジェラルドを見ながら、ため息をついたのだった。
ちなみにジェラルドは、いまだ訓練場内を逃げ回っていました。




